前回に続き、第47回デイトナ24時間の合同テストでの話題について書かせていただきます。今回は、有力チームの最新情報と、レースの展望を僕なりに予想してみようと思います。
前回のコラムでは、合同テストで上位タイムをたたき出したチームを中心にレポートしましたが、今回はレースの優勝予想をしてみたいと思います。
デイトナ24時間レースは今年で47回目を迎える、伝統と格式あるビッグイベント。その長い歴史の中で、唯一三連覇を果たしたチームが、チップ・ガナッシ・レーシングです。昨年、ファン-パブロ・モントーヤ、ダリオ・フランキッティ、スコット・プルーエットのトリオで圧勝し、史上初の3年連続優勝を飾ったのを覚えているファンの方も多いのではないでしょうか。モントーヤとプルーエットは一昨年のレースも制しており、目下2年連続優勝中ということになります。当然ながら、今年のレースの焦点は、「誰がチップ・ガナッシを止めるのか?」に尽きます。しかし、合同テスト2日目に正式発表されたチーム体制を見たら、「やっぱり今年もガナッシか?」と思わされしまうほど、大物ドライバーがズラリと並びました。
今年は、01号車と02号車の2台のライリー・レクサスを走らせることが発表されました。メインスポンサーには、おなじみのターゲットとテレメックスが“ジョイント・メインスポンサー”としてチームを支えます。資金力もエントラントの中では随一で、申し分ないチーム体制が整ったというわけです。そして、注目のドライバー体制ですが、現在2年連続デイトナを制覇している01号車には、昨年のグランダム王者コンビ、プルーエット&メモ・ロハスにモントーヤが加わる超強力布陣。02号車には、2007&2008年のIRL&インディ500王者のスコット・ディクソンとフランキッティによる“インディカー・チャンピオン・コンビ”に、2007年のインディ・プロ・シリーズ(当時)王者アレックス・ロイドを加えたラインアップ。オープンホイール組で固めたといえますね。ディクソンにとっては2006年以来3年ぶり2度目、フランキッティにとっては昨年に続き2年連続優勝を狙うレースとなります。ちなみに、ロイドを除く5人すべてがデイトナ24時間レースの優勝経験者。スピードはもちろんですが、24時間レースの戦い方を誰よりも熟知しているドライバーが揃ったわけです。まあ、ものすごいラインアップとなったものです。
テストでの走りを見ていても、かなり余裕をもって走行していましたね。目先のタイムを追わずに、レースを想定してのセットアップとロングランを中心にプログラムを進めており、さすがは王者チームと思わず唸ってしまいましたね。経験という面でみると、01号車の方が優勝に近いのかなぁと感じますね。ただ、今回の合同テストで僕が一番注目したのがディクソン。2日目にセッション最速タイムをマークするなど、かなり乗れているように見えました。デイトナではここ2年、決して満足いく結果を残せてなかったのですが、昨年IRLの王者に輝いた自信がそうさせるのか、自信溢れる表情を見せていたのが印象的でした。もちろんモントーヤも健在で、01号車のなかでは3日間で一番長い時間ステアリングを握り、走りこんでいましたね。毎年レースで見せてくれる圧巻の“トリプル・スティント”を、今年も見せてくれそうですし、今から楽しみです。チーム体制、ドライバーの実力、そしてテストの結果を総合すると、どう控えめに見てもチップ・ガナッシの四連覇が濃厚と言わざるを得ませんね。
とはいっても、ライバル勢も黙って指をくわえてチップ・ガナッシの独走を見ているわけではありません。なかでも今年一番注目したいのが、ペンスキーです。昨年、35年ぶりにデイトナ24時間レースに帰ってきたペンスキーが、今年は本気で優勝を狙ってきています。ペンスキーは今年から、長年のパートナーであるポルシェと共に、アメリカン・ル・マン・シリーズからグランダム・シリーズへ戦いの場を移し、シリーズに初めてフル参戦することになったのです。昨年ALMSでアキュラとの壮絶な争いの末、LMP2クラス王者に輝いたポルシェのファクトリードライバー、ロメイン・デュマとティモ・バーンハードがドライバーを務め、ライリー・ポルシェをドライブすることになります。デイトナ24時間では、ここにインディカーのライアン・ブリスコーが加わり、チップ・ガナッシ勢に優るとも劣らない強力ラインアップが結成されます。
昨年は、デイトナ参戦を決断したのが遅かったため満足な体制にはなりませんでしたが、今年はじっくり時間をかけて準備をしてきたこともありチームは自信満々。テスト3日目に行われた記者会見では、チーム首脳とドライバーが共に“優勝”の二文字をはっきり明言していたあたりに、十分な準備ができていることを物語っていると思いましたね。ただ、当初2台体制と見られたにも関わらず、参戦体制は1台のみに。「スポンサーの関係もあるが、NASCARのプログラムに支障がきたしたくなかったため1台体制となった」とチーム・プレジデントのティム・シンドリックがコメントするなど、当初の予定からやや軌道修正していることを示唆していましたね。24時間レースで1台体制というのはたしかにディスアドバンテージになるでしょうが、昨年も同様に1台体制で3位に入っており、それほど心配することはないのかと思います。インディカー開幕前に、早くもライバルの2チームによるガチンコ対決が見られそうです。
注目度という点では上記2チームにはやや劣るものの、確実に優勝争いに加わってきそうなのがマイケル・シャンク・レーシングです。グランダムの常連でもあるマイケル・シャンクは、今年も2台体制でデイトナ24時間に挑むことが合同テスト初日に発表されました。同チームに関しては前回のコラムで触れているのでそちらを参照してほしいですが、特にA.J.オールメンディンガーを中心とした6号車は大いに注目したいですね。
また、一昨年のシリーズ王者アレックス・ガーニー&ジョン・フォガティに、NASCAR王者ジミー・ジョンソンを加えた99号車も当然優勝争いに加わってくるでしょう。昨年はチップ・ガナッシの01号車に続く2位を得て、今年に賭ける意気込みは並々ならぬものがあります。特にジョンソンは優勝に貪欲で、「2位は最高の“敗者”。何とかして優勝したいね」とコメントするほどやる気十分。2006年にデイトナ500を制覇しており、もうひとつのビッグレースを制し、名実共に“デイトナ・マスター”となるかどうかも、今年のレースの見所になってくるでしょう。
合同テスト開催中には、ダニカ・パトリックが参戦することも発表されました。ダニカにとっては2006年以来2度目の参戦となります。「ほんとうは、昨年も、一昨年もこのイベントに出場したかったんだけど、いろいろとあって難しかった。でも今年は、所属するAGRがALMSにアキュラで出場しないことになったので、このレースへの出場が可能になったのよ。あと、インディカーの開幕戦が去年に比べて遅くなったのも理由のひとつね。シーズンオフが長くなってしまったので、一度レース勘を取り戻したかったから、出場が可能になってすごくうれしいわ」と、参戦に至った経緯を語っていました。ダニカの出場は大きな注目を集めることになるでしょうから、レースオーガナイザーから見れば大歓迎といったところでしょう。気になる参戦チームは、前回出場したときと同じハワード−ボス・モータースポーツですが、昨年NACARのトップチーム、リチャード・チルドレス・レーシングと合体しチルドレス−ハワード・モータースポーツとしてパワーアップ。NASCARの大物オーナー、チルドレスがチームに参加するわけですから、当然優勝を狙ってくることは確実。ただ、シャシーはエントラントでは唯一の使用となるクロウフォードで、実際テスト中もタイムが伸び悩んでいました。また、ダニカ自身も久々のグランダムのドライブに戸惑っている様子で、トップタイムから3秒以上も遅れるなど、不安を残した結果となっていましたね。ただ、チームメイトにはデイトナを3度制したベテランのアンディ・ウォレスや、NASCARのケイシー・メアーズらが加わっており、何かを期待させてくれそうな予感を感じさせますね。
果たして今年はどんなレースを見せてくれるのか? 前人未到、チップ・ガナッシの4連覇が達成されるのか? ペンスキーが止めるのか? それとも意外な伏兵が出現するのか? 第47回デイトナ24時間のスタートが切られる1月24日午後3時30分が、ほんとうに待ち切れないです。