Nobuyuki Arai's

ジョンソンVSゴードンで盛り上がった2007年のNASCAR

画像NASCARの2007年シーズンがようやく終了しました。全36戦……世界広しといえども、年間にこれだけのレース数を行うのは、メジャーレースシリーズでは間違いなく最多。ほぼ毎週のようにレースが行われているんですから、改めて大変なシリーズだと思わされます。僕は今シーズン、全部で12戦に取材に行きました。数字上では3レースに1戦ということになります。特に6週連続で開催された最終6戦は全部行ったものですから、さすがに疲れましたね。でも、全戦取材に来ているいわゆるレギュラー報道陣も多くて、彼らのパワーには毎回本当に驚かされます。

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 さて、その2007年シーズンは、シボレーのトップチーム、ヘンドリック・モータースポーツのジミー・ジョンソンが、チームメイトのジェフ・ゴードンとの壮絶なマッチレースを制して、昨年に続いてネクステルカップ王者に輝きました。2年連続のタイトル獲得は、1997〜1998年にゴードンが達成して以来、実に10年ぶりのという快挙。シーズン10勝も、ゴードンが13勝をマークした1998年以来となる二桁勝利。そして、シーズン終盤に達成した4戦連続優勝も、そのゴードンが1998年に達成して以来という、まさに記録尽くめのチャンピオン獲得となりました。4度のタイトル・ホルダーでもある偉大なゴードンを直接対決で下しての戴冠は、ジョンソンにとっても特別なものだったに違いありません。

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 ジョンソンのタイトル獲得は、シリーズ終盤の怒涛の4連勝に尽きます。NASCAR版プレーオフともいえる最終10戦でチャンピオンが決まる『チェイス・フォー・ネクステルカップ』に入ってからは、序盤の4戦でゴードンが早々と2勝し、その時点でランキング2位だったジョンソンとの差は68点。ゴードンがこのままの勢いで5度目のチャンピオンを獲得することを誰もが疑っていませんでした。今年のゴードンは全盛期に見せたライバルを圧倒する走りが完全復活し、予選でも決勝でもまったく手がつけられないほどの強さでした。何せ、『チェイス』に入る直前にはランキング2位に317点もの大差をつけており、従来のポイントシステムだったら文句なしでシリーズ王者になっていたほど。2連勝を飾った第31戦シャーロットのチェッカー直前には、あまりのゴードンの強さに、ある現地メディアが「Save the Chase!(『チェイス』を誰か救って!)」と大声で叫んでいたのが非常に印象的でしたね。その声が響いたのかどうかはわかりませんが、それを救ったのがジョンソンだったわけです。

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 ジョンソンは第32戦マーティンスビルでゴードンとのマッチレースを制してシーズン7勝目を飾ると、その後はアトランタ、テキサス、フェニックスと破竹の4連勝。ゴードンも3位、7位、7位、10位とタイトルを取るには十分すぎるほど上位に顔を出していたのですが、さすがに4連勝はまったくの計算外だったのでしょう。最終戦のレース後の記者会見でゴードンは、「僕はもうそんなに若くないから、毎戦攻めまくる戦い方ではなく、自分が今どのような走りをしないといけないか計算しながら走ってしまう。それでも結果は十分過ぎるほどだったと思うのだが、ジミーたちは信じられないほどアグレッシブに攻め続けた。この違いが結果に現れたのかもしれない」と語っていました。絶好調のゴードンを持ってしても、ジョンソンの走りはまったくもって予想外のパフォーマンスだったわけです。

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 ジョンソンとゴードンの直接対決は現地アメリカで連日連夜スポーツニュースで取り上げられ、大いに盛り上がりました。それは、このふたりがただのチームメイトという関係を超越していることに起因しているのだと思います。スタジアム・ダート・トラックで名を馳せていたジョンソンは、NASCARに新天地を求めたものの満足なシートを得ることができず、2001年のシーズン中にジェフ・ゴードンにアドバイスを求めたことからふたりの関係がスタート。その後、ゴードンがジョンソンの才能を見抜き、チームオーナーのリック・ヘンドリックに掛け合い、自分も共同オーナーとして48号車に乗せたことからジョンソンのNASCARキャリアが始まったのです。ジョンソンにとってゴードンは、NASCARへの道を切り開いてくれた恩人であり師匠でもある存在。それゆえに、「正直、ジェフとのマッチレースは非常にやりづらかった」とジョンソンはタイトル決定後のチャンピオン記者会見で微妙な胸の内を吐露していましたね。それでも、「個人の成績というよりは、すべてはチームのため」という信念はお互いに変わらず、タイトル争い真っ只中でもマシンのセッティングの方向性を話し合うなど、ヨーロッパの“どこぞのレース”ではまるで考えられない仕事の進め方をしていました。とはいっても、ひとたびレースが始まればお互いクルマをぶつけ合うこともいとわないほどのハードバトルを展開。こういったふたりの密接な関係が、タイトル争いをさらに面白くさせていたのです。話題探しに必死のメディアからは、「タイトル争いがふたりの友人関係に影響を及ぼすことはないか?」というちょっぴり意地悪な質問が毎戦のように飛び交っていましたが、そんなことはまるで関係なし。ジョンソンが優勝したレースでは、ゴードンが必ずビクトリーレーンまで足を運び、お互いに健闘を称えあうのはNASCARではおなじみのシーン。スポーツマンシップにのっとった、本当にすがすがしい戦いでした。
 全盛期を彷彿させるパフォーマンスを見せ史上3人目の5度目の王者獲得を目指したゴードンと、それに真っ向から挑み、そして下したジョンソン。2007年は、NASCAR史に残る素晴らしいシーズンとして今後も語られていくはずです。