Roger Yasukawa's

インディ・ジャパンで実現したヒデキとの走行&独自のエアロに挑んだガナッシ

画像10月に入ってロサンゼルスもだんだん涼しくなり、空が秋の色になってきました。いよいよ今週末のホームステッドでのレースで、インディカー・シリーズの最終戦となります。前回と前々回のコラムでは、僕自身のレース・レポートをしましたが、今回はいつもの目線で今年のインディ・ジャパンを振り返ってみたいと思います。
今さら言うまでもなく、今年のインディ・ジャパンはチップ・ガナッシの圧勝でしたね。スコット(ディクソン)とダリオ(フランキッティ)はまるで別世界で戦っているようにも感じられました。決勝ではニューマン/ハースの2台に先を越されてしまいましたが、KVレーシングのマリオ(モラエス)も目立った走りをしていました。ブラジル移民が多いマイアミの最終戦でも、マリオは台風の目となりそうです。

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今回のレースは僕も実際に走っていたので、周りのマシンがどんな動きをしていたのか、じっくり見ることができました。まずは練習走行からやたらと遭遇する機会が多かった、ヒデキについて。彼は初日の出だしから僕よりも速いスピードで走っていましたが、ターン3〜4の進入を見ていると、なかなかクリップ(コーナーの最も内側のライン)につくことができず、マシンが思いどおりに動いていないように見えました。コーナー進入時にハンドルをズバッときれずに、コーナーの真ん中からは“どアンダー”というような感じだったのかなと想像できます。
そんな中で、予選ではギリギリのところまでダウンフォースを削り、一か八かで勝負に出たヒデキは偉い! 結果的にはクラッシュで終わってしまいましたが、彼のチャレンジング・スピリットを改めて実感することができました。もともとポテンシャルが高くないマシンのダウンフォースをギリギリに削ってしまうと、このようなアクシデントが起きるリスクは極めて高くなるのですが、日本のエースである彼はそれでも勝負しなければならない理由があったのだと思います。160Gの衝撃を受けながら、あの程度のダメージだけで済んだことは、ラッキー以外に考えられませんね。もしヒデキに何かあったら、日本人の初優勝がまたしばらくお預けになるところでした。

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ヒデキとは予選だけでなく、決勝でも一緒に走る機会がありました。スタート直後に抜かれてしまいましたが、最初の30ラップは確実に僕の方がマシン・バランスは良かったと思います。実際、レース前半にヒデキがターン1〜2の区間で前のマシンのドラフト(スリップ・ストリーム)に入っている時、突然クルマの挙動が乱れて一瞬スピンしそうになったのです! もちろん僕はそのタイミングを見逃さず、バック・ストレートでヒデキをオーバーテークすることができました。
レース後半も、なぜかヒデキを追っかけるシチュエーションに遭遇。ダンパーを修復してからは僕のマシン・バランスがさらに良くなっていて、徐々にヒデキのリア・ウィングまで近づく事ができたのですが、ちょうど追いついた時点でレースは終了。インディという最高峰の舞台で、互いに競い合えるマシンで一緒に走ったのは今回が初めてでした。ポジション争いをしたわけではないものの、彼を昔から弟のように可愛がってきた僕としては、なんだか初めて息子と一緒に晩酌する気分でしたよ!?! いつも一緒に飲んでますけど・・・(笑)

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さて、今回の主役となったチップ・ガナッシの2台ですが、予選前に各マシンがグリッドに並んだ時に、ひととおり他のマシンのセッティング・チェックを行いました。そのとき目にしたのが、ガナッシの2台だけは、他のチームと異なった空力セッティングに挑んでいたのです。もっと早くチェックできれば良かったというか、さすがに自分もレースに参戦していると、なかなか他チームのマシンをチェックできませんよね。
まったくの予想外というか、「あ、なるほど。これは気がつかなかった!」というセットだったのですが、時すでに遅し・・・。予選が終わると、その後は決勝になってしまうので、この時点からのマシンの大幅なセッティング変更は、かなりリスクが高いものとなってしまいます。と言うより、ここまで空力セッティングが異なるマシンにするということは、コンセプトそのものが違うマシンになるということ。さすがにテストをしないで決勝前にこれだけの変更をするのは、ほぼ不可能だと言っていいでしょう。
今シーズンのケンタッキーから採用された空力パッケージのルール変更によって、ダウンフォースを増加することが可能になったため、どのようにダウンフォースを増やすかが各チームの課題となっていました。その中でほとんどのチームは、ダウンフォースに対してドラッグ(抵抗)が少ないと言われる、効率の良い空力パーツを付け足すような空力セッティングを目指していたのです。

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ところがガナッシの2台はあえて、効率性が悪いと言われている大きめのフロント・ウィング・ガーニーや、アンダー・ウィング・ウィッカーを装着していました。これらの空力パーツはドラッグが多いものの、ダウンフォースを増やすことに対しては確実性のあるパーツで、まさにロード・コースのようなサーキットでは頼りになるパーツなのです。
要するに、ターン3〜4区間をいかに減速せずに脱出するかを考えると、バンク角度が少ないツインリンクもてぎではロード・コース的なセットが必要だと考えたのではないでしょうか。もちろん、ダンパー・セッティングや車高、その他の細かいセッティングのバランスがすべて噛み合ったことによって、素晴らしいバランスのマシンができあがったのだと考えられます。
効率性が良くないと思われていたパーツを、大胆に使ったセッティングを採用することができたのは、チームのエアロダイナミシストの絶対的な自信があったからだと言えるでしょう。ちなみに、ガナッシのエンジニアリング部隊を統括しているのは、インディ界で天才エアロダイナミシストと言われているアンディー・ブラウン。パンサー・レーシングをチャンピオン・チームに仕立て上げた大御所エンジニアです。
レース直前に各マシンをチェックすることはできなかったので、彼らが決勝で走ったエアロに関しては何とも言えませんが、基本的に予選から大きくセットを変えてはいないはずです。今年のツインリンクもてぎで予選から圧倒的な速さを見せたのは、ベースにある空力セットのコンセプトが良かったからであり、それは予選時のセットを見れば十分に納得できるものでした。

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ガナッシがワンツー・フィニッシュで最終戦のホームステッドへ突入することになった一方で、ペンスキーの2台にとっては散々なレースだったように見えます。エリオ(カストロネベス)は予選中にクラッシュを喫してしまい、猛烈な追い上げを見せることなく10位フィニッシュ。ライアン(ブリスコー)はチャンピオン争いをしているなか、絶妙なタイミングでイエローが出て素早くピットで作業を終わらせたのですが、ピット・ボックスを出た際にハーフ・スピンをして壁にヒットしてしまいました。
レースを見ていて、「何であんな所で・・・」と思った方も多いと思いますが、もてぎのピット・ボックスのコンクリート路面と、ピット・レーンのアスファルト路面のグリップ・レベルはまったく違い、まさに天国と地獄くらいの差があります。実は僕も最初のピット・ストップ後に、横からピットに入って来たスタントン(バレット)のマシンとの接触を避けようとして、路面の境目の所でアクセルを踏み込んだらスピンしそうになったくらい。チャンピオン争いをしているドライバーとしては、絶対に犯したくないミスだったと思います。ライアンは今回のミスを最終戦で挽回しなくてはなりませんね。
今年のインディ・ジャパンはダウンフォースを増やすことができるようになったことで、例年以上におもしろいレースになったと思います。後ろを走っていても以前よりマシンの安定感が向上していると感じました。しかし全体的にダウンフォースが増えた分、さらにフロント寄りにダウンフォースを増やさないと、アンダーステアーが酷くなるという症状に悩まされたマシンも多かったような気がします。その点で、今回はガナッシの2台が一歩上をいっていたということでしょう。
結果的にガナッシの活躍が目立ったレースではありましたが、実際に過去のレースと比べると、ダウンフォースが増えたことで全体的にオーバーテーク・シーンが多くなったと感じませんでしたか? 「なかなか追い越せない」と言うドライバーのフラストレーションが減ったことによって、全員が果敢に攻める走りをしていたように思います。上位勢が周回遅れをクリアしながらバトルするシーンは迫力満点で、日本のファンのみなさんも、これぞインディといったスリリングなバトルを満喫していただいたのではないでしょうか。

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今週末のホームステッドは、今まで開幕戦として行われていたコースで、今年から春ではなく秋の開催となります。2007年からナイト・レースになり、熱帯気候のイメージが強いマイアミですが、実はこの時期になると夜はだいぶ涼しかったりします。去年のレースのデータがどれだけ活きるか、気になるところですね。
インディ・ジャパンが終わってから、複数のチームがホームステッドやインディアナポリスでテストを行い、最終戦に向けての準備は万端のようです。ホームステッドは1.5マイルのハイバンク・オーバル。もてぎをおもしろくしたルール変更は、ケンタッキーやシカゴランドで再びインディカーらしい団子状態のサイド・バイ・サイドのバトルを復活させているだけに、今回も最終ラップまで目が離せませんよ!
そして何よりも、ヒデキにはインディ・ジャパンの鬱憤を晴らすような、悔いの残らないレースを最後にして欲しいです!