Nobuyuki Arai's

ストック・カーに苦悩するオープン・ホイール勢と別格のあの男!?

画像今シーズンのNASCAR開幕前最大の話題は、一気に押し寄せてきたオープン・ホイール出身ドライバーでした。しかし、その注目度とは対象的に大苦戦。なぜ、オープン・ホイール組はストックカーでこれほどまで苦しんでしまったのでしょうか?

画像

 ある程度の苦戦は予想していたものの、まさかこれほどまで散々たる結果になってしまうとは僕も正直思いませんでした。2008年シーズン開幕前、ダリオ・フランキッティ、ジャック・ビルヌーブ、サム・ホーニッシュJr.といった歴代インディ500王者が続々とNASCAR参戦を表明し、オープン・ホイール出身ドライバーは話題の中心にいました。“新勢力台頭”、“彼らはどこまでNASCARで通用するのか?”といった記事が連日話題に上り、“既存勢力”との対決の行方を全米中が注目していたのです。しかし、いざ蓋を開けてみるとトップ争いどころか、予選通過もままならない状況に陥り、シーズン途中でNASCARを去るドライバーも出れば、チームを解雇されるドライバーも現れるなど、まさに散々。オープンホイール界で一時代を築いた彼らの実力は、そのままストックカーで反映されることは最後までありませんでした。インディカーを中心としたオープン・ホイール・レースを長年取材してきた僕にとっても、非常に残念な結果になってしまいました。

画像

 オープン・ホイール組がここまで苦しんだ理由はいくつかあると思いますが、一番大きな要素は彼らがストックカーのドライビングスタイルになかなか馴染めなかったことではないかと僕は思います。去年、NASCARにフル参戦デビューを飾ったファン-パブロ・モントーヤにインタビューをしたとき、「まずはこれまでの自分のドライビングスタイルをすべて見直す必要があった」と言っていたのを思い出します。オープン・ホイール・マシンは、前後のウイングと車体の底で巨大なダンフォースを発生させ、マシンそのものも強力なメカニカルグリップが存在します。そこにタイヤによる大きなグリップが加わることで、コーナリング時で4〜5Gとも言われる巨大なコーナリング・フォースを伴って走行します。つまり、マシン全体に強力なグリップがあることを前提にドライバーは走行をするわけです。しかし、ストックカーはオープン・ホイール・マシンに比べるとダウンフォース量はごくわずか。「まるでグリップのないタイヤを履いて氷の上を走行しているようだ」(モントーヤ談)という状態での走行を強いられるのです。強力なダウンフォースを最大限活用するグリップ走行に慣れているオープン・ホイール・ドライバーにとって、これを克服するにはかなりの時間が掛かっているようで、それがそのまま結果に表れているように思います。
 また、レース距離の長さも要因と思います。先のテキサス戦でホーニッシュJrが「このレース距離には正直まだ慣れていない。3〜4時間もの時間を常に集中するのは思っていた以上に難しい」と語っていました。オープン・ホイール・レースの通常走行距離は300マイルで2時間くらい。一方のNASCAR最高峰スプリントカップは、400〜500マイルで3〜4時間と長丁場。この辺の調整も難しいものになっているようです。また、43台という出走台数ゆえに、常にトラフィック中の走行を強いられることも、オープン・ホイール組には慣れが必要だったと思います。周囲が思っている以上に、ストックカーへの転向はかなり難しいものになっているようです。

画像

 近年、NASCARのオープン・ホイール組の先鞭をつけたのは、もちろんモントーヤでした。マクラーレンとの契約を解除し、F1を去ったモントーヤがNASCARにやってきたのは2006年シーズン中盤。そして昨年から、チップ・ガナッシ・レーシングのダッジを駆ってフル参戦を開始したことで、世界中のオープン・ホイール・ドライバーがNASCAR転向を視野に入れはじめたのです。同年には、フォーサイスからの巨額契約を蹴ったチャンプ・カーのヤング・スター、A.J.オールメンディガーがレッド・ブル・レーシングのトヨタ・カムリのステアリングを握ってNASCARに転向。そして今シーズン、モントーヤのチームメイトとしてインディカーを去ったフランキッティがNASCARへの転向を発表し、同じく2006年のインディカー・シリーズ王者&インディ500王者のホーニッシュJr.もペンスキーからNASCARへの本格参戦を開始。また、BMWザウバー F1のシートを追われたジャック・ビルヌーブも1995年以来久々にアメリカに戻ってきて、次なる挑戦の場をNASCARに求めたのです。同じカナダ人のパトリック・カーパンティエはダッジの強豪ジレット・エバンハム・モータースポーツのシートを手に入れるなど、オープン・ホイール出身の大物が続々とNASCARに戦いの場を移してきたのです。
 しかし、ご存知の通りフランキッティは成績不振と、チームのスポンサー不足に陥り参戦を断念。その後、古巣インディカーへ戻ることに。カーパンティエも予選落ちやリタイアが続き、第30戦タラデガ後にチームを解雇されてしまいました。ビルヌーブに至っては、開幕戦デイトナ500の予選レースでクラッシュして出場を逃すと、メイン・スポンサーが見つからずそのまま参戦継続が困難な状況になってしまいNASCARを去ることに。オールメンディンガーも成績不振からレッド・ブル・レーシングとの契約を解除され、その後カーペンティアの抜けたジレット・エバンハムのダッジ10号車のシートを今季終了までドライブすることが決まりました。チーム移籍後はトップ10フィニッシュを繰り返すなどかなり復調してきているとはいえ、来シーズン以降のシートは未定の状態です。結局、最後まで残ったのはモントーヤとホーニッシュJr.のみ。ただ、ホーニッシュJr.も開幕戦デイトナ500ではトップ争いを展開するなど見せ場を作ったものの、その後は目立った活躍が出来ず、最終戦を前にしてオーナー・ポイント・ランキングは37位。来シーズンの開幕5戦で予選免除の特権を得られる35位以内に入るのはかなり厳しそうな状況です。

画像

 そんなオープンホイール組の苦戦が如実になってきている中で、モントーヤだけは別格です。フル参戦2年目の今シーズンはここまで期待されていた成績を残せていませんが、それはチームの戦闘力不足が原因なのは明らか。そんな戦闘力の落ちるクルマにも関わらずレースによってはトップ争いを展開することもしばしばありますし、特に1.5マイル以上のハイ・スピード・オーバルと、デイトナ&タラデガのリストリクター・プレート・レースでは毎戦優勝まであと一歩まで迫る走りをみせています。ストックカーのレースにもかなり慣れてきているようで、来シーズンはクルマの戦闘力次第ではオーバルでの初優勝も十分狙えると思います。個人的には、今のモントーヤにヘンドリックやラウシュといったトップ・チームのクルマで走らせてみたいですね。恐らく、NASCARのトップドライバーとそん色ない走りを見せてくれると僕は思っています。やっぱりモントーヤは別格だなぁと、改めて思ってしまいました。

画像

 オープン・ホイール組の苦戦が続くNASCARですが、来シーズンはマックス・パピスがジャメイン・レーシングのトヨタ・カムリでスプリントカップ参戦が決まるなど、オープン・ホイール組のNASCAR挑戦の流れは途切れていません。しかし、チャンプカーと統合した新生インディカーシリーズがスタートしたことで、今年ほど移籍が活発化されることはないと思っています。とはいっても、NASCARの存在は北米ではやはり巨大ですから、今後も意外な大物の参戦が明らかになる可能性も十分考えられます。今後も注目していきたいですね。