1998年以来の開催となったニュー・ハンプシャーのレース。あとちょっと早く雨が強く降っていれば、日本人初優勝を見届けることができたのに〜、という展開で終わってしまいましたね。最後は波乱のフィニッシュとなりましたが、レースをご覧になっていたみなさんは、今回のリザルトに関してどう思ったでしょう?
今回のコラムでは、スポッターの僕から見たTakuのレース内容と、ウィル・パワーが感情をむき出しにし、競技委員長のブライアン・バーンハートに対して両手の中指を立ててしまうほどの怒りを見せたレースの結末について、考えてみたいと思います。
まずは優勝も見えていたTakuのレースですが、前回のコラムやYouTubeのレポートで「ニュー・ハンプシャーではもしかしたら、勝てるかもしれない」と断言していたとおり、この予想はあとほんのちょっとの運さえあれば、的中していましたね。
その理由として、みなさんもご覧になったようにKVレーシングのマシンはショート・オーバルでは好調で、Taku自身もショート・オーバルでのレースがだいぶ得意となってきているからです。特にコールド・タイヤでのリスタートや、高度なドライビング・テクニックを必要とする難しいコンディションでは、常に高いパフォーマンスを見せてくれています。
今回は不本意な予選8位(でもトップ10にはしっかり入っています)からのスタートとなってしまいましたが、1回目のピット・ストップを終えた時点で2番手まで浮上! このピット・ストップはチームの作業と言うより、猛烈に速いTakuのピットへのイン・ラップとアウト・ラップが、重要な鍵になっていました。
「よっしゃ〜、2位まで上がったぞ」ってことで、イエロー後はダリオ(フランキッティ)とフロント・ローからのリスタート。ニュー・ハンプシャーのコースはプログレッシブ・バンキングになっていて、一番イン側のラインはバンクがほとんどなく、ほぼフラットになっています。ダリオはバンクがあまりないイン側を避け、スタートとリスタートの際にめずらしくアウト側を選択。アウト側からトップでターン1に進入するには、抜群のスタートをこなし、イン側の選手を抑えきらなければいけません。
しかしダリオと並んだTakuは絶妙なリスタートを見せ、ダリオはそれを察知して危機感を覚えたのか、イン側のレーンに寄ってTakuにプレッシャーを与えようとしました。結果的にスタート/フィニッシュ・ラインに辿り着く前に2人は接触してしまい、ダリオはマシンを破損してリタイア。幸いTakuは軽いダメージで済み、ピットで修復作業を行い、ラップ・ダウンすることなくレースに復帰できました。
ここでルールについてのおさらいですが、今回のレース後に色んな議論をもたらしているリスタートについて、もう一度確認しておきましょう。ルール上、最初のレース・スタートだけはスタート/フィニッシュのラインを超えるまで、前車を追い越すことが禁止されているものの、リスタートに関してはグリーン・フラッグが振られた時点でレースが再開されるので、ラインを超えなくても他のマシンを追い越すことができます。
当日、スポッターの僕はレース・コントロールの無線の音量にトラブルがあり、無線によるオフィシャルの音声があまり良く聞こえていなかったので、フラッグ・スタンドの旗に集中しながらフロント・ローのペースを見極めて「グリーン、グリーン、グリーン…」とTakuに伝えていました。リスタートではこのスポッターの掛け声によってドライバーがレースを再開するので、スポッターが出すタイミングがとても重要なのです。
この時のリスタートは自分なりに絶妙な指示を出すことができて、なかなか良いリスタートになったと思います。しか〜し、グリーン直後に周りのマシンの状況を把握していると、いきなりクラッシュ発生!?! スポッター・スタンドに居た僕にとっては、まさに天国から地獄でしたね(泣)。
すぐにTakuのマシンに大きなダメージが無いことを確認し、ラップ・ダウンにもなっていないことが解りました。Takuはこのアクシデントの際にピット・インすることになりましたが、逆にこの展開が優勝につながるかもしれないと、期待しながらスポッターの任務に復帰です。
ピットのタイミングを変えたTakuは、やがて予想どおりトップに躍進。「よっしゃ〜、雨ふれ〜〜〜」って、もう何度も祈りましたよ(笑)。残念ながらその願いは届かず、ピット・ストップでポジションをダウン。雨が強くなってコーションが出たのは206周目のことでした。それでも7番手にいたTakuはレースが再開されれば、まだ十分表彰台に登れるチャンスがあったので、今度は逆に「雨よ、止め〜〜〜」って何度祈ったことか(笑)。
そうこうしているうちに、雨の状況があまり変わっていないにもかかわらず、レース・コントロールがいきなり「Going Green Next Time By」(次の周にレース再開)とアナウンス。現場に居た誰もが、「えっ?!?」っていう状況でしたが、そのままレースが再開されることになったのです。
これが最後のリスタートになるかもしれないと、神経を集中させた僕はリスタートのタイミングを見計らっていました。しかしターン4を立ち上がって加速し始めたTakuはマシンがスライドするような状態で、まったくトラクションがかかっていません。挙げ句の果てに、ダニカが目の前でスピンを喫してTakuに接触し、残念ながらTakuのレースはここで終わることになります。
問題となったのはこのリスタートで、スピンしたダニカは複数のマシンを巻き込んでしまい、特にこのクラッシュによってダメージが大きかったのは、タイトル争いをしているウィルでした。ダリオがリタイヤしていた今回、できるだけポイントを稼ぐことが、チャンピオンシップにおいてすごく重要だったのは言うまでもありません。
不適切なコンディションでのリスタートを強いられた結果、クラッシュに巻き込まれてレースが終わってしまったウィルとしては、とても納得できるものではなかったということです。また、グリーンが出たタイミングでトップにいたと主張しているオリオール(セルビア)や、2番手にポジションを上げたスコット(ディクソン)は、レースのリザルトに対して正式に抗議を申し立てることになりました。
繰り返しますがルール上では、グリーンが出た時点でレース再開となります。けれどもダニカがスピンしたのは、グリーンが出た時とほぼ同じ・・・、とすべてが微妙なタイミングだったように思います。結局のところ、オフィシャルの誤った判断でのリスタートが、多重クラッシュを巻き起こしてしまっただけに、最終リザルトはどのタイミングでのポジションに戻すかが焦点になったということでしょう。
そしてバーンハートが下した決断は、レースのリザルトを最後のリスタート前に戻すというものでした。誰もが疑問を抱いた強引なリスタートは誤った判断によるものだったと認めて謝り、リザルトをその前の順位に戻したのは、正しいジャッジだったと僕は考えています。リスタートで順位を上げたオリオールやスコットらの抗議は受け入れられることなく、リザルトが変わることはありませんでした。
ということで、次回は再びロード・コースに戻り、ソノマでのレースとなります。昨年はウィルが圧勝しただけに、ダリオとのポイント差をできるだけ減らすため、全力で戦うでしょう。ポディウム・フィニッシュを逃してしまったTakuも、得意なロード・コースで実力を発揮してもらいたいですね!! 今シーズンも残り5戦となりましたが、まだまだ表彰台に乗るチャンスはあるので、がんばってもらいましょう!!