Roger Yasukawa's

オーバルのスポッターって何をやる人?(後編)

画像前編に続き、今回は無線でどんな風にドライバーへ情報を伝えるのか、スポッター用語を簡単に説明したいと思います。まず、他のクルマが内側にいる時は“Inside”や“Car Low”と言い、外側にいる時は“Outside”や“Car High”と伝えます。3ワイドになった時は、必ず“3 Wide !”と強調することによって、自分がロー、ミドル、ハイのどのレーンで走っていても、今3ワイドになっていることを認識させます。
 
ずっとサイド・バイ・サイドで走っているような時は、“Inside…………Inside..….Inside..INSIDE !”といった感じで、言葉のテンポやテンションで相手のクルマとの距離を伝えます。何十周にもわたってサイド・バイ・サイドで走っている場合は、“Still There….Still There…”という風に、“まだ居るよ〜”と表現を変える場合もあったりします。
 

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後ろから速いクルマが追い上げてきた時は、それがマシン10台分の距離に接近してきた場合“10 back”と言い、5台分まで近づいたら“5 back”、真後ろまできたら“Right behind you”(真後ろ)と伝えます。後ろのクルマが自分を追い越そうとする際には“Looking Inside”や“Looking Outside”と言い、どちらのレーンから追い越してくるかを伝えます。相手が様子を伺っているだけで、追い越すまでいかないようなときは“Just looking…”と言って、要するに“見てるだけ〜”ということですね(笑)。
 
スポッターの力が発揮されるのが、スタートとリスタートの時です。特に後ろの方からスタートする場合、フロント・ロー(最前列)のクルマはだいぶ先に行ってしまっているので、自分が第4コーナーに突入する前にグリーン・フラッグが振られてしまいます。そのような時はドライバーに、スタートやリスタートのタイミングを指示するのが重要となってきます。
 

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このスタートのタイミングも、やはり言葉のテンポや強弱をつけてドライバーに伝えるのですが、“Get Ready”や“Pick it Up”を使い、少しずつ早く喋ってテンポを調整しながらグリーンが出るまでのペースを指示。グリーン・フラッグが振られた瞬間に“Green Green Green ! ”と言うんですけど、そこまでのペースの取り方がまた難しい。先週末カンザスでスポッターをするのが久しぶりだったので、うまいタイミングで指示を出せずにTakuはだいぶ戸惑ったかも・・・。
 
スポッターの言葉で一番重要なのは“Clear!”。これは相手をパスしたり、パスされた後に発する言葉で、レーン・チェンジをしても良いということを伝えます。特に、相手をパスした後にタイミングよく大きめの声で“Clear !”と言えば、ドライバーは次の獲物を狙いに行くような高いテンションをキープできたりするのです。
 
各ドライバーとも自分にあったスタイルや好みのサウンドがあると思うのですが、ドライバーとスポッターがどんな状況でもうまく噛み合わないと、オーバル・レースで良い結果を出すのは難しいと言っても過言ではありません。自分で言うのも変ですが、経験豊富なドライバーがスポッターに抜擢されることが多いのはそのためであり、ドライバーは安心してレースに専念できるのです。スポッター・スタンドにはインディ500を何度も制したリック・メアーズやアリー・ルイエンダイクら大御所ドライバーもたくさんいるので、新米スポッターの僕もがんばらないと!!
 

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さて、最後にスポッターから見たカンザスのTakuの走りですが、初めてのオーバル・レースとは思えないほど、良い走りをしていましたね! ずっとアグレッシブな走りでトップ8が確実なポジションにいただけに、クラッシュをしてしまったのはほんとうに残念。すでにレポートしたとおり、目の前がぱっと開いて行けるような状態でも、行ってはいけないタイミングや場所というのがオーバルのレースではあるのです。僕もルーキーの時は痛い思いをしましたし、今回のクラッシュでTakuも多くのことを学んでくれたのではないでしょうか。
 

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彼が素晴らしかったのはピットをする際のアウト・ラップとイン・ラップがメチャメチャ速かったことです! これを武器に使えば、ピットをする度に必ず順位を上げることができるでしょう。アグレッシブに走った場合のリスクを常に念頭に置きながら、コース上でバトルをする時のペース配分やタイミングを考えて戦えば、トップ5フィニッシュの常連になるのは間違いないと思っています!
 
ヒデキもずっと上位争いを繰り広げ、今年の日本人両選手はオーバルでの結果が期待できそうですね! 僕もスポッター・スタンドからレースに参加していましたが、やっぱりマシンに乗らないと身体がムズムズしてしまいます。インディ500はもう2週間後ですが、現場ではTakuのスポッターをやりながら、シートを獲得するチャンスを探っていきたいと思います!!