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CARTチャンピオンシップ・シリーズ 第20戦 フォンタナ【決勝】レポート

<US-RACING>
日曜日の決勝レース序盤に降り出した雨によって、翌30日月曜日にレースの「続き」が順延となった最終戦のマールボロ500。昨夜の雨も夜にはあがり、雲の切れ間から青空とともに差しこむ太陽が巨大な2マイル・オーバルの路面を完全に乾かす。午前10時のリスタートに向けて、各チームともその準備に余念がない。

前日には250周のうちわずか33周目を終了した時点で赤旗となったため、本日のレースは34周目からのスタートとなる。スターティングオーダーは前日の赤旗時点での順位。最初のピットワークで素早い作業を行ったモントーヤがリーダーで、フランキッティが2番手。1回目のピット作業までトップをキープしていたド・フェランはアンドレッティにも出し抜かれて4番手スタート。5番手にジミー・バッサー、6番手には僅かにチャンピオンの可能性を残しているブレックが続く。また、序盤にド・フェランとトップ争いを展開していたカストロネベスはピットストップ時にエンジンストールさせてしまい18番手へと後退している。

予定どおり午前10時、モントーヤを先頭にローリング開始。冷えたタイヤを暖め、路面状態をそれぞれが確認するために6周の間はアンダーイエローでの走行が行われ、40周目からグリーンフラッグでレース再開。トップスタートのモントーヤをいきなりアンドレッティがパス、フランキッティも2番手へと上がる。だがフランキッティは45周目にエンジン・トラブルでスローダウン。前日のトレイシーに続き、チーム・グリーンはこれで2台ともメカニカルトラブルで失うことになってしまった。

ハンドフォード・デバイスの効果によって、レースは誰の独走も許さない展開が続いていく。アンドレッティ、モントーヤの争いに、ブレックやパピスのレイホール勢も加わってのビッグファイトが何度も繰り返される。49周目にはブレックがモントーヤをパスしてリーダーとなると、その背後には18番手でリスタートしたはずのカストロネベスが迫り、ブレックとトップ争いを繰り広げはじめた。

74周目頃から、この日最初のピットストップが開始される。上位陣でいちばん最後にピットへ入ったのはモントーヤ。トヨタエンジンが燃費の良さをアピールしたが、その次の瞬間に、ギドリーのトヨタエンジンがブローして白煙が上がり、イエローコーションとなる。このときのオーダーはモントーヤ、アンドレッティ、パピス、カストロネベス、フィッティパルディ、カナーンの順。このイエローの間にピットインしたのはパトリックの2台、フェルナンデスとモレノだけだった。

そして86周目、グリーンフラッグが振られ、パピスがトップへと躍り出る。だがわずか2周後、4番手あたりを争っていたカナーンのメルセデス・エンジンからいきなり巨大な白煙が上がる。視界を塞がれた後続のマシンは混乱し、アンドレッティとトヨタの片バンクターボを唯一搭載して実戦に臨んでいたセルビアが接触し、セルビアは激しく外側のコンクリートウォールに激突、マシンが大破した。幸いアンドレッティにもセルビアにも大きなケガはなかった。

このアクシデントで再びイエローコーションとなり、セルビアやアンドレッティのマシンの回収とともに、オイルがこぼれたライン上に石灰が撒かれる作業が行われる。そして92周目頃にはまた多くのマシンがピットインを行い、コース上にとどまったモレノ、フェルナンデスがトップへ進出。その後ろにカストロネベス、モントーヤ、パピスが続いている。カナーンのエンジンブローの際に、間一髪でアンドレッティのマシンをかわしたド・フェランは8番手だ。

101周目、すべての作業が終了してグリーンフラッグ。モレノをリーダーとしてスタートするが、カストロネベスとモントーヤがこれをパス。さらにレイホールの2台もトップ争いに加わり再び激しいトップ争いが繰り広げられる。

しかし、今度は中野信治のホンダ・エンジンが火を噴き、116周目にこの日三度目のイエローコーション。すぐさま各車ピットインを行い、その結果、ブレックとパピスのレイホール勢がトップ2を形成し、モントーヤ、ブランデル、フィッティパルディ、カストロネベス、ド・フェラン、フェルナンデスのオーダーとなる。なんとかピットに戻った中野だが、そのままリタイアを余儀なくされ、中野のルーキーイヤーが終った。

124周目、リスタートがきられると、ふたたびレイホールの2台、モントーヤ、ブランデルらによる大混戦となる。なかでも勢いのあるブランデルは128周目にブレックを抜いてトップへ。だが次の瞬間、彼のメルセデス・エンジンが白い煙とともに音を上げてしまう。そしてまたもイエローコーション。ここでパピス、フェルナンデス、モレノらはピットへ。ブレック、モントーヤ、カストロネベス、ド・フェラン、フィッティパルディらはコース上にとどまった。

レースも折り返し点を過ぎた133周目、グリーングラッグによってレースが再開されると、ブレックとカストロネベスのトップ争いが一層激しくなる。未勝利ながらチャンピオンの可能性を残すブレックは、優勝してなおかつラップリーダーの1点を奪わなければならないため、カストロネベスとのトップ争いは1周につき2度3度と順位を入れ替える激しい戦いが続いていく。

ところがそのブレックにも167周目にターボ・トラブルが襲い、突然スローダウン。続いてパピスもエンジン・トラブルからスピンを喫して脱落。これまでのレースを盛り上げてきたレイホールの2台が消え、チャンピオン争いの可能性はド・フェランとフェルナンデスのふたりに絞られることになった。

パピスのスピンでイエローコーションとなったのは182周目。ここで全車ピットインするのだが、ド・フェランが痛恨のエンジンストールで遅れ、ほぼ隊列の最後尾へ。この時点でコース上に残っているマシンは僅か11台、リーダーは何とこのレースがデビュー戦というケイシー・メアーズである。フェルナンデスとド・フェランは8〜9番手の争いだ。

長いイエローコーションのあと、195周目にグリーンフラッグ。2番手のバロンがメアーズをかわし、モントーヤとカストロネベスの熾烈なトップ争いに加わる。その後もジョルダインJRがリードラップをとるなど、大混戦状態。いっぽうのタイトル争いを展開するド・フェランとフェルナンデスはその後ろで静観の構えだ。

レースも残り34周となった216周目、カストロネベスとトップ争いを繰り広げていたモントーヤのトヨタ・エンジンから白煙が上がり、ついにトヨタ勢は全滅。モントーヤの500マイル連覇ならず、CART最後のレースをリタイアで終えることになった。このイエローコーションで、トップのカストロネベス以下が最後のピットストップへ。このピットストップ・バトルを制したのは今年まだ優勝できていないフィッティパルディで、カストロネベス、モレノ、ド・フェラン、フェルナンデス、バロンと続いていく。

226周目にリスタートがきられると、フィッティパルディとカストロネベス、モレノによるトップグループが形成される。しかしリスタートの次の周、モレノと2番手争いをしていたカストロネベスのマシンから白煙が上がると同時に突然コントロールを失い、ターン1の外側の壁にマシンのリヤから激突。救護班がカストロネベスを救出して救急車で運ぶ間、またもイエローコーションとなった。

この時点でコース上にはわずか8台。フィッティパルディがトップで、モレノ、バロン、ド・フェラン、メアーズ、フェルナンデス、タグリアーニ、マルケスというオーダーである。この8台中、ド・フェランを除く全車がフォード・エンジン。ホンダのマニュファクチャラーズ・タイトル獲得の可能性は、この時点で完全になくなってしまった。ド・フェランも最後まで走り切ることができるだろうか?

大荒れの展開はまだ続いた。237周目にグリーンフラッグが振られリスタートがきられると、今度は2番手のバロンがエンジンブロー、すぐさま再びイエローコーションとなる。そのイエローが解除され、グリーンフラッグが振られたのが244周目、残り6周のスプリントでいよいよ最後の戦いがスタートした。

フィッティパルディは素晴らしい加速で後続を引き離し、タグリアーニがド・フェランをパスして3番手へ浮上。ところがそのタグリアーニがコントロールを失い、壁にクラッシュしたのが、残り2周をきった249周目だった。レースはイエローコーションのままチェッカードフラッグを迎えることになり、フィッティパルディの今季初優勝と、フェルナンデスを抑えて3位に入ったド・フェランのチャンピオンタイトル、そして95年以来となるフォードのマニュファクチャラーズ・タイトルが決定した。2位にはモレノ、そして4位にはルーキーのデビュー戦としては最高記録となるメアーズが入賞。

62回もリーダーが変った1998年のUS500に次ぐ、史上2番目となる59回もトップが入れ替わり、結果的にチェッカーを受けられたのはわずか6台(CARTワースト記録)。フィッティパルディが1シーズンの新記録となる11人目の勝利者リストに名前を刻み、今回だけの特別賞金である1ミリオンダラー(1ドル=108円で1億8百万円!)を獲得して大波乱の最終戦は幕を閉じた。

1995年にCARTデビューし、6年目にして初のタイトル獲得を成し遂げたド・フェランは、チャンピオンに贈られる1ミリオンダラーの賞金と、栄光のバンダービルト・カップを手にする。CARTでブラジル人がチャンピオンになったのは、1989年のエマーソン・フィッティパルディに次ぐ二人目。

チームペンスキーにとっては1994年のアル・アンサーJR以来となる8回目のCARTチャンピオンとなったが、CARTの運営になる以前から数えると、チャンプカーにおける通算10回目のタイトル獲得である。今シーズンそのすべてを一新した名門は、その最初の年に完全復活を遂げた。

また、惜しくもマニュファクチャラーズタイトルの連覇ならなかったホンダだが、ドライバーズタイトルは5年連続で獲得。1996年以来、長年開発ドライバーとしてホンダのタイトル獲得に貢献して来たド・フェランも、ついに自分がチャンピオンとなる日がきたのだ。

20戦中11人もウイナーが誕生するなど、混戦模様だった2000年シーズンが終了。つかの間の休息ののち、戦士たちは来るべき21世紀の戦いに向けて、新たなスタートを切ることになる。

●優勝したクリスチャン・フィッティパルディのコメント
「長丁場のレースでは何が起こるかわからないから、スタートしてからラスト50周までの間は、かなり慎重になって走ったよ。スタッフ達が細心の注意を払って仕上げてくれたマシンは、全く問題無く、お陰で最後のラストスパートは、全開に次ぐ全開で行くことが出来たんだ。今シーズン、チームと共に全力で戦ってきた結果、このような形でシーズンを終えることが出来てとても嬉しく思っている。同郷のジルもチャンピオンになれたし、彼におめでとうと言いたい。結婚してからというもの、この2週間、最高の日が続いているよ」

●2位に入ったロベルト・モレノのコメント
「今シーズンをこのような素晴らしい形で終ることができてとてもうれしい。この1年間、チームはほんとうに素晴らしい仕事をしてくれた。ランキングも3位に上がることができたからね。レースではイエローさえなければクリスチャンをパスできたよ。でも、アクシデントに巻き込まれる事なく、こうしてフィニッシュした事を喜ばないとね」

●3位入賞し、チャンピオンを獲得したジル・ド・フェランのコメント
「マシンはスタートからほぼ完璧と言ってよい状態だった。今日のレースは、マシンの耐久性と信頼性が重要なファクターだったね。今日はなんと言ってもまず無事に完走することがよい結果に繋がると考えていた。案の定、レース中は何度か危い場面に遭遇したんだけど、目の前でスピンしたマイケルとノーズトゥノーズになり、目が合ったりしたからね。しかし、今日の運は自分達の方に向いていたようで、なんとか難を逃れることが出来た。これまでの人生で、ずっとこのようなシリーズでタイトル獲得を夢見ていたから、今の気持ちは、一言では言い表せない。これまで自分をサポートしてきてくれた多くの人々に感謝しているよ」

●ルーキー初レースで4位入賞を果たしたケーシー・メアーズのコメント
「もう、嬉しくてたまらない!今僕がこうして上位でフィニッシュで来たことが信じられないよ。初めてのCARTレースだったから、言われたことをきちんとこなし、レース中は、出来るだけミスを犯さないよう、十分注意した。チームのスタッフが全力で仕上げてくれたマシンは、終始大きなトラブルも無く、ピットストップも問題無くこなせた。最後の再スタートでミスを犯してしまったのは失敗だったかな。もう少しで表彰台も夢ではなかったからね。今日のレースを可能にしてくれたスポンサーやチームオーナーのボビー・レイホールには、感謝の気持ちでいっぱいだ」

●5位入賞、惜しくもタイトル2位に終わったアドリアン・フェルナンデスのコメント
「スタートの時点から、マシンのバランスが今一つ決まらず、レース中のピットストップでも毎回調整を試みたけれど、結局納得の行くハンドリングは得られなかった。チャンピオン獲得が、手の届くところにあっただけに、今日の結果は残念だった。チャンピオンを獲得したジル・ド・フェランは、十分にその資格があるドライバーだと思う。心からおめでとうと言いたいね。我々のチームも精一杯の努力を惜しまず、シーズンを通してすばらしい仕事をこなしてきた。スタッフには大変感謝していると同時に、大きな誇りに思う」

●16位フィニッシュとなった中野信治のコメント
「スタート直後からアンダーステアに悩まされ、そのため早い時点で既に周回遅れになってしまった。それでも最初のピットストップの際、ウイングの調整を行った後は、かなりよい状態へと変化したんだけど、そのあとのエンジントラブルでリタイアしてしまい、不本意な形でシーズンを終えることとなって残念だね。今シーズン、自分をサポートしてくれた、チームオーナーのデレック・ウォーカーとチームスタッフには大変感謝している。彼らのお陰でルーキーイヤーの今年、色々なことを学ぶことが出来た。来シーズンは心機一転、アドリアン・フェルナンデスの新チームで走ることも決まり、いまから楽しみだよ」

●チャンピオンを獲得したチームオーナー、ロジャー・ペンスキーのコメント
「チャンピオンを獲得し、ここまでを振り返って真っ先に思い出したのが、昨年のこのレースで亡くなってしまったグレッグ(ムーア)のことだった。この勝利はジルだけで得られた物ではなく、私のものでもない、チームの勝利といっていいだろう。スリルに溢れた勝利をこのカリフォルニアで得ることができたが、今日のレースはNASCARよりも何倍も素晴らしいレースだった。ここまで来る間、ほんとうに長くて厳しい日々が続いてきたが、昨年、グレッグとジルが一緒になって、“ホンダエンジンとファイアストンタイヤにしてくれたら喜んでチームに入る”と私に何度も言っていたのを思い出す。そして、実際に彼らの言うことに間違いはなく、こうして1年目に結果となって現れたのだ。ムーアとゴンザーロ(ロドリゲス)、この二人を失った昨年は特に辛かった。わたしにとって特別な二人のためにも、今日チャンピオンシップを獲得できてほんとうに、ほんとう良かった」