Roger Yasukawa's

ドライバーから見えるインディ500の景色&マル秘ドライビング・テクニック!

画像開幕以来市街地とロード・コースが4戦続き、シーズン序盤は予想どおりウィル・パワーが圧倒してオーバル・ラウンドを迎えました。その最初のレースとなるのが“Month of May”、シリーズのメイン・イベントでもあるインディ500で、開催100周年記念の今年はかなりビックなイベントになるでしょう。今回はシーズン序盤を簡単に振り返りつつ、僕が一番好きなコースであるインディアナポリス・モーター・スピードウェイ(IMS)を改めて解説したいと思います。
 

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まずは開幕から4戦終わった現在のポイント・ランキングを見ると、前回のコラムにも書いたように、今年は安定して結果を残しているドライバーが上位に食い込んでいます。ポイント・リーダーのウィルは去年以上に冷静なレース運びでオーバルでも楽しみですが、逆に大ベテランのダリオ・フランキッティは、オーバルでウィルを追い越そうと考えているのは間違いありません。サテライト・チームを含めると4台体制に拡大したチップ・ガナッシ勢はデータも豊富になり、今年も打倒ペンスキーを狙ってインディ500に挑んでくることでしょう。
 

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現在のランキングで一番気になるのはTakuで、ランキング10位まで上昇してきました。トップ10に入っていることを嬉しく思う反面、ブラジルでのチームの判断ミスがなければトップ6まで浮上していてもおかしくなかったわけで、ほんとうに残念。Takuはインディに入る前にLAに寄って、一緒にランチをする機会があったのですが、とにかく悔しがっていました。チームとしては、あれだけ素晴らしい走りを披露したTakuに申し訳ないと感じているでしょうし、Takuに対する信用度は今まで以上に上がったと僕は信じています。今回のミス・プレーを乗り越え、より強いチームとの信頼関係を築いてもらいたいですね
 
昨年のKVレーシングはインディ500の前のオーバルから立て続けにクラッシュしてしまったため、チームも修復作業でアップX2でした。今年はインディ500に向けてスピードウェイ特性のマシンをしっかりと仕上げているみたいなので、どんな力を発揮するのか楽しみです! ちなみに、今年も正式にTakuのスポッターをすることが決まり、一緒に戦うことになりました!! 今年こそ良い結果を残せるよう、一生懸命サポートしたいと思います。
 

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ということで、いよいよ今週末に予選を迎えるインディ500ですが、インディアナポリス・モーター・スピードウェイ(IMS)は他のオーバルとはまったく異なり、どんなに経歴のあるドライバーでも最初に走行する時はものすごく緊張するコースです。他のオーバルは楕円形ですが、IMSは長方形なので、角を丸くした4つの直角コーナーで構成されています。それだけに、一見するとどのコーナーも単純で簡単に思えてしまうかもしれませんが、実はまったく違う顔と性格を持っているのです。
 
そこで今回は、僕らドライバーから見えるレース中のIMSの光景と、マル秘ドライビング・テクニック!?! を教えちゃいましょう! 
 

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●ターン1
IMSで一番難しく、緊張するコーナーです。メインストレートからコーナー出口まで両側にグランド・スタンドが設置されており、大きな壁に立ち向かっていくようなイメージですね。というのも練習走行と決勝では見える景色が激変し、スタンドが開放されていない練習走行時は椅子しか見えないのが、観客で満席になる決勝日はまるで違う景色になっています。スピードが乗ったスタート時になって、初めて「おお!」って感じで戸惑うことになるのです。
 
このターンで最も気にしなければならないポイントは、風向きです。フロント・ストレートを走る際に追い風、向かい風、横風かどうかを左側のパゴダ(コントロールタワー)の上にある旗で確認。それによってコーナーへの進入速度が大きく異なり、向かい風の時は楽ですが、追い風のときは進入速度が速くなるため、進入でマシンがルーズ(オーバーステアぎみ)になるので注意が必要です。ターン2からターン1にかけて風が吹く時は、クリッピングポイントで急にバランスが乱れることもあるので、とにかく風向きとその影響をしっかり把握することが絶対不可欠です。
 

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このターン1は最も事故が発生しやすく、特にダウンフォースをとことん削る予選での最初のラップはグリップ感がまったく把握できないため、ジェットコースターの急降下のように胃がモワモワする感覚になります。ここでの究極のテクニックは、進入手前でマシンを右に軽く振り、あらかじめマシンの荷重を右側にのせてから進入することです。そうすることによってマシンのバランス感覚を把握し、ハンドルをどこまで切れるかが理解できます。
 
このフィーリングをつかむ事ができない状態でターン1に進入すると、間違いなくルーズなマシンになってしまい、レースでは勝負になりません。ちなみにハンドルを切り始める場所に小さなバンプがあり、このバンプを通る際にマシンが安定していないと、クラッシュの原因となってしまいます。無事コーナーの出口が見えて一安心・・・と思いきや、たまにプッシュ(アンダーステア)がひどくなって外側ギリギリまでラインを膨らませなければならなくなるので、最後まで油断禁物のコーナーです。
 

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●ターン2
ターン1に比べて大きなグランド・スタンドはなく、外側に観客用スイートのビルが建っているだけで、比較的視界は開放的です。ターン1をクリアし、とりあえず一安心といきたいところですが、あまり油断しすぎると落とし穴がある怖いコーナーでもあります。昨年はTakuもこのターン2でプラクティス中に大クラッシュしてしまいましたが、ちょうど荷重のかかるクリッピングポイントを越えたあたりに、小さなバンプがあるのです。
 
そのバンプを超える際、ターン1からターン2にかけて突然風が吹いていたりするとマシンへの影響が大きく、いきなりビックリさせられることになります。絶対速度としては、ターン1のコーナリング時の抵抗でスピードが多少落ちているので(とはいっても−10〜15km/h程度)、スピード的な恐怖感はないものの、次の長いバック・ストレートに備えてハンドルはとにかく切らないようにし、壁スレスレのところで立ち上がるのが重要です。
 

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●ターン3
ターン1同様、ここも風向きを把握することが大事です。スタンドは外側にしかないので、内側の視界が良いせいか、ターン1と比較すると安心して進入することができます。フィーリング的にはターン1と似たような感じで進入するものの、路面はターン1に比べてスムーズ。できるだけ路面とタイヤの抵抗を減らすため、ハンドルの舵角を減らしながらのコーナリングを心がけます。
 
単独走行中のターン3でのクラッシュは少なく、マシンの向きが変わった時点で安心して外側の壁ギリギリに向かっていきます。この時にできるだけ早くマシンを真っ直ぐに向け、ターン4に辿り着くまでにスピードをのせることが大切です。レース時はターン3が重要なパッシング・ポイントで、ターン3への進入でパスするだけでなく、その先のターン1でパスするためにここでタイミングを見極めなければなりません。ターン1はただでさえ難易度の高いコーナーなので、比較的気持ちに余裕があるターン3でレース攻略のリズムを作るという感じです。
 

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●ターン4
IMSでは一番簡単なコーナーと言ってもいいでしょう。とにかくターン3からのスピードをできるだけ殺さないように意識して走ることがポイントです。予選時は壁スレスレに立ち上がる必要がありますが、レース時はマーブル(タイヤ・カス)に乗らないように気をつけないと、ちょっとした不注意でクラッシュの原因となってしまいます。
 
特に、ピットへ向かうドライバーがイン側でスロー・ダウンしている際、アウト側から追い越そうとしてマーブルに乗ると、まるで吸い込まれるかのように壁に直進してしまいます。一番簡単なコーナーだけに落とし穴があるというか、なんだ、結局すべてのコーナーで油断できないということですね(笑)
 

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ということでIMSのマル秘テクニック!?! みなさん楽しんでいただけたでしょうか。僕自身、5年連続でインディ500を走りましたが、毎日、コース・インする時は緊張しました。でもそれはIMSの歴史と伝統も感じていたからだと思いますし、この偉大なスピードウェイは、僕が一番好きなコースです。
 
記念すべき100周年を迎える今年のレース、いったい誰が制するんでしょう?
 
う〜ん、コースを解説したら、また乗りたくなってきた〜!