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CARTチャンピオンシップ・シリーズ 第5戦 もてぎ【決勝】レポート

アンドレッティにとっての勝利の女神、それはわれわれを濡らし続けた雨だった

 土曜日の天気とは打って変わり、雲の間から青空が見える絶好のレース日和となった日曜日。アメリカのような大陸で良く見かける、何層にも重なった雲の隙間から、時折強烈な日差しが1.5マイルオーバルを照らしだす。 1979年から始まったCART史上6回目、海外イベントでは初のレース順延となってしまった今年の日本ラウンド。オーバル・レースの馴染みのない日本で、昨日集まった6万5千人の観客のうち、果たしていったい何人が戻って来るのか。きっと、関係者は眠れぬ一夜を過ごしたことだろう。

 だが、そんな不安もよそに、この日ツインリンクもてぎに集まった熱心な観客は、なんと5万2千人にも達し、じっとそのスタートを待っていたのである。

 昨日の雨の影響により、ターン2のピットロードを濡らす湧き水が止まらない為、CARTオフィシャルは通常のピットロード速度制限をターン2の出口まで延長することを決定。ドライバー紹介も無事に終り、ついに”ジェントルマン・スタート・ユア・エンジンズ”のアナウンスがツインリンクもてぎに響き渡る。

 午前11時39分、グリーンフラッグで24台がきれいにスタート。ポールポジションのファン・モントーヤがホールショットを決め、2周目に入ろうとしていたその時、ルーキーのオリオール・セルビアがターン4でスピン。ピットウォールにヒットしてイエローコーションとなってしまう。全戦のリオでも同様(この時はスタート直前)のクラッシュを演じたセルビアは、これでまたも戦わずしてリタイアとなった。

 わずか1周での出来事だったが、モントーヤとケニー・ブレックの順位は変わらないものの、その後ろには予選8位からジャンプアップしたマイケル・アンドレッティがいた。ベテランならでは、と言うよりもアンドレッティならではのオーバルにおける素晴らしいスタートダッシュは未だ健在。見事としかいいようがない。

 コースがクリアとなり、グリーンとなったのは7周目。トヨタの新兵器、”もてぎスペシャル”を積むモントーヤはリードを広げにかかり、30周目には2位のブレックに7.136秒もの差をつける。どんどんと周回遅れを築くモントーヤの目の前には、昨年ランキング争いをしたダリオ・フランキッティが……。

 このままフランキッティまでもが周回遅れになるのかと思われたその時、32周目にこの日2度目のイエロー。コース上に破片が見つかったためだが、ここでほとんどのマシンはピットへと向かう。

 壮絶なピットストップバトルが展開し、ここでブレックが出遅れて6位にまで後退。初日と2日目の全プラクティスでトップだったブレックは、不幸にもこの後ウエイト・ジャッカーが壊れるトラブルに見舞われる。一方、モントーヤのチームメイトであるジミー・バッサーは4位から2位まで上がり、チップ・ガナッシのワンツー体制が完成した。

 独特のトヨタのエンジン音を響かせてコースを周回するディフェンディング・チャンピオンチームの2台に続き、アンドレッティとモレノのフォード勢、メルセデス・ベンツのトニー・カナーンが5位。日本で未だ勝利を挙げることができない昨年のマニュファクチャラーズ・チャンピオンのホンダは、ジル・ド・フェランの8位が最高位と精彩を欠く。

 このオーダーで迎えた78周目、マーク・ブランデルがターン4の外側に接触して3度目のイエローコーション。ほとんどのマシンがこの日2度目のピットワークを行うために、ピットへと向かった。ここでアンドレッティよりも先にモレノがピットアウトしたため、モントーヤ、バッサー、モレノ、アンドレッティの順で85周目にグリーン。だが、その翌周にはアンドレッティがモレノをパスして3番手にカムバック。

 圧倒的なパワーを見せつけて走る2台のトヨタ&ローラ。チームは今年初めてこのコンビネーションを使うにもかかわらず、まるで当然のようにリードを重ねていく。これが、4年連続チャンピオンを獲得したチームと言うものか。地元日本で初優勝を獲得するために、3種類ものエンジンを持ちこんだトヨタ陣営も、この光景に胸を躍らせたはずだ。

 ところが、2番手を走行していたバッサーが127周目に突如スローダウン。ゆるゆるとピットロードを走行してきたバッサーは自分のピットを越え、そのままガレージへと向かっていく。慌てるピットクルーと大勢の報道陣、いったいなにがバッサーを襲ったというのか……。

「何の前触れもなく、いきなり凄い振動に襲われ、パワーがまったくかからなくなった」と言うバッサーは、駆動系のトラブルでそのままリタイアとなってしまう。緒戦4位から毎戦ごとに順位を上げてきたランキング2位のバッサーに、最後の1位の栄冠は訪れなかった。

 グリーンフラッグのままで各マシンが3回目のピットを行う事になり、先陣を切ったのはド・フェラン。126周目のことだった。毎戦、必ずといっていいほど早いピットインを行うペンスキーとド・フェランだが、いつもそのタイミングが裏目に出る事が多い。毎回、申し合わせたかのようにこの後イエローとなるのだが、どうやら今回は大丈夫のようだ。128周目にブレック、129周目にトレイシーやアンドレッティらが続々とピットに入る。だが、モントーヤがピットロードへ向かったのはなんと132周目の事だった。

 作戦とは言えホンダエンジンのド・フェランのピットインよりも6周遅くピットインしたモントーヤ。どちらもともに82周目のイエロー中に同じタイミングで2回目のピットワークを行っている。130周目にピットに入っているフランキッティのことを考慮すれば、一概にホンダエンジンの燃費が悪いと言うことは当てはまらないが、モントーヤのそのスピードとフランキッティより2周遅くピットインしたという事実は、トヨタの新エンジンが燃費においてもかなり優れているのは間違いないといっていいだろう。

 ところが、そのモントーヤよりもさらに2周遅い135周目にピットインしたドライバーがいた。もてぎ2連覇のアドリアン・フェルナンデスである。45周前後がピットインのタイミングであると言われていた今回のレースで、フェルナンデスはなんと53周も走ってみせたのだ。イエローのタイミングさえうまくいけば、フェルナンデスはここでジャンプアップする可能性もあったが、今回のフェルナンデスにツキがなかった。

 全員が3度目のピットインを終え、レースも残り60周となった141周の時点における順位は、モントーヤ、アンドレッティ、フランキッティ、モレノ、フィッティパルディ。フランキッティはなんと予選17位からのスタートであり、ピットインのたびにどんどんとポジションをアップしている。

 昨年モントーヤと同ポイントながら勝ち星に泣いたフランキッティはランキング2位、残る目標はチャンピオン獲得のみとなった今シーズンだったが、開幕前のスプリングトレーニングでメカニカルトラブルによりクラッシュ。このオフシーズン、ほとんどまったくといっていいほどテストができずに開幕を迎えていた。

 これが、いつもと同じエンジニアだったらまだしも、そのエンジニア、ドン・ハーリデイは移籍してブレックの担当をしている。今年からフランキッテイのエンジニアを務めるのは、昨年まで親友の故グレッグ・ムーアを担当していたスティーブ・チャリスだったが、この状況下でのテスト不足はフランキッティにとって大きな痛手となっていたのは言うまでもない。なにしろ、この時点でフランキッティのランキングは18位でしかなかったのだ。そのフランキッティが、チームの優れたピットワークもあり、今年初の優勝を狙える位置にまで上がってきている。

 フランキッティ同様、モントーヤもここまでトップを快調に走るのは今年初めての事だった。今回2度目のポールポジションを獲得して1ポイントを追加したが、それまではなんとランキング24位と低迷。いずれもマシントラブルによるリタイアであり、モントーヤは今年になって未だレースで完走したことがなかったのである。

 バッサーの突然のリタイアで、当然のことながらモントーヤにも同じトラブルが発生しないか気になるところだったが、レースも残り30周を迎えた171周目、またもマーク・ブランデルのクラッシュでイエローとなり、ほぼ全車が最後のピットイン。モントーヤも無事に1位でコースに戻り、参戦5年目のトヨタが地元日本で悲願の初優勝を達成すると、誰もが信じていたその矢先の事だった。

 なんとモントーヤがまたピットへと戻ってくるではないか。原因は、最後のピットインの際にクルーが接触したのか、ターボのブースト圧をコントロールするポップオフバルブの配線が外れてしまい、ブーストがまったくかからなくなってしまったのである。クルーがその配線を元に戻すのに、それはわずか10秒足らずの出来事だったが、コースに復帰したモントーヤは8位まで順位を落として万事休す。トヨタ初優勝の夢は、またも消え去ってしまった。

 アンドレッティ、フランキッティ、モレノのオーダーで迎えた残り9周、トニー・カナーンのエンジンがブローしてイエローコーション。だがオフィシャルの懸命な作業によって残り5周、197周目にグリーンフラッグが振られていよいよクライマックスを迎えた3度目の日本ラウンド。

 アンドレッティにしかけるべく、おもいきりコースのアウト側によったフランキッティだったが、突如マシンがナーバスになり後退。あわやモレノにパスされるかというシチュエーションに陥ったが、順位は変わらず。結局、最後まで逃げ切ったアンドレッティが今シーズンの初優勝を遂げ、フォード3連覇。自身が最後に獲得した96年以来となるローラの優勝を、チップ・ガナッシの前に達成してみせたのだった。  

 2位は今年初表彰台となったフランキッティで、ランキングも9位にアップ。これで勢いにのることができるだろうか。初日からまったく良いところのなかったホンダも、最後は王者の意地を見せて地元日本で表彰台を獲得。3位には燻し銀の走りを披露したモレノが入り、ランキング3位をキープと今年は絶好調である。

「昨日の雨に、日本のファンは本当にガッカリしたと思う。でも、実をいうと僕にとっては恵みの雨だったんだよ。昨日のウォームアップの時にマシンのスロットルセンサーが壊れたんだけど、原因を探し出すために45分もかかってしまった。もし、あのままスタートすることになったら、セットアップの決まっていないバックアップカーで走らなければならなかったわけで、そうなったら絶対に優勝なんてできなかったね。だからこそ、またこうして集まってくれた日本のファンには、ほんとうに感謝している。みんなの前で勝つ事ができて良かったよ。ありがとう」  

 期せずして雨に翻弄されることとなった日本のCARTファンだが、その時、すでにドラマは始まっていた。そう、われわれをびしょ濡れにしてくれたあの雨は、アンドレッティにとってまさに”勝利の女神”だったのである。

●マイケル・アンドレッティのコメント
「今日は90%位しか勝てる可能性はなかったと思うんだけど、勝つことができて本当にうれしい。度重なる雨で、今日もてぎに来て貰うことはとても困難なことだったんだろうけど、今日は見に来てくれてありがとう。本当に感謝している。フォードにとってはもてぎ3連勝で、ローラにとっても今年初の勝利となる。とにかく表彰台に戻ってくることができてうれしいよ」

●ダリオ・フランキッティのコメント
「2番手なのは優勝に比べれば残念だけど、とてもうれしく思っているよ。 これも全てはクルーのおかげで、特にホンダエンジンは今まで見たことも ないほどすばらしいものだったんだ。最後のリスタートではアンドレッティを 抜き去ることを狙っていたんだけどね。またしてもオーバルでの初優勝を 逃してしまったよ。でも、入賞できたのは久しぶりのことで とてもうれしいことなんだ」

● ロベルト・モレノのコメント
「チームとのコミュニケーションを築き上げることに注力してきたので、 思っていたよりもとても速く結果を出すことができたよ。 これも全てはチームのおかげで、とても感謝してるよ」

●中野信治のコメント
「フルタンク状態でのセッティングを試す時間がなく、 ほとんどぶっつけ本番だったこともあって、 ターン1〜2ではオーバーステア、ターン3〜4では アンダーステアという苦しい状態でした。 また後半、自分のミスで走行ラインを外してしまって、遅れてしまいました。 一度ラインを外すと、4周はタイヤのグリップを取り戻すのに 時間がかかるんです。 久しぶりのレースでしたが、体は問題なかったし、 感覚も完全に戻ったので、これからはガンガンいけると思います」

●クリスティアーノ・ダ・マッタのコメント
「もう少し予選で良いポジションを取っていたなら、 トップ争いにも加われたんだろうけど残念だ。 でも、今日のレースには満足しているんだ。 チャンピオンシップポイントも4位につけることができたし、 次のナザレスでもこの調子でトヨタチーム初勝利に貢献したいね 」

●ポール・トレイシーのコメント
「20位というスタートポジションを考えれば6位という結果は素晴らしいことだと思う。チャンピオンシップを考えると今日の8ポイントはとても重要で、全てはチームのおかげと感謝している。クルーのピット作業は素晴らしいものだったが、マシンが不安定になりがちだったんだ。うまく追い上げられる確信がなかったのが、一番の問題だった位なんだ。レース中にもクルーはマシンのバランスを良くしてくれたんだけど、他のクルマの後ろに付いたときはナーバスになるのが残念だった 」