Nobuyuki Arai's

トヨタのネクステルカップ初年度

画像 前回、前々回に続き『NASCAR・2007年シーズン・レビュー』について触れてみたいと思います。3回目の今回は最終回として、「トヨタのネクステルカップ初年度」というテーマで書かせていただきます。
 2007年シーズンNASCAR最大の注目は、前回触れたファン-パブロ・モントーヤの参戦と、トヨタのネクステルカップ&ブッシュ初参戦でした。このふたつに共通している点は「脱アメリカ」ということ。「アメリカ人の、アメリカ人による、アメリカ人のためのレース」であるNASCARに、コロンビア人のモントーヤがドライバーとして、そして日本のトヨタがマニュファクチャラーとしてNASCARの最高峰ネクステルカップにフル参戦を開始した今シーズンは、NASCARの転換期として今後語られていくことは間違いないでしょう。

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 トヨタのNASCAR挑戦は、何も今シーズンから始まったことではありません。2000年に下位カテゴリーのNASCARグッディーズ・ダッシュ・シリーズから参戦を開始し、2004年にNASCARの3つの全米シリーズのひとつ、クラフツマン・トラック・シリーズに全米で販売されているタンドラで参戦。3年目の2006年にはドライバーズとマニュファクチャラーズのダブルタイトルを獲得した。ひとつずつ時間をかけながら段階を踏んでいき、そして今シーズン、念願叶って最高峰ネクステルカップと、第2のシリーズ、ブッシュに外国自動車メーカーとしては史上初めてフル参戦を開始させたのです。米国自動車メーカーのみしか参戦を認めていなかったNASCARが初めて外国自動車メーカーのトヨタに門戸を解放した意義は非常に大きいと言えます。
 トヨタがいきなり最高峰ネクステルカップに参戦せず、下位シリーズから参戦を開始したのは、もちろんNASCARの意向もありますが、それと共に多くのNASCARファンの反感を交わすことも目的としてあったことは疑いようがありません。前述したように、「アメリカ人の、アメリカ人による、アメリカ人のためのレース」に外国自動車メーカーが土足でいきなりずかずかと踏み込んできたら、ファンはもちろん、関係者にとってもおもしろいわけがありません。まずは下位シリーズから参戦し、NASCARのレースを覚え、ファンに認められてから徐々にステップアップを果たすというトヨタのやり方は非常に賢い方法だと思いますし、実際ファンの反感もかなり薄らいだと思います。事実、開幕戦のデイトナ500ではトヨタに対して大きなブーイングなども起きませんでしたし、その後もファンがトヨタに対して何かネガティブな行動を取ったことは僕が取材した中では一度も見られませんでした。全米に工場を建設して多くの雇用を生み出し、一般車の販売ベースでもフォードと2位を争いっているほどアメリカ市場に浸透しているトヨタのブランド力の表れともいえるのではないでしょうか。

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 さて、そのトヨタのネクステルカップ初年度ですが、大方の予想通り非常に厳しいものとなりました。3チーム7台のチーム体制中2チームが新チームということも影響して、毎戦のように予選落ち車両が出る戦いに。特にシーズン序盤は、トヨタ関係者も「ライバル勢に比べて車両、エンジン共に完全に力不足」と認めたほどの厳しい戦いとなっていました。それでもトヨタのNASCAR活動の最前線TRD-USAを中心に開発を続け、終盤になってようやくパフォーマンスが向上。ハイライトは第30戦タラデガで、トヨタのエースともいえるデイブ・ブレイニーがタイトル争いを展開していたシボレーのジェフ・ゴードン、ジミー・ジョンソンに次ぐ3位でフィニッシュしました。これにはトヨタ関係者が本当に喜んでいましたね。タラデガはデイトナと共にNASCAR唯一のリストリクタープレートレース。来年の開幕戦にしてシリーズ最大のイベントであるデイトナ500に向け、非常にいい結果となったといえます。結局、トヨタ勢の最高位はこの3位で、ポールポジションは第17戦ニューハンプシャーでのブレイニーと、そのタラデガでのマイケル・ウォルトリップの2度。苦しんだルーキー・シーズンでしたが、この経験が来シーズン以降に生かされていくことでしょう。

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 一方で、ブッシュは初年度から2勝を挙げる活躍。これには素直に喜んでいるのかと思えば、「本来ならもっと勝てたはず」とトヨタ関係者からは予想外のコメントが。なぜなら、ブッシュで使用しているエンジンはクラフツマン・トラック・シリーズのそれとまったく同じものだからです。つまり、トラック・シリーズで実績のあるエンジンなのだから、車両が変わっても戦闘力はあると踏んでいたというわけです。しかも、この2勝はいずれもネクステルカップのトップドライバーが不在だったレースで挙げたものだったため、トヨタ関係者が完全に満足できなかったのも納得できます。とはいっても、毎戦のようにトップ争いを展開していましたし、僕はルーキーシーズンにしては非常にいい活躍だったと思います。
 トヨタのNASCAR参戦により、今後他の外国自動車メーカーが参入してくるのかは今の時点ではわかりませんが、その可能性を示したことは確かです。歴史を作った1年目が終わり、2年目には果たしてどのような活躍を見せてくれるのでしょうか、トヨタの今後の活躍を期待したいです。