最終戦を終えてから大きなニュースが無かったインディカー・シリーズですが、今月初旬にビッグ・ニュースがありました。前回のラジオでも紹介しましたが、来季からアパレル・ブランドのIZODがインディカー・シリーズの冠スポンサーになることが決まったのです。この合意によって来季からシリーズの正式名は、“IZODインディカー・シリーズ”(IICS)に変更されます。
このニュースはシリーズだけでなく、参戦するすべてのチームやドライバーにとっても良い知らせとなりました。インディカー・シリーズが冠スポンサーを獲得したのは、2001年のNorthern Lightというサーチ・エンジン会社以来のこと。IZODが冠スポンサーになったことによって、新たなマーケティング戦略やプロモーションが展開するでしょうから、インディカー・シリーズの人気が全米で向上すると期待されています。
個人的にもIZODが冠スポンサーとしてついたのは、素晴らしいことだと思います。この不況の中でもプロモーションの活用ツールとしてパートナーを組むことを決意したのは、それだけのバリューがインディカー・シリーズにあるとIZODが経営判断したからでしょう。車業界に関連していないメーカーが参入して来たことは、レース界にとってうれしいニュースです。
IZODとインディカー・シリーズのパートナーシップは、実は昨年からすでに始まっていて、今年はシリーズのオフィシャル・ウェアーとしてインディカー・シリーズに関わっていました。ライアン・ハンター-レイをイメージ・キャラクターとしてパーソナル契約を交わし、今年からはアメリカの有名デパートであるMACY’Sとタイアップして、様々なプロモーションを続けていたのです。
日本ではあまり馴染みがない冠スポンサーですが、つくことでシリーズにいったいどんな影響を及ばすのか、今回はそのスポンサーシップ・プログラムについて紹介したいと思います。
ここ数年シリーズはタイトル・スポンサーなしという状態でしたが、CARTの頃は自動車塗料会社のPPGや物流会社のFedExが冠スポンサーでしたね。冠スポンサーになる企業の一番大きなメリットは、すべてのレース放映、サーキットでの場内放送、メディア媒体などでシリーズ名が紹介される時に、必ずブランド名も一緒に紹介されるということです。
単純にテレビCMの枠を購入するよりは、コストパフォーマンスが高いとIZODは判断したのでしょう。IZODはインディカー・シリーズのタイトル・スポンサーになるにあたって、年間数億円の契約を複数年交わしたと発表しています。具体的な金額や期限は公表されていませんが、噂では約10億円×5年間ではないかと言われています。IZODとしては冠スポンサーになることによって得られる露出が大きいと確信したのではないでしょうか。
僕が思うに、ここ数年で購買年齢層が上がってしまったIZODのブランド・イメージを、インディカーを使うことで若い世代にアピールする戦略かもしれません。現にMACY’Sで販売されているIZODのインディカー・シリーズのオフィシャル・ウェアーは、従来のIZODの商品とは異なり、ポロシャツのカットやラインは比較的タイトでヤング&スポーティ向けに仕上がっています。
一方のシリーズとしても、冠スポンサーがつくことによって、色々な面でプラスになることがあります。一番ポジティブな面としては、IZODを通して様々な小売店でのプロモーションに携わることができるので、これまでとは違う新たなファン・ベースが開拓できるでしょう。また、フル参戦するチームにとっても、冠スポンサー料から分配される“Team Enhancement Allocation Matrix”(参戦援助金)の配当も増えるようなので、まさにインディカーのコミュニティにとってはグレートなニュースだと言えます。
みなさんはレースのスポンサーと聞くと、なんとなくイメージ的にはお金を支払ってブランド名を露出するという部分が、一番最初に頭に浮かぶのではないでしょうか。しかしレーシングカーが“走る広告塔”と言われていた時代はとっくに過ぎてしまい、今はスポンサー=ビジネス・パートナーという時代になっています。
例えば今年のチャンピオン・チームであるターゲット・チップ・ガナッシ・レーシングが良い例で、ターゲットはスポンサーであると同時にチームの株主でもあり、まさにパートナーと言える形態です。全米に展開する日用雑貨のスーパーであるターゲットは、チームのレース資金を集めるために店内で販売している取引先のメーカーと交渉し、レース支援金として資金を集めます。
ターゲットは各メーカーに協賛してもらうことによって、マシンへの露出プラス店頭販売でのプロモーションや、商品をレジの側であったり、目の行きやすい配置に商品を陳列する約束をします。取引先メーカーとしては、売上げが伸びる期待も同時にできるので、まさに一石二鳥となるのです。
IZODはインディカーのパートナーとして、今後もビジネスが発展する事を望んでいます。タッグを組む事によって、オンラインでのプロモーションや店頭販売を活気づけるだけでなく、インディアナポリス・モーター・スピードウェイの100年の歴史をうまく活用すれば、よりスポーティなブランド・イメージを構築できるのではないでしょうか。IZODが行うプロモーションのアイデアの一つとして、抽選でインディアナポリス500のレース前に2シーター・インディカーの同乗走行など、インディ・ファンにとってはうれしい企画が盛りだくさんあるようです。
それにしても、日本でIZODの販売/輸入元が無いのは残念ですね。IZODのようにインディを活用して、色々とプロモーションを精力的に行う企業がもっと増えて欲しいなと思う今日この頃。
この1年間でたくさんの日本車メーカーがレースから撤退してしまい、今はものすごく大変な時期です。しかし一生懸命探せば、IZODのようにレースに興味を持っている会社はまだあるのだなと、この発表によって自分も勇気づけられました。
長年続いたインディカー・シリーズとチャンプカー・シリーズの分裂によって、低迷していたアメリカン・オープン・ホイール・レース。“IZODインディカー・シリーズ”となる来年は、ぜひ飛躍の年になって欲しいと期待します。