Nobuyuki Arai's

オープンテストが解禁!ホームステッドで2008年のIRLを占う

画像 IRLの2008年シーズン最初の公式オープンテストがホームステッドで行われ、いよいよ新シーズンがスタートしました。チャンプカーとの統合後、初の記者会見もあって熱気に溢れたテストとなりましたが、今年最初の合同テストでもあることから他チームとの比較などの戦力分析をする上でも非常に興味深いテストとなりました。今回は、そのテストを見て僕なりに今シーズンの行方を占ってみたいと思います。

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 ホームステッドは言わずと知れた開幕戦の舞台。シーズン最初のレースで結果を残すのと残さないのではその後に大きな影響を及ぼすことは必死です。また、今シーズンの全16戦中同じ1.5マイルオーバルは最多の6戦もあることからも、今回のテストの重要さがわかろうというもの。特に、インディ500までの開幕4戦中じつに3戦が1.5マイルオーバルでのレースとなります。“変形オーバル”とも言えるツインリンクもてぎは多少趣を異にしますが、それでもスタートダッシュには1.5マイルオーバルをいかに克服するかがカギになることは明白です。そういう意味でも、各チームにとっては非常に重要なテストとなったのです。

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 2日間で行われたテストですが、各チームのプログラムを見ていると、主に陽が出ている明るい時間帯には燃料タンクを軽くして走行する予選用を、ナイトセッションにはロングランを含めた決勝用を試していたようですね。開幕戦がナイトレースですから当たり前といえば当たり前ですが、この2セッションで結構結果が異なっていたのが非常に印象的でした。その中で、一番順調に仕上がっていたなと思わせたのがチップ・ガナッシの2台。ダン・ウェルドンは初日総合でトップタイムを叩き出し、2日間総合でもチャートのトップにつける好調ぶり。自身も今年6月に結婚することもあって、今シーズンに掛ける意気込みが伝わってきました。スコット・ディクソンも2番手につけ、総合でもガナッシが1−2。早くもマシンが仕上がっていることを印象付けていました。ただ、「レーストリムではペンスキーの方が一歩上を行っているみたいだ。特にエリオ(カストロネベス)は速いね。僕らはまずは彼らに追いつくためにさらにやるべき仕事が多そうだよ」とウェルドン自身がコメントしているように、ペンスキー勢もさすがの仕上がりぶり。新加入のライアン・ブリスコも2日目に2番手につけるなど早くもその実力をアピール。元F1テストドライバーだけあってロードコースでは抜群の速さを見せるブリスコですが、オーバルでも安定した走りを見せれれば、タイトル争いに間違いなく絡んでくることでしょう。今回のテストの結果からも、今年もこの2チームが選手権をリードしていくことは確実とみていいでしょうね。

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 一方、昨年のチャンピオンチーム、AGRも上々のテスト結果だったと見ていいでしょう。「僕らは予選セットを試すためにここでテストしているわけじゃあない。レースで勝てるクルマを作るためにここに来ているんだ」とマルコ・アンドレッティが言うとおり、テストのほとんどを決勝用セットアップに費やしていたようです。特にマルコは2日目のセッション2ではロングランも試していたようで、タイムには現れないデータ取りができていたようです。4台体制のアドバンテージを生かして、各マシンがまったく異なるセットアップを試して、そこで得られたデータを持ち合ってセットアップを続けていくAGRらしいテストが今回も行われていました。

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その4台中最速だったのがダニカ・パトリック。初日は体調不良で欠席したものの2日目にトップタイムをマークし、総合ではガナッシ勢に次ぐ3番手。特にテスト終了間際にディクソンと見せたドラフティング合戦は迫力満点でクルマもかなり仕上がっているようです。「今までのレース人生でテストを欠席なんてしたことがなかった。それなのに、復帰してすぐにトップタイムなんてなんだか変な気分よ」とダニカ自身もまずは満足できる内容だったようです。ダニカは今オフ、米名物雑誌スポーツイラストレイテッドの水着特集で大胆なグラビアを披露して話題になっていましたが、トラックに戻ってもきっちり仕事をしたあたりはさすがでした。念願の初優勝も十分狙える体制が整っているようです。

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 最後は我らが武藤英紀について。結果を見ればマルコのひとつ上を行く総合8番手。予選用、決勝用とも様々なセットアップを試していたようで、まずは実り多い内容となったようです。ただ、本人は「60点くらい」とかなり厳しく採点していました。「予選のシミュレーションをやったときに思ったほどタイムが伸びなかった。それに、上とは1/1000差かもしれませんが、僕にとってはこれは非常に大きな差です」とコメント。目先のタイムに一喜一憂するのではなく、まずは自分に何が足りないのかを考える武藤を見ていると、目指すべきゴールが非常に高いところにあることを実感させられましたね。AGRというビッグチームで走っていることがそうさせているのかもしれませんが、とにかく常に上を意識するあたり、武藤の成長ぶりが見られました。顔つきもかなり精悍になってましたし、目つきもインディ・プロ・シリーズで戦っていた昨年に比べて非常に力強いものを感じました。「今年はヒデキにとってルーキーイヤーだし、あんまりプレッシャーをかけるつもりはない。現実的には来シーズンが勝負の年になるだろう」とチームオーナーのマイケル・アンドレッティは記者会見で語っていましたが、武藤の表情を見ていると、彼が今シーズンに掛ける意気込みが如実に伝わってきました。周りが思っている以上に、武藤自身が自分にあえてプレッシャーをかけているようにも見えましたね。チームメイトともうまく行っているようで、特にマルコとはテスト走行前のフォト撮影のときもお互いを笑わせあうなどいい関係を作り上げているようです。マイケル同様、僕らメディアもあんまりプレッシャーをかけたくはないですが、でもやっぱり期待せずにはいられませんね。日本人ドライバーがまだ見ぬ“優勝”という二文字の実現を。