いよいよ開幕したNASCAR開幕戦『デイトナ500』。注目の決勝レースは1週間後ですが、その前に恒例のエキシビション・レース『バドワイザー・シュートアウト』が行われました。本番レースを占う上でも格好の試金石となることから注目されるレースを制したのは、NASCAR人気ナンバー1ドライバー、デイル・アーンハートJr。まさに復活Vといえる劇的なレースでした。
『バドワイザー・シュートアウト』(通称バドシュート)は、今年で30回目を迎えるNASCARのシーズン幕開けを告げる名物エキシビション・レース。出場は「昨シーズンのポール・ポジション獲得者」、「同レースの歴代優勝者」に限られ、今年は23人がその出場権を得ました。バドワイザーが、NASCARのポール獲得者に送られる『ポール・アワード』のタイトル・スポンサーであることから、1998年に改称されたこのレース。しかし、今シーズンからはバドワイザーが『ポール・アワード』のタイトル・スポンサーを降りて同じビール大手クアーズに代わるため、この名称で行われるのは今年で最後となります。レース・フォーマットは20周の第一スティントと、10分間のインターバルを挟み行われる50周の第二スティントに分かれています。とはいっても各スティントで優勝者を出すのではなく、トータル70周で優勝が競われます。予選グリッドは前日にくじ引きで決められ、今年は2004年スプリント・カップ王者カート・ブッシュが栄えあるポールポジションにつき、レースが行われました。
さて今年のレースは、“ヘンドリックvsトヨタ勢”のガチコン対決で大いに盛り上がりました。7度のカップ王者に輝いた伝説の故デイル・アーンハートの息子で、NASCAR人気ナンバー1のアーンハートJrが、その亡き父が創設したデイル・アーンハート・インク(DEI)を継母テレサとの確執から飛び出し、シボレーの最強チーム、ヘンドリック・モータースポーツに移籍した今シーズン。2年連続王者ジミー・ジョンソン、4度のカップ王者ジェフ・ゴードン、そしてインディ500を4度制したリック・メアーズの甥ケイシー・メアーズとのラインアップは文句なしにNASCAR最強チームです。スプリント・カップで通算17勝しているにもかかわらずチャンピオン獲得経験はなく、昨年はチーム内のゴタゴタもあり未勝利と屈辱のシーズンを過ごしたアーンハートJrにとっては、最強チームに移籍した今季はドライバーしての真価が問われるシーズンになります。移籍によって代名詞だったカー・ナンバーも8から88に変更され、スポンサーもバドワイザーからマウンテンデュー&ナショナルガードに変わり、心機一転して向かえた初レースが、この『バドシュート』でした。これを迎え撃ったのが、何とスプリント・カップ2年目のトヨタ勢。今季からカムリにスイッチした強豪ジョー・ギブス・レーシングの2度のカップ王者トニー・スチュワートと期待の若手デニー・ハムリン、そして昨年エースとしてトヨタ勢を引っ張ったビル・デイビス・レーシングのデイブ・ブレイニーがタッグを組んで、最強ヘンドリック勢と激しいトップ争いを演じたのです。
1周2.5マイルのデイトナはスピードを抑制するためにリストリクター・プレートが搭載されるレースです。そのため、全車の最高スピードはほとんど互角になるため(厳密にはエンジンのパワー差は出ますが)、勝負のカギは「誰と協力して走行するか」に掛かってきます。注目されたのはアーンハートJrとスチュワートの関係です。昨年まではリストリクタープレートレースではコース上でお互いが協力し、タッグを組んで強豪ヘンドリック勢に対抗していたのですが、今年からアーンハートJrはそのヘンドリックに加入。スチュワートはトヨタに移籍と状況が大きく変化したため、コース上での関係がどのように変化するのかが注目されました。案の定、アーンハートJrはゴードン&ジョンソンらのチームメイト同士で“ヘンドリック・ライン”を形成。一方のスチュワートは、ブレイニーを交えての“トヨタ・ライン”を作り、最強ヘンドリックに対抗するという、非常に興味深いレースが展開されたのです。トヨタは昨年、同じリストリクター・プレートのタラデガでブレイニーが3位に入り、事前テストでも好タイムを連発しておりそれなりに期待はしていたのですが、実際のレースでもこれだけのパフォーマンスを見せるとは、正直驚きましたね。2年目のトヨタの実力は本物と見て間違いなさそうです。
そのレースは、終始この“2ライン”が内と外に分かれてトップ争いを展開する状況が続きましたのが、残り2周でアーンハートJrが抜け出し、そのまま押し切ってチェッカー。自身2003年以来2度目の『バドシュート』優勝となりました。エキシビションレースではありますが、アーンハートJrにとっては2006年のリッチモンド以来のビクトリー・レーン登場となり、喜びを爆発させていましたね。元々リストリクター・プレート・レースは通算7勝と滅法強く、かつては“リストリクター・キング”と呼ばれたほど。破れたスチュワートが「リストリクター・プレート・レースで史上最強だった父から多くを学んだジュニア(アーンハートJrの愛称)がここで強いことはわかっていたよ」とコメントしたとおり、最強チームに移籍してかつての強さが戻ってきた感があります。チーム移籍最初のレースでいきなり結果を残すあたり、さすがはNASCAR人気ナンバー1ドライバー。大観衆で埋まったスタンドが熱狂していたのは言うまでもありません。それにしても、アーンハートJrの人気のすさまじさを改めて実感させられたレースでありました。
さあ、今週はいよいよ“本番”です。50回目の記念レースとなる今年の『デイトナ500』、アーンハートJrが勢いそのままに2度目のデイトナ500制覇を成し遂げるのか? ヘンドリック勢が制圧するのか? フォード&ダッジの逆襲があるのか? 注目のオープンホイール出身ドライバーの活躍は? そして、トヨタの初優勝が達成されるのか? 見所満載の『デイトナ500』決勝は、17日の現地時間午後3時30分にスタートします。