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●昨年の第101回インディ500の撮影は奇跡だった!?
昨年のインディ500では日本人初優勝を目の当たりにすることができましたが、26年目となる今年の5月は、僕にとってもう1年忘れられないものになりました。
今年のインディ500に合わせて第101回インディ500写真集を作ることになり、クラウドファンディングで印刷費を募ったところ、原稿料やデザイン、翻訳料といった他の製作費まで賄えるほどの資金を集めることができました。
正直これほど多くのみなさんに興味を持ってもらえるとはまったく予想していなかったので、申し込みへの対応や質問の返答などに時間を要することになり、制作が大幅に遅れて予選に間に合わなくなってしまったのです。
急遽デザイナーを追加し、連日の徹夜でなんとか無事に完成させることができ、製本屋さんから出来たての写真集を引き上げてインディアナポリス入りしたのが決勝前日。雨が上がったばかりのスピードウェイに、21時過ぎに到着しました。
ホテルへ移動して横になったものの時差ボケで午前2時に目覚め、そのまま起きて5時にスピードウェイに戻ってパスをピックアップ。メディアセンターでカメラを準備し、最初に撮ったのがパゴダをバックに朝日が出てくるところでした。
いよいよスタートが近づき、さあ撮るぞと気合を入れて臨んだものの、昨年のウィナー佐藤琢磨選手はまさかの46周でリタイア。最初のピットストップ以外、フェンス越しにしか単独の走りを撮影できていなかったので、しばらくの間放心状態になったのは言うまでもありません。
それでもなんとか気持ちを立て直し、初優勝のウィル・パワー選手をしっかりと撮影できたのはほんとうに良かったです。最後のスティントでオリオール・セルビア選手やステファン・ウィルソン選手がリーダーになりましたが、それまであまり撮影できていなかったのでドキドキでした。いつものことですが、インディ500は恐怖との戦いでもあります。
今年は翌日のウィナー撮影も含めて、二日間だけの慌ただしい撮影になってしまったのですが、今回は新しい試みとして決勝中にメインストレートのグランドスタンドからスローシャッターで撮影してみました。けっこういい感じかなと思いますが、いかがでしょう。
もちろん、今年も昨年以上の撮影を目指したわけですが、レース展開や運にも大きく左右されると改めて思いました。昨年はスポッターの隣の屋根の上に移動するタイミングと、佐藤琢磨選手が中盤トップを走ったタイミングがうまく合い、リードするシーンやロールバーのLEDに1を表示させた26号車を撮影できました。
その時の順位を表示するLEDはフォトグラファーにとってほんとうに厄介なもので、当然のことながらクライアントは1が表示されている写真を求めてくるだけに、かなり辛いものがあります。今年からLEDがなくなって少しキレそうになったものの、実は内心ほっとしてたりして…(笑)。
写真集の編集後記にも書きましたが、昨年のレース中はまさか最後に勝つなんて思ってもいなかったので、今振り返ると偶然その撮影ポイントにいたことや、限界のシャッタースピードに挑んでうまく撮れたのはほんとうに幸運だったというか、奇跡的なものすら感じていました。
今年撮影していて、なかなか昨年のように撮れるものではないとあらためて感じましたし、まるで勝つのが最初から解っていたようなクオリティやバリエーションがなぜ昨年は撮れてしまったのか、今思うと不思議です。まさか写真集まで作れるなんて、やっぱり奇跡?(笑)
デジタルによってインディ500の分業撮影はどんどん進み、今年オフィシャルは15人、AP通信は40人ものフォトグラファーを用意していました。僕のように移動しながら撮影するフリーランスのフォトグラファーは効率の面や、決定的瞬間を逃すリスクだけでなく、オフィシャルやメーカーによる無料の広報写真配信が全盛の中で減少する一途です。
今回NHKが8Kのカメラを持ち込んでいましたが、それが主流になればスチールそのものが完全に駆逐されるかもしれません。現在すでにフルHDのロボット・カメラが数台いて、オペレーターが遠隔操作していますが、その映像から切り出した動画や静止画はWebなら十分に賄える時代に入っています。あ、8Kの前に4Kでノックアウト?
第100回と101回の写真集やこのサイトのフォトギャラリーを見て、もし後世にもフォトグラファーがいるとしたら、当時の撮影スタイルに興味をもってもらえると嬉しいなぁと思います。コースサイドでドキドキしながら撮っていた最後の時代(!?)の熱気というか、その頃の職人たちの思いや楽しさを少しでも感じてもらえたら幸せですね!(斉藤和記)