今シーズン初のロードコース戦となったIRL第2戦セント・ピータースバーグ。オーバル未経験だったチャンプカー組にとっては、自分たちの実力を知らしめる格好の舞台となりましたが、彼らの意気込みどおり、IRL組と白熱したバトルを展開し、本当に素晴らしいレース内容となりました。そして、グラハム・レイホールの歴史的優勝。チャンプカー組の潜在スピードをまざまざと見せ付けられたレースとなりました。
「さすがはロードコース・マスター!」。まずはチャンプカー組全員にこの言葉を送りたいです。ロードコースでの事前テストはセブリングのショートコースのみで、まさにぶっつけ本番と言ってもいい状況だったにも関わらず、初日のプラクティス走行からそんな不利を感じさせないほど好タイムを連発。走り始めのプラクティス1回目からジャスティン・ウイルソンがいきなりの挨拶代わりのトップタイムを記録すると、2日目の予選でもQ2に12台中5台もチャンプ・カー勢が占めます。最終的にポールポジションこそトニー・カナーンに譲ったものの、ウィル・パワーとウイルソンが2-3番グリッドをゲット。パワーがQ2で出したベスト・タイムは、予選全セッションを通じての最速ラップとなるおまけつきでした。ダラーラ&ホンダのマシンはもちろん、セント・ピータースバーグの市街地コースも走り慣れているIRL組のトップドライバーと、まるでそん色ない走りをしていたのは非常に印象的でした。「速いドライバーはいつ、どんな場面でも、速いんだ。この結果に別に驚いてなんかないよ」と、予選後にカナーンが記者会見で語った一言が、すべてを物語っていましたね。このクラスのドライバーになると、初乗りや初コースといった不利な状況を覆すだけの潜在スピードがあるということです。北米最高峰オープン・ホイール・シリーズに相応しい、見ごたえある走りだったと言えます。
決勝レースはもちろんですが、僕が週末を通して一番興味深かったのは予選セッションでのチャンプカー組の動きでした。ご存知の通り、このレースからF1などで使われている“ノック・アウト方式”の予選が採用されました。IRL組は従来のシングル・カー・アタックに慣れきってしまっていたのか、限られた時間内でトラフィックをうまくさばきながらタイムを出すことに、かなり戸惑っていたようでした。特に象徴的だったのは武藤英紀の27号車。武藤にとってはインディカー・シリーズ初のロードコース戦でしたが、AGRはいわずものがなIRLのチャンピオン・チームです。クルマも十分なスピードがあり、武藤自身もコースに徐々に慣れていたにも関わらず、予選Q1でまさかの敗退。これは、チームがニュータイヤの装着時期と、アタックのタイミングを完全に逸した結果だと言えます。武藤も、「ニュータイヤを履いて出て行くのが遅すぎたため、最後にトラフィックに引っ掛かって挽回できなかった」とコメントしているように、作戦が完全に裏目に出てしまったようです。一方で、チャンプカー組はこういったトラフィック内でどうやってタイムを出すのか、いつコースインするべきなのかというノウハウがあり、結果的にクルマの絶対スピードで劣るものの、Q2には5台が進出。初物尽くしで本来は不利になるはずだったチャンプカー組が、去年までの経験を最大限に生かし、そして見事結果に結び付けたのです。結果だけではなく、セッション中のピット作業は見ていて本当に興味深かったですね。
さて、注目のレースは雨で大荒れになったものの、優勝はグラハム・レイホールが弱冠19歳93日で優勝。2年前にマルコ・アンドレッティがインフィネオンで樹立した19歳167日の記録を破る史上最年少優勝という、歴史的快挙となりました。このグラハムの優勝も、裏を返せばニューマン/ハース/ラニガンの巧みな作戦によって成し遂げられたものだったのです。雨により規定の100周ではなく、2時間ルールが適用されたこのレースで、グラハムはピットストップを2回のみで乗り切り、結果的にこれが見事に功を奏しました。一方で、2-3位に入ったエリオ・カストロネベスとトニー・カナーンは3度のピットストップを行っています。特にトップ集団につけていた序盤で給油のみのピットストップに入ったのは、結果として失敗だったと言えそうです。チームの作戦勝ちということもさることながら、グラハム自身の走りも非常に印象的でしたね。特に終盤、カストロネベスが迫り、加えて燃料をセーブしないといけない状況にもかかわらず、最速ラップを連発して突き放した走りは、“気がついたらボビー”と言われるほど終盤の猛チャージに定評があった父ボビー・レイホールを髣髴とさせる走りでした。これでまだ19歳なんですから、チャンプカー参戦わずか1年にして、末恐ろしいドライバーに成長したものです。ニューマン/ハース/ラニガンも、北米オープン・ホイールのトップ・チームに相応しいレース運びを見せてくれました。経験がモノを言うオーバルではまだ多少時間はかかるでしょうが、ロードコースでは今後もIRL組との直接対決がすごく楽しみになってきました。