IRLへの電撃復帰が発表されたばかりのダリオ・フランキッティが、今度は今月末のサーファーズ・パラダイスにチップ・ガナッシのマシンで一足早くコースに復帰することが明らかになりました。1年ぶりとなるインディカーで果たしてどのような走りを見せてくれるのか、今から楽しみです。
ノー・ポイント・レースとして行われるサーファーズ・パラダイス戦は、来シーズンを占う試金石になるかもしれません。チャンピオンシップ・シーズン終了後にチーム移籍を発表した何人かのドライバーは、移籍先のチームから参戦することになりそうだからです。ダン・ウェルドンは移籍したパンサー・レーシングからの参戦が発表済みで、AJフォイトへ移ったヴィットール・メイラも新チームからの参戦が実現する可能性があります。しかし、一番の注目は、やはりフランキッティの参戦に他ならないでしょう。最終戦シカゴランド前に電撃的なIRLへの復帰を発表したフランキッティにとっても、来シーズンを前に新天地で1戦走れるわけですから、腕慣らしという意味でも大きなアドバンテージがありますし、何よりおよそ1年ぶりとなるオープン・ホイール・マシンのドライブを実戦で経験できることは大きいはずです。
それにしても、フランキッティのIRL復帰にはほんとうに驚かされました。昨年IRLでチャンピオンを獲得後、「オープンホイールでやり残したことはない」とばかりに新たなチャレンジとしてNASCARへ転向。参戦チームは長く所属していたAGRのライバルチーム、チップ・ガナッシ・レーシングだったことも、大きな話題となりました。1周2.66マイルのタラデガで、ストックカーのステップ・アップ・カテゴリーであるARCAでストックカーデビューを飾ったのがつい昨日のことのように感じられますね。実際、僕はこのレースを取材していたのですが、当時のフランキッティを見ていると、新しいおもちゃを与えられた子供のように、とにかく楽しそうな表情をしていたのが印象的でしたね。その後は、マーティンスビルでクラフツマン・トラック・シリーズに挑戦し、ブッシュ・シリーズ(当時)にも参戦してストックカーの走りを学習していったのです。あくまで翌年からの本格参戦を見据えての学習がテーマだったことから、本人も成績に関しては特に気にしていなかったようですが、個人的には現場で見ていて、「かなり苦戦しているなぁ」と思いましたね。
マシンのメカニカルグリップと、タイヤの強烈なグリップを持つオープン・ホイール・マシンとは違い、ストックカーはダウンフォースがほとんどないといっても過言ではないほどのクルマ。とにかくクルマがルーズということで、ここがオープン・ホイール出身ドライバーを多く悩ませている点なんです。以前、ファン-パブロ・モントーヤにインタビューしたとき、「まずは自分の今までの走りを否定することから始めなければならなかった」と語っていたように、そのドライビング・スタイルがストックカーでは180度異なるのです。これをいかに適応させていくかが、成功のカギになってきます。モントーヤも昨年はかなり苦労していましたが、今年はターンの走り方を見ているとかなりアクセルを踏めるようになっていて、さすがの適応力だなぁと思いますね。肝心の成績が上向いていないのは、今年のチップ・ガナッシのクルマがまったく戦闘力が劣っているのは明らかで、果たしてモントーヤがトップチームのクルマをドライブしたらどのような走りを見せてくれるのか、すごく興味深いですね。話は逸れましたが、モントーヤ同様にフランキッティがどのようにストックカーのドライブに適応していくのかは注目でした。フランキッティといえば、ツーリングカーやスポーツカーなどなど、インディカー・シリーズの中でも最も経験豊富なドライバーでしたからね。しかし、さすがにストックカーは土俵が違ったか、昨シーズン中、一度も印象に残る走りが見られませんでした。
最高峰スプリント・カップへのフル参戦を開始した今シーズンに入っても上位に顔を出すことなく、ときには予選落ちも繰り返すほど。悪いことは重なるもので、5月のタラデガでのネイションワイドのレースでクラッシュし、左足を骨折してスプリントカップを4戦も負傷欠場する羽目に。そして、復帰後3戦目のインフィネオンでまさかの予選落ち。得意のロードコース戦での予選落ちはフランキッティ自身もかなり落胆したでしょうし、この時点で僕は「ダリオのストックカーでのキャリアは終わったかな」と漠然と思ってしまいました。その後、フランキッティの40号車の資金不足が露呈し、結局シーズン途中でチームは解散。40号車に関わったクルー70〜80人は解雇という、かなり厳しい状況となったようです。フランキッティはチームに残り、オーナーのチップ・ガナッシも「ダリオが再びレースに出場できるように全力でスポンサーを探す」と言っていましたが、そのレースはストックカーではなく、何とインディカーになってしまったわけです。
結果から見れば、「規定路線でしょ?」と思われるかもしれませんが、じつは現場でフランキッティのインディカー復帰という話はほとんど聞かれていませんでした。それほど、突然の発表だったので、とにかく驚きましたね。ただ、たしかにこれがフランキッティにとっても、そしてインディカーにとっても一番良い選択になったことは間違いありません。フランキッティはオープンホイールではもちろんビッグネームですし、ファンを呼べるドライバーでもあります。今年からチャンプカーと統合して再び輝きを取り戻したインディカーシリーズは、以前とは違い、多くのオープン・ホイール・ドライバーにとって魅力的なシリーズとなっています。フランキッティという大物がそこに加わることで、シリーズ全体がさらにエキサイティングなものになってくるでしょうし、チャンプカー勢とのロードコースでの争いも非常に興味深いですからね。
CART時代を知るフランキッティにとって、サーファーズ・パラダイスは何度もレースをした馴染みのある場所。モントーヤと壮絶なタイトル争いを展開した1999年にはここで優勝を飾っているほどです。ディクソンとのインディカー版ドリームチームがどのように機能するのか、興味深い1戦となることは間違いありません。いきなり優勝、なんてことも十分考えられそうですね!