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インディ・カー・シリーズ 第14戦 ケンタッキー[決勝日]フォト&レポート

<US-RACING>

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前戦のミシガンから続くオーバル2連戦をトニー・カナーンが連覇した。前回はトップ集団のマルチ・クラッシュをかいくぐり、拾い物の勝利といった印象が強かったが、今週末は自力のスピードが勝り、200周中131周をリード。チームメイトのダリオ・フランキッティと2ワイドのバトルを繰り広げ、一時はフランキッティやスコット・ディクソンの先行を許すものの、その度にマシンのポテンシャルとピット戦略を駆使してトップを奪い返して見せた。最後のコーションでトップにたっていたA.J.フォイト4世は、リスタートからわずか1周であっさりとパス。カナーンはここからリードを広げ、2番手に上がったディクソンを1.7457秒引き離し、今シーズン4勝目のトップ・チェッカーを受けた。「マシンは最高だったよ。チームのみんなには心から感謝している。彼らがすばらしい仕事をしてくれたんだ。こんな良い週末は今までなかったね。今はチャンピオンシップのことは考えられない。レースに勝つことだけを考えているよ」と話すカナーン。両手を空高く突き上げて喜びを表す。フランキッティとの差は一気に52点まで縮まり、2004年以来の逆転チャンピオンを十分狙える位置になってきた。

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4番手スタートのスコット・ディクソンは、彼らしい堅実な走りで確実にポジションを上げ、2位を獲得する。スタートからカナーンやフランキッティと三つ巴のトップ争いを繰り広げたディクソン。3回目のピット・ストップではチップ・ガナッシの迅速な作業の恩恵でトップに立つが、今日はカナーンのスピードが一枚上手だった。133周目に一瞬の隙をつかれてトップを奪われると、タイトルを争うフランキッティからも激しいプレッシャーを受ける。しかし、そのフランキッティは乱気流につかまって大きく後退。最後はA.J.フォイト4世をなんなく料理し、きっちり2位でフィニッシュした。「ピットでクルーがすばらしい仕事をしてくれ、AGRの二人の前に立つことが出来たんだけど、二人ともとても速かったんだ。トニーに抜かれてしまい、ダリオを抑えこむのがメインになったことにはイライラしたね。それでも今日はたくさんポイントを獲得できたのが良かったよ」とディクソンはレースを振り返る。今日はフランキッティが8位に沈んだため、チャンピオンシップは8点差で急接近。残り3戦でのタイトル争いがますます熾烈になってきた。

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キャリア初のトップ5フィニッシュを3位で飾ったA.J.フォイト4世。今週末はエースのトーマス・シェクターを筆頭にヴィジョン・レーシングが速さを見せていたため、このフォイト4世も序盤からダニカ・パトリックと競り合ってトップ10圏内をキープする。彼にチャンスが訪れたのは最後のピット・ストップを終えた180周目。直後にここまで上位を争ってきたパトリックがスピンを喫してコーションが発生し、ピット・タイミングが良かったフォイト4世は一躍トップに躍り出る。一方のパトリックはいったん走り出すが、隊列に追いつく前にタイヤが突然のパンク。コントロールを失ったマシンはウォールに激突し、戦列を去った。トップでリスタートを切ったフォイト4世だが、残念ながらカナーンとディクソンを抑えこめるだけの速さはなく、コーションが解除されたあとはあっさり2台の先行を許してしまう。それでもキャリア・ベストの3位は守りぬいてフィニッシュした。「僕にとっても、チームにとってもほんとうに良い結果が残せたよ。すばらしいピット・ストップのおかげでポジションを上げることが出来たし、一日中トップ10で走れていた。トニーはとても速くて順位を守りきれず、ディクソンにも抜かれてしまったけど、クリーンなレースが出来て良かったよ。今日の結果は、すばらしいピット作業をしたクルーのみんなと、完璧なマシンを用意してくれたエンジニアのマット・カリーのおかげだね」と大喜びのフォイト4世。5シーズン目にしてようやく手にしたトップ3フィニッシュを、ピットで出迎えたスタッフ全員が賞賛していた。

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朝から快晴のケンタッキー・スピードウエイ。気温はスタートが切られた午後6時半を過ぎても33度を超えており、昨日と同じく湿度が高いため蒸し暑かった。日が沈んでいたことで、日中よりも幾分暑さが軽くなったように思うが、これまでで一番暑さを感じたレースだった。

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今日最初に起きたコーションは、またしても上位陣のクラッシュによるものだった。3番手を走るサム・ホーニッシュJr.が、乱気流でバランスを乱してスピン。マシンはそのままターン2のウォールに激突する。直後を走るスコット・ディクソンはなんなくアクシデントを避けたが、ダン・ウエルドンはホーニッシュJr.をかすめてしまい、そのままバランスを失ってバックストレート内側のウォールに接触した。チームは回収したマシンをガレージに持ち込みすぐさま修理を開始。128周目にはウエルドンをコース上に送り出すことが出来たが、ダメージは予想以上に深刻だったため、ウエルドンはわずか1周でピットに戻り、レースをリタイアした。

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レース前半トップ争いを演じていたダリオ・フランキッティ。アグレッシブな走りでアウトサイドからオーバーテイクを試みるも、これが裏目となってしまい、167周目には乱気流でバランスを崩すことになった。一気に2番手から7番手に後退した焦りからか、179周目のピット・インでは前を走るチームメイトのダニカ・パトリックとの速度差を誤り、あわや同士討ちの危機に直面。何とか接触は避けたものの、ピット・ロード脇のポールをなぎ倒したことでノースを交換する羽目になる。幸か不幸かパトリックがコーションを起こしたことで、順位を大きく落とさずに済んだが、その後は精彩を欠き、8位でフィニッシュ。しかし、フランキッティの悲劇はこれだけに留まらなかった。フィニッシュ・ラインを通過した直後、フランキッティはレースが終わったことに気が付かず、あろうことか松浦孝亮の左リアに追突。ミシガンに続いて大きく宙を舞ったマシンは、一回転しながら再度松浦のリア・セクションにヒットすると、最後はリアからターン1のSAFERバリアに激突し、またしてもマシンを大破させる大失態を犯した。「完全に僕のミスなんだ。今日は2度もレースを台無しにしてしまったよ。最初はピットに入るときで、それからレースが終わったあとのアクシデントさ。チェッカーを受けたにもかかわらず、レースが終わったことに気づいていなかった。“レースは終わっているよ”と聞いたときにはもう孝亮に当たってしまっていた。どちらも僕のミスで、チームのみんなに謝らなくてはいけないし、もちろん孝亮にも謝らなくてはいけないね」とただただ平謝りのフランキッティ。ベテランらしからぬミスの連発は、熾烈なタイトル争いのプレッシャーからなのだろうか。

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17番手からスタートした松浦孝亮は、基本的なスピード不足が解消されていなかったものの、レース序盤にダレン・マニングを抜き去るなど力走を見せる。レース中は大きなアクシデントに巻き込まれることなく、粘り強く走り続けた松浦は、上位陣の戦線離脱にも助けられ、11位まで順位を上げてフィニッシュ。ところがレースを終えた直後に、8位でフィニッシュしたフランキッティが激しく追突する悲劇に見舞われた。幸い松浦に怪我はなかったが、マシンが大破してしまう危険なアクシデントだった。「チェッカー・フラッグが振られた後、ダリオが僕を見ていなかったようで、後ろから追突されました。セーフティ・カーに乗ったとき、彼が“僕のせいなんだ”と言っていましたね。彼は何が起きたかを正確に理解していたようで、僕に謝ってくれたんです。レースは終わっているので、これ以上何もすることはありません」と話す松浦。この不運を得意のロード・コースとなるインフィネオンで払拭したい。

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IPS史上初のナイト・レースとなった記念すべきレースに、武藤英紀がポール・トゥ・ウインでオーバル・コース初制覇を成し遂げた。IRLのレースが終了し、すっかり日が暮れた午後9時にIPSのレースがスタート。ポール・ポジションの武藤は、インサイドからアレックス・ロイド、アウト・サイドからウエイド・カニングハムから激しく攻め立てられるも、なんとか凌ぎきってトップを堅持する。2番手のカニングハムとは39周に渡って一騎打ちとなり、サイド・バイ・サイドの白熱したバトルを繰り広げ、レースを盛り上げた。40周目に起きた多重クラッシュのコーションが長引いたことで、レースが再開されたのは残り5周。フィニッシュまでのスプリント勝負にはロイドも加わり、最終ラップは武藤、カニングハム、ロイドがスリー・ワイドなって緊迫した接近戦を演じる。観衆が固唾を呑んで見守ったレースは、3台のマシンがなだれ込むようにしてフィニッシュラインを通過し、最後までインサイドのラインを死守した武藤が栄冠を勝ち取った。イベントのフィナーレを告げる打ち上げ花火が優勝を祝う祝砲となり、武藤もそれに応えるようにしてドーナツ・ターンを披露した。

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「ダウンフォースが増えると思っていたので、それに応じたセット・アップで挑みました。他のマシンがストレートで速かったのは、ダウンフォースを削っていたセット・アップだったからだと思います。スタートは上手くいきましたね。1回目のリスタートで危ないところもありましたが、横に並ばれるだけで、前に出られなければ勝てると思っていました。そのかわり、インサイドのラインをキープするのはアンダーステアになって大変でした。一度抜かれると抜き返せないので、なんとかぎりぎりマシンが入れない程度のラインを守り抜きました。最終ラップは、ウエイドが隣にいることは知っていましたが、まさかロイドも加わって3台のバトルになっていたとは思いもしなかったですね。これまでのオーバルは追い上げるレースでしたし、トップ・ラインをキープするという経験がなかったので、経験を積めたという感じがします。でも、レースになるとロイドが強いですね。ウエイドもロイドも僕のことをフェアだと言ってくれました。IPSを始める前はロード・コースで勝てると思っていたけど、オーバルでは厳しいと思っていたので、優勝できたのはすごく嬉しいです」と話す武藤。大きな自信をつけて次戦、ロード・コースのインフィネオンを戦ったあと、最終戦シカゴランドのIRL初出場に挑む。