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インディ・カー・シリーズ ノン・チャンピオンシップ戦 サーファーズ・パラダイス【決勝日】フォト&レポート

<US-RACING>

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 2008年を締めくくるオーストラリア・サーファーズ・パラダイス決戦を制したのは、3番手からスタートしたシドニー出身のライアン・ブリスコーだった。レース開始直後に2番手のディクソンをかわしたブリスコーだが、圧倒的速さを持つウィル・パワーについていくのが精一杯。ところが、17周目にパワーが自滅したため、思わぬ形でトップが転がり込む。目の上のたんこぶが消え、レース中盤はブリスコーの独壇場。終盤に周回遅れのダニカ・パトリックを抜きあぐね、残り5周でディクソンが1秒以内に詰め寄るも、シリーズ・チャンピオンからのプレッシャーをものともせず、地元で見事な今季3勝目を手に入れた。「母国で優勝できるなんて、ほんとうに素晴らしいシーズンの終わりになったよ。これ以上良いことはないね。チームを信頼していたし、僕の新しいエンジニアになったエリック(カウディン)が素晴らしい仕事をしてくれた。オーストラリアのファンの前で優勝できて最高だよ」と喜びを爆発させるブリスコー。オーストラリアでオーストラリア人が勝利する初の快挙に、観客は熱狂した。

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 惜しくもブリスコーに敗れたスコット・ディクソン。ベテランらしいスマートな走りをレース終盤まで見せるが、ブリスコーが周回遅れに引っかかり、その差が縮まるといっきにスパートをかける。ウォールをかすめるほどの猛烈なアタックでブリスコーを追い詰め、残り5周でその差は1秒を切るが、オーバーテイクのチャンスはなく、わずか0.5019秒届かなかった。「スタートがうまくいかず、シケインをショートカットしてしまったため、ブリスコーにポジションを譲る必要があったんだ。このコースはパッシングが難しいから、ポジションを譲らなくてはいけなかったのは運が悪かった。周回遅れのおかげでレース終盤はエキサイティングになったが、ブリスコーを捕えることができたかはわからない。彼がミスを犯せば、優勝できたけどね」と残念がるディクソン。レース終盤のオーストラリア生まれドライバー二人によるマッチレースは沸きにわいた。

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 2004年の優勝経験を持つライアン・ハンター-レイは、3位でフィニッシュした。スタートで幸先よくフランキッティをかわして4番手に上がったハンター-レイは、タグリアーニと表彰台の一角を争って激しいバトルを展開する。両者の戦いは最後のピット・ストップで、ピット作業を早く終えたレイホール・レターマン・レーシングが、ハンター-レイをタグリアーニより前でコースに送り出して勝負アリ。その後はタグリアーニを突き放して3位を手に入れた。「最初にダリオをパスして良いラップを刻めたけど、それからタグリアーニに引っかかってしまったね。だけどピット・クルーの素晴らしい作業で、彼の前で僕を送り出してくれた。僕はいつもサーファーズで良い成績が残せている。ここではトップ5以外になったことが一度もないんだ」と振り返るハンター-レイ。今シーズンはワトキンス・グレンでキャリア初勝利を挙げるなど、ハンター-レイにとって思い出深い年となったはずだ。

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 予選を圧倒したウィル・パワーは、決勝でもその力強さを見せつけ、スタートからわずか1周で2番手を3秒近く引き離す。余裕のパフォーマンスで逃げるパワーは、攻める走りから燃料をセーブする走りに切り替え、ペース・コントロールに入った。ところが、ペースを落としたことで間が差したのか、17周目のターン5でインサイドのウォールを軽くヒット。これで左フロントのタイヤがパンクし、右コーナーのターン6を曲がりきれず、今度は激しくウォールに激突した。なんかと自走を続けるパワーだが、マシンのダメージは深刻だったため、ターン8のエスケープ・ゾーンでストップ。そのままレースを終えてしまった。「ほんとうにがっかりしているよ。チーム・オーストラリアのマシンはとても速かったからね。スタートを見てもらえばどんなに速かったかわかるだろう。燃料をセーブして攻めすぎないようにしていたけど、ウォールのインサイドに触れてしまったら、マシンが次のターンのウォールに跳ねていってしまったんだ。人生で最悪のミスだよ。マシンが速かっただけにフィニッシュできなかったのは悔しい」と落胆するパワー。圧倒的な速さを見せながらも、念願の地元初勝利が夢と消えた。

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 今週末はコース経験者が上位を独占し、チャンプ・カー勢のベテランが大活躍。アレックス・タグリアーニは7番手スタートから4位に入り、パワーが消えたKVレーシングのセルビアは5位に入った。「チームのためにこの成績を残せてとても嬉しいよ。オーストラリアに来てチャンピオンのディクソンと戦い、ペンスキーのブリスコーともバトルしたことで、チームの力を証明できたよ」と大喜びするタグリアーニ。トップ・ファイブに送られるファイアストンからの賞金ボードを持ち、二人で記念撮影を行った。

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 コース経験がないドライバーにとって厳しい週末になったサーファーズ・パラダイスだが、チャンプ・カー勢のE.J.ヴィソが健闘し、6位に入った。レース終盤はペンスキーのエリオ・カストロネベスによる猛烈なプレッシャーにさらされながら、ベテラン顔負けの走りで抑えきり、今シーズン5回目のトップ10フィニッシュ。英オート・スポーツ誌の2008年ルーキー・オブ・ザ・イヤー獲得に向けて弾みがついた。

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 予選まで厳しい戦いを強いられていた武藤英紀は、決勝で巻き返して8位フィニッシュを果たした。スタートのもみ合いのなかで後退し、2周を終わった時点で16番手から19番手となった武藤だが、3周目から落ち着きを取り戻し、6周目にスタート・ポジションの16番手まで回復する。その後も上位陣と引けを取らないペースで快走を続け、8ポジション・アップの8位。アンドレッティ・グリーン・レーシングが苦戦するなかで、チーム・トップの成績を残し、来シーズンにつながるレースを見せてくれた。

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「今日のマシンはとても良く、戦略のおかげもあってトップに入れました。イエローが出たこともポイントになりましたし、コース上で何台かパスできたことで上位をキープできました。2年目となる2009年シーズンが待ち遠しいですね」

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 決勝日のサーファーズ・パラダイスには青空が広がった。朝から温かかったこともあって、観客の出足もよく、早くからスタンドがにぎわい出す。レース中の最高気温は26度に達し、歩くと汗ばんでしまうほどで、ビールを飲みながら観戦するには最高だった。高層ビルの合間を縫うようにしてレイアウトされているサーファーズ・パラダイスのコース。5本のストレートとそれをつなぐ高速シケインによって、平均スピードは160キロをゆうに越える。マシンのセッティングが決まらなければ、シケインであっという間にタイムを落としてしまうため、コース経験があるなしの差はエドモントンより歴然だった。

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 2008年最後のレースとなったサーファーズ・パラダイス。チャンプ・カーとインディカーの合併によって、シーズン中盤まで開催されるかどうかがはっきりしなかったためか、今年4日間の観客動員は昨年から約1万6000人減の29万7288人だった。一方レースは、オーストラリア・トゥーンバ出身のウィル・パワーがポール・ポジションを獲得し、シドニー出身のブリスコーが優勝。オーストラリアでオーストラリア人が優勝するのは、開催18年目にして初の快挙であり、訪れた観客は興奮に包まれた。いまだ来シーズンの開催が決まっていないサーファーズ・パラダイスだが、今年のレースでオーストラリアのインディ人気はいっきに火がついたはず。来年も開催されれば、さらに沢山の観客が母国ドライバーの活躍を観に来ることは間違いない。