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チャンプ・カー・ワールド・シリーズ 第6戦 ミルウォーキー【決勝】レポート

<US-RACING>
●ジョルダインがミルウォーキー・マイルのナイトレースでキャリア初優勝

14本の巨大なライトスタンドから降り注ぐ130万ワットの照明の下、午後8時すぎにグリーンフラッグとなった決勝。予選2位からスタートしたジョルダインが、250周の内234周をリードする圧倒的な速さでキャリア初優勝を達成し、ランキングトップへと躍り出た。これまでのポイントリーダー、トレイシーは周回遅れの12位、ジュンケイラもオープニングラップのアクシデントで早々にリタイアし、ノーポイントに終わっている。

●圧倒的なリードのジョルダインの後方では激しい2位争いが展開

まるで真冬に逆戻りしたかのような寒さとなった土曜の夜のミルウォーキーは、突然の寒波の到来により、3日間の中でもっとも気温が低い7度を記録。吐く息は白く、手がかじかむほど寒い。コース全体がだいぶ暗くなってきた午後8時7分、ペースカーがライトを消してピットレーンへと戻るが、あまりの寒さのためにイエロー・コーションのままウォームアップが続く。各自がレーシング・スピードで3周走行し、タイヤが十分な温度に達したことから4周目にグリーンとなった。

オープニング・ラップはアウト側フロントローのジョルダインがホールショットを決め、トレイシーがやや失速気味のタグリアーニをターン1でアウトからパスして2位に浮上。だがターン2の立ち上がりでジュンケイラが単独スピンを喫し、ドミンゲスとモレノ、ルマリエがこれに巻きこまれてクラッシュ発生。レースはいきなりフルコース・コーションとなってしまった。

このアクシデントでドミンゲスを除く3台はリタイア。CARTセーフティ・クルーの手によりメディカル・センターへと運ばれたジュンケイラは、その後の診断で大事に至らなかったことがわかり、メディカル・センターからリリースされた。また、このクラッシュによりフロントノーズにダメージを受けたドミンゲスは、フルコース・コーション下で2度に分けてピットインして修復。周回遅れにならずにレースへと復帰する。

クラッシュした3台を引き上げるためにコーションが長引いたことにより、ドミンゲスの他にこの間ピットインを行う作戦に出たのはカーパンティエ、ボウデイ、モンテイロと、久しぶりにレースへカムバックしたサレスの4台。ピットインのタイミングをずらしてコーション中にピットインしたこの4台の作戦が、吉と出るかどうか。

レースはやっと19周目になって再スタート。トレイシーがインからジョルダインをパスしようと試みるが、ジョルダインはアウトからこれを抑えてトップを維持している。この日ロー・ダウンフォースのセッティングにし、バランスの良いマシンを駆るジョルダインは徐々にトレイシーとの差を広げ、34周目に最後尾のボウデイを捉えるなど絶好調だ。

同じオーバルでも全域にわたって踏みっぱなしだった前戦のドイツとは異なり、このショート・オーバルではオーバルならではのマシンに合わせた微妙なマシン・コントロールが要求される。13番グリッドしか得られなかったボウデイは、レースでもうまくマシンをコントロールすることができず、40周目には周回遅れとなってしまった。

快調にリードを広げるジョルダインの後方で、トレイシーとセルビアの激しい2位争いが展開。46周目にセルビアがターン1でインに飛び込み、スタンドから歓声が上がる。何度もトレイシーとサイドバイサイドになるも、トレイシーはアウト側で堪えてターンの立ち上がりでまた前に出るというシーンが連発する。その二人をよそに、レースの5分の1が過ぎた55周目、トップのジョルダインはこの時点で8.961秒もの差を築いた。

この日のピットストップまでの規定周回数は59周であり、先頭のジョルダインを含む8台のマシンが59周目のグリーンの最中にいっせいにピットイン。ジョルダインはウイング調整をまったくしなかったのに対し、トレイシーはフロント・ウイングのダウンフォースを大幅に増やしてピットアウトしている。一足先にピットアウトしたジョルダインに続き、マニング、セルビア、トレイシーの順でピットアウト。だがマニングがスピード・リミッターを解除した途端、温まっていないタイヤがホイール・スピンして失速し、この隙を突いたトレイシーが2台をパスしてポジションを上げた。

この時点で最初のフルコース・コーション中(14周目)にピットストップを済ませているカーパンティエがトップに浮上。2番手はドミンゲスで3番手はルーキーのモンテイロだ。ここでいったん6番手へと後退したジョルダインは、カーパンティエやドミンゲスらがピットインすると、74周目に再びトップに返り咲いた。マシンをまったくいじる必要がなかったジョルダインは、またも2位トレイシーに8秒近くの差を築いた87周目、ルーキーのハンター-レイがターン2でクラッシュし、イエロー・フラッグが提示された。

このフルコース・コーション下の95周目、ジョルダイン、トレイシー、セルビアとほとんどのマシンが揃ってピットイン。ここでセルビアがトレイシーより一瞬速くピットアウトして2位に上がるが、トレイシーは109周目の再スタートで2位のポジションを奪回。二人のバトルはまだまだ続く。果敢に攻めるセルビアは138周目のターン4でついにトレイシーを捉えて見事なオーバーテイクを見せる。

154周目、ジョルダインを先頭に各マシンは3度目のピットイン。パトリック・レーシングはセルビアのマシンに少な目の燃料補給を行い、2位を確実にキープ。ところがその次のラップとなる155周目、カマティアスがターン2でクラッシュし、4度目のフルコース・コーション。ここで154周目にピットインしなかったドライバーが161周目にピットインし、全員が3度目のピットを終えることになった。14周目にピットを終えていたカーパンティエにとっては好タイミングとなるはずだったが、カーパンティエは前回のイエローでトップグループが2回目のピットを早めた際に同時にピットインし、もはやピットタイミングのずれはなかった。

レースは169周目に再スタート。今度はトレイシーがフロント・ストレートでセルビアのアウトに並び、ターン2でいっきにパスして2位へ。相変わらず好調なジョルダインを先頭に、レースは残り50周を切る200周目に突入した。勢いに乗るトレイシーは206周目にジョルダインに迫り、さらに差を詰めようとするが、背後のセルビアもトレイシーをぴったりとマーク。207周目にトレイシーをパスして2番手に上がるなど、寒さを忘れさせるような激しいバトルに観客から大歓声があがる。

迎えた213周目、先頭集団が最後のピットストップに入ってきた。このとき、突如トレイシーのマシンのエア・ジャッキが途中で下がってしまったが、すぐにまたマシンを上げて作業を行い、ピットアウトしたトレイシー。だがあろうことかターン3で左後ろのタイヤが外れ、トレイシーは3輪のまま再度ピットインを余儀なくされてしまう。クルーがナットを締めている途中にエア・ジャッキが降りたため、完全にナットが締まっていなかったのだ。

新たにホイールを装着してレースへ復帰したトレイシーは、タイヤが外れたことでペナルティまで受け、周回遅れの13位まで後退。セルビアとのバトルは予想もつかない結末となり、トレイシーは失意のままコースへと復帰するしかなかった。これで5度目のフルコース・コーション。トップはジョルダインで2位セルビア、トレイシーに代わってチームメイトのカーパンティエが3位に上がる。

226周目の再スタートでもジョルダインは素晴らしいジャンプ・スタートを決め、リードを広げる。しかしその後方のターン2でラビンがコンクリート・ウォールにコンタクト。スタート時に比べ、気温はさらに3度も低い4度を記録しており、ルーキーのラビンはタイヤを温めきれなかったか。6度目のフルコース・コーションを経てレースは残り9周で再スタートし、トップのジョルダインを先頭に全車がいっせいにラストスパート。249周目にファステストラップを叩き出したカーパンティエに加え、セルビアもジョルダインに0.5秒差と迫ってファイナルラップへと突入するも、この日のジョルダインは最後まで完璧だった。

チャンプカー参戦8年目、実に126戦目にして悲願の初優勝を挙げたジョルダイン。レースをほぼ制覇しながら、残り7周のところでギアボックストラブルのためにリタイアした第3戦ロングビーチの雪辱を晴らし、今シーズン3人目のウイナーとなった。2位のセルビアは自己最高位のフィニッシュで、3位のカーパンティエも今シーズンのベスト。ショート・オーバルでは当然のようにベテラン勢が表彰台を独占したが、ルーキーのマニングが4位に入っているのも見逃せない。

ここまでポイントリーダーだったトレイシーは、かろうじて12位でフィニッシュし、1ポイント。同点だったジュンケイラは序盤のアクシデントでノーポイントに終わったため、ジョルダインが最多リードラップのボーナス・ポイントも加えた77ポイントで、ランキングのトップに躍り出た。1996年に19歳でデビューしたジョルダインはまだ26歳。そのキャリアからいっても、今年はタイトルの可能性が高いドライバーの一人だ。

今回はローラが表彰台を独占し、レイナードはルーキーのマニングが健闘して4位に入った他、トップ10に3台が入っている。ワンメイク・エンジンとなった今シーズン、エンジンのパワーを750馬力から700馬力にコントロールすることでロードコース用のウイングが復活。かつてのような激しいバトルが蘇ったのは実に喜ばしいことだが、ワンメイクではなくなる2005年以降が、昨年までのような接近戦の少ないレースにまた戻ってしまうのでは、まったく意味がない。

次回はロードコースの第7戦ラグナ・セカ、第8戦ポートランドと続く。勢いにのるジョルダインが連勝を飾るのか、それともベテランのトレイシーやスーパー・ルーキーのボウデイが巻き返しに出てくるか。4人目のウイナーが現れることも十分に考えられる今シーズン、エキサイティングな展開が続くチャンプカー・ワールド・シリーズに、これからも注目が集まる。

初優勝したM.ジョルダインのコメント:
「チームのスタッフが最高の仕事を成し遂げてくれたおかげで、マシンは完璧な状態を保つことが出来た。自分にとって(初勝利は)とても感動的なことだ。最後の数周はもう泣き出しそうだったよ。今日のレースはこれまでの人生の中でも、最高の出来事だったといえる。ここミルウォーキー・マイルでのナイトレースは素晴らしかった。こうなったらこれからのレースもすべてナイトレースでやってほしいね!」

キャリアベストの2位表彰台を獲得したセルビアのコメント:
「いいレースだった。スタートを上手く決めることが出来たのは良かったね。あそこで2台をパスして、そのままさらに上を狙うことができたんだ。マシンの状態は終始とても良くて非常に速かったから、優勝できなかったことは残念かな。もうあと少しだった。優勝できるのは一人だけだから仕方ないね。トレイシーとのバトルは紛れもなくかなり熱い戦いだった。お互い3回ずつリードを奪い合い、とても楽しかったよ」

今シーズン発表彰台を獲得したP.カーパンティエのコメント:
「ナイトレースはいいね。今回でかなり好きになったよ。レース中、かなりアンダーステアが出た期間があって、再スタートで思いどおりにアグレッシブな走りが出来なかった時は、しばらく辛抱しなくてはならなかった。マシンをおさえ込むのが大変だったね。レースではそういうこともあるから仕方がない。でもポイントも獲得できたし、チャンピオンシップのランキングでも前に進むことが出来たことは、とてもよかったと思うよ」

リタイアに終わったポール・トレイシーのコメント
あんなハプニングが起こってしまうと、チャンピオンにはなれないね。チームとしてもっといい仕事をしなければ。開幕から最初の3レースで64ポイントもとりながら、次の3レースでは3ポイントだけとはがっかりだよ。われわれはフィニッシュまですばらしいバトルをする準備ができていたし、最後までいける自信があったが、巡り合わせが悪かった。こんな結果では決してうれしくはないし、再びポイントが逃げていくような状況にあるのはもうやめにしないと。チームがレースに勝てるポジションであり続けるために、自分が信じることをやり続けるだけだよ。