Hiroyuki Saito

Stuck in the Restrooms

ナッシュビルのレース、雨で順延になりましたね。インディ・カー・シリーズでは2000年のテキサス戦以来だそうです。これまでインディ500をはじめ、リッチモンドなど雨でレースのスタート時間が遅れたり、途中から降り出すといったことは多々ありましたが、その日中には何とか終わっていました。2003年からインディ・カー取材をフル参戦している僕にとってこのシリーズでレース日が翌日になる順延は初めてでした。
CARTのレースでは何度か経験があります。2000年のもてぎも雨で順延になりましたよね。当時のもてぎで雨に打たれて冷たい思いをした方々も多いのではないでしょうか?
まぁ、オーバル・コースっていうやつは、雨が降ると二進も三進もいきません。現場にいる人々は雨が止むのを待つことしかできません。こればっかりはロード・コースと違ってどうしようもないですね。神に祈るしかありません。
決勝日は日中天気がよかったことと、ナッシュビルであまり雨が降った印象がなかったこともあり、僕自身ぜんぜん雨の心配をしていませんでした。
今年のスタート時間は現地時間の午後6時30分でした。ナイト・レースというよりはまだまだ日も高くトワイライト・レースという状況ですね。レース中に太陽が西の空に傾き、終了する頃にやっと暗くなるパターンです。
これはこれで夕焼けバックのいい写真が撮れると期待し、スタートの1時間ほど前に撮影ポイントに向かいました。数少ないフォト・ホールを確保でき安心し、ふと西の空に目を向けました。するとグランドスタンドの後方にどす黒い雲が見えるのです・・・・。
その雲の下では完全に雨が降っています。この雲がもしかしてこっちにくるのか? と、雲の動きを注意深く見るとコース上空を通過しそうな流れなんですね。

画像

なんとかそれてくれるのを期待していたのですが、あと少しでレースがスタートするというアメリカ国歌斉唱中に無常にも大粒の雨が落ち始めました・・・・。
さあ、大変です。カメラ機材が濡れてはかなわんと避難場所を探します。すると走行中のコース状況をチェックするIRLのオフィシャルが幸い屋根付きのゴルフ・カートに乗っており、慌てている僕に手招きをしてくれました。
飛び乗って雨の様子を伺っていたのですが、次第に強くなっていきます。こりゃたまらんと、オフィシャルも「グランド・スタンドの下で雨宿りするか?」と聞いてきました。「プリーズ!」と、即答です。
グランド・スタンドの方へ疾走するゴルフ・カートの前方からビタビタビタと入ってくる雨に全身を濡らしましたが、なんとかスタンドの下まで移動できました。するとそこはもう雨宿りの観客でいっぱいになっていました。

画像

ゴルフ・カートに乗ったままオフィシャルと共に雨が止むのを待ちますが、オフィシャルはどうやら戻らなければいけないらしく、まだ雨が降っている中その場を立ち去りました。大降りの雨のなかを戻っていくオフィシャルの後姿を見ながら、心の中でサンキューといいましたよ。もちろん言葉でもいいましたけどね。
座ることもできないグランド・スタンドの下の広場でただただ雨が止むのを待ちます。この時間はもう空白の時間ですね。ボケっとするしかありません。雨具をもってなかったのでメディアセンターには戻れないし、雨が止んでから戻ってくるのも距離があって大変です。なにより現場を離れている間に、他の誰かに撮影ポイントを取られてしまう恐れもあります。

画像

そのようなことを考えているうちに雨は弱まり、午後7時過ぎあたりでしょうか、やっと雨が止みました。再び撮影ポイントに戻ると、コースの乾燥作業が始まっています。この調子ならできるんじゃね? なんて思いながら今度は路面が乾くのをただただ待つことになります。

画像

が、太陽が大地に沈みかけた西の空から再び雨雲が近づいてくるんですね・・・・。判断の難しい状況です。雨が降る前にメディアセンターに戻るか、それともまたグランドスタンドの下か・・・・。なんて悩んでいる間にポツポツと降り出してきたので、駆け足でグランドスタンドへ向かいました。
到着した頃、大粒の雨が降り出しました。何とか間に合いましたが今度は風も強く、雨が横方向から殴りつけるように入ってきます。これはよろしくないと、どこか雨の当たらない場所を探し始めます。
多くのカメラ機材を持った僕が人込みの合間をもじもじと通り抜け、何とかたどり着いたのはレストルーム(トイレ)の入り口でした。ちょっとした屋根があり雨が入ってこないのですが、まぁ人がいっぱいで、こりゃまたたまらんとレストルームの中へと逃げ込みました。
するとこのレストルーム、結構広くて快適です。外ほどのギュウギュウ詰めとは違い、何人も人がいるのですが、各自のスペースがかなり広いのです。まぁ快適といってもレストルームなのでなんだか複雑ではありますが、このような状況では文句が言えません。
再び空白の時間を過ごすわけですが、今回は外の状況が判らないのでなおさら無の心境で待つしかありませんでした。レストルームなので座禅ができなかったのが残念です。便座はありましたけどね。
ボケーっとしていると突然、アナウンスがレストルーム内に流れました。午後10時30分までにスタートすることができれば今日レースは行うと。外を見にいくと雨は弱くなってきています。

画像

午後9時ぐらいでしょうか、2回目の雨がやっと止みレストルームから這い出た僕は再び撮影ポイントに戻りました。路面の乾燥作業も再開し始めています。「もう、降らねーべなぁ・・・・っていうか、降らないでけろ・・・・」なんて、立ちっ放しでもうくたくたになった僕の口からは故郷の言葉が思わず出てしまいます。
このとき諦めてメディアセンターに戻っていればよかったんですが、とにかく今日中に終わって欲しいと願う僕がその場に留まらせたんでしょうね。止めの雨が照明のライトにきらきらと反射しながらまた降ってきました。
もう、スタンドの下まで小走りする気力もありません。しかし、雨宿りをしなければなりません。どうしようかと考えましたが、そういえばポータブル・レストルームがあったなと思いだし、テレビ撮影用のスタンドの脇にあるそのブルー・ボックスに駆け込みました。これまではさすがに気が引けていたものの、もうここしか残された場所がありませんでした。

画像

さっきの大衆トイレから今度は個人用トイレに格上げしたわけですが、気分的にはちょっと凹みます。この雨で完全に順延が決定したのにも関わらず、雨が強くてメディアセンターにも戻れず、ただ独りコースのアウトサイドでちょっと匂うポータブル・レストルームで雨宿りしている俺って・・・・ってな感じですね。
扉の隙間から雨の状況をちょくちょく確認しつつ、今日3度目の空白の時間を過ごすことになりました。
午後10時頃でしょうか、やぁーと雨が弱まってきたので、もういましかねぇーべ! って外に飛び出し、最後の気力を振り絞って小走りでメディアセンターに戻りました。
メディアセンターにやっとの思いで到着すると、心配してくれたカメラマンが「何所にいたんだ? あの辺(撮影ポイント)車で探しに行ったのに」っていわれましたよ。なんだかいろんな意味で残念な夜でした。