<US-RACING>
■ブレックが悲願のCART初優勝達成、フォードが4連覇を成し遂げる
前日までは好天に恵まれたツインリンクもてぎだったが、決勝レース日の天気予報は晴れのち雨。午後の降水確率は50%と報告されていた。雲がところどころに見えこそすれ、レース開始時にはまだ太陽が路面を照らしている。気温26度、路面温度40度のコンディションの中、予定どおり午後12時30分にグリーンフラッグが振られ、201周に渡るレースがスタートした。
予選ではトップのカストロネベスから、2番手フランキッティ、3番手ド・フェラン、4番手カナーンまでをホンダ勢が独占。ツインリンクもてぎでのCART開催4年目にして、ホンダは念願の初優勝に向けてもっとも近い位置に立った。ところが、オープニングラップで波乱の展開を予感させるようなアクシデントが発生する。
スタート直後のターン2出口で、5番手スタートのジュンケイラがトラクションを失ってスピン。横を向いて止まったジュンケイラを避けきれず、12番手スタートのダ・マッタと17番手のパピスが追突してしまう。このアクシデントでイエローフラッグが振られ、いきなりフルコースコーションになる。
マシンに大きなダメージを負ったダ・マッタは、ゆるゆるとコースサイドにマシンを止めてリタイア。原因を作ったジュンケイラはマシンをいたわるようにピットに戻ったが、右フロントのサスペンションを破損していたため、レース続行を諦めた。このフルコースコーションの間を利用して、3周目にディクソン、グージェルミン、高木虎之介が1回目のピットインを敢行した。
8周目にグリーンとなり、レースは再開。ポールシッターのカストロネベスがトップを守り、フランキッティ、カナーン、ブレック、ド・フェランが僅差で連なる展開となった。20周目、カナーンがフランキッティを抜いて2位に浮上するシーンが見られたが、レースは淡々と進行。スタート直後のアクシデント以降、なかなかイエローコーションにはならず、ハイペースでレースが進む。その中で、トラブルに襲われたドライバーがぽつりぽつりと戦線離脱していく。
最初に脱落したのは昨年の覇者、アンドレッティだった。優勝請負人を自任してホンダにやってきたミスターCARTは、33周目に突如スピードを失う。なんとか自力でピットに戻ったが、アンドレッティはマシンを降りた。ギヤボックスのトラブルだ。早々に身支度を整えたアンドレッティはインディ500の最後の予選に出場するため、表彰台を見届けることなくサーキットを離れた。40周目にはタグリアーニがリタイア、50周目にはハータ、51周目に高木虎之介、54周目カーペンティエがそれぞれメカニカルトラブルで戦列を離れる。
この日最初のピットインが行われたのは45周を過ぎた頃から。すべてのマシンがピット作業を終えた57周目、カストロネベスが依然トップを守り、2位にはブレック、以下トレイシー、カナーン、フランキッティ、ド・フェランの布陣で周回が進む。トップから6位のド・フェランまでがひとかたまりの集団。7位のザナルディから、8位のフェルナンデスを挟んで9位の中野信治までが第2集団を形成していた。57周目の段階で、すでに13位以下が周回遅れになっている。
63周目にトレイシーがブレックをパスし、2位に浮上。予選はポップ・オフ・バルブの不調で16番手に甘んじたが、一転、決勝レースでは快進撃を繰り広げていた。が、トレイシーはトップの座を奪うことなくレースを離れることに。75周目に突如スローダウンしたトレイシーは、アンドレッティ同様ギアボックスのトラブルに見舞われ、3速以外を失っていた。
トレイシーの離脱と入れ替わるように躍進したのが、チームメイトでプラクティス最速だったフランキッティ。この日28歳の誕生日を迎えたスコットランド人ドライバーは、91周目にカナーンを抜いて3位に浮上すると、93周目にはカストロネベスを抜いて2位にアップ。97周目にはブレックを抜いてついにトップに立った。
だが、フランキッティの天下はわずか1周で終わる。2回目の給油&タイヤ交換を終え、続いて上位陣がそろってピットインを終えると、フランキッティのポジションは5番手に落ちてしまう。そして126周目、最後は排気系のトラブルでリタイア。自らの誕生日を祝福することはできなかった。
各マシンとも3回目のピットインを控えた135周目のオーダーは、トップのカナーンにカストロネベスが続き、これをブレックとド・フェランが追いかける展開。上位4人のドライバーのうち、最初にピットインを敢行したのはカナーンで、145周目。次いで、150周目にカストロネベス。152周目にはド・フェランがピットに入った。
ホンダ勢がしびれを切らして給油するのを尻目に、154周目までピットインのタイミングを引っ張ったのがブレック。150周目からトップに立っていた無冠のフロントランナーは、ピットインを終えても余裕でトップのままコースに戻り、今度はカナーン、カストロネベス、ド・フェランが追いかける展開になった。
1999年以来2度目の勝利を狙うカナーンはブレックを猛追したが、燃料が持たないと判断して187周目に4度目のピットインを行ってトップ争いから脱落。替わってカストロネベスが2番手に浮上したが、ブレックとの間には4秒近い差があった。
フィナーレに向かう盛り上がりは突如としてやってきた。191周目、3番手を走行するド・フェランのマシン後方から白煙が吹き上がる。192周目にド・フェランに対してピットインを命ずる黒旗が提示されたが、相変わらず煙を吐きながらスロー走行を続け、193周目にようやくピットに入る。と、オイルに乗ったのか、その直後にミナシアンがターン4でスライドし、コンクリートウォールに激突。イエローコーションとなった。
このままチェッカーかと思われたが、クラッシュしたマシンの回収とコース清掃があっという間に終わり、ファイナルラップを告げる白旗と同時にグリーンフラッグ。先頭のブレックは危なげなく最後の1周をこなし、真っ先にチェッカードフラッグを受けながら左手を天に向けて突き上げ、CART初優勝の喜びを表現する。
201周のレースのうち、グリーンの状態が実に180周も続いた今回のレース。クリーンなレース展開とフォード・エンジンの良好な燃費がブレックの3ストップを可能にし、優勝に導いた。2位のカストロネベスも3回ストップで走りきったが、最後のイエローコーションがなければ燃料がもつ保証はなかったという。3位はカナーンが入り、表彰台の両脇をホンダ勢が占めたが、4度目のもてぎでも悲願は果たせなかった。フォードが初開催以来4連勝を飾る。
98年のIRLチャンプで99年のインディ500ウィナーのブレックはCART参戦2年目、24レース目の初優勝だ。所属するチーム・レイホールにとっては、昨年の開幕戦で成し遂げたパピスの初優勝以来。ブレックはこれまで2位を3回獲得しており、今シーズンに入ってからの4戦はすべてフロントローからスタートだった。今回の予選は6位と、今年初めてフロントローを逃したもてぎで、ようやく念願を果たした巡り合わせも興味深い。
注目の日本人ドライバーは、予選に引き続き、レースでも明暗を分けた。もてぎ初挑戦の高木虎之介は最初のイエローコーションの間に先手を打ってピットストップを行うまでは良かったが、44周目にスロットルに不調をきたして緊急ピットイン。応急処置を施してコースに戻るも最後まで調子は戻らず、51周目にリタイアを喫して失意のうちにレースを諦めることになった。
一方、13番手スタートの中野信治は安定したレース運びで着実にポジションアップ。3回目のピットストップが一巡した158周目からは、1周遅れながら6番手を走行。179周目から4周に渡って5番手を走った。だが、エア・ジャッキの故障によってピットストップに余計な時間を費やし、燃費に苦しんで周囲のドライバーよりも早めのピットインを行わなければならず、上位進出はならなかった。
前日に中野が遭遇した、ダッシュパネルが消えてしまうトラブルがチームメイトのフェルナンデスを襲った出来事は、新規チームの不安定な状態を表している。結局、中野は8位。昨年のデビューレースで記録した自己最高記録に並ぶなど、オーバルレースを着実に攻略しつつあり、次戦につながるレースだったと言えるだろう。
カストロネベスを筆頭に予選上位4人を含む、トップ10圏内に6人のドライバーを送り込んで必勝態勢を敷いたホンダだったが、今年も日本で勝ったのはフォードを積むブレック。ホンダの地元初優勝は来年までお預けとなった。表彰式が行われる頃はどんよりとした曇り空。撤収作業が始まる頃になって、激しい雷雨がもてぎを襲う。
スウェーデン出身の34歳、ブレックにとって日本は忘れられない思い出ができた場所となった。
●優勝したK.ブレックのコメント
「優勝できて肩の荷がおりたよ。ポールからスタートするよりも6番手からス タートしたほうが気楽だ。これまで、フロントローからのスタートでは、運に恵まれなかったからね。クルマの 調子も良く、フォード・エンジンの燃費も優れていた。とにかく、すべてがパーフェクトだった。イエローフ ラッグが少なかったのも、作戦が立てやすかった。チェッカーフラッグの瞬間は「ついにやった!」と叫んだ よ」
●2位表彰台を獲得したH.カストロネベスのコメント
まず始めに、勝つことができなくてHondaには申し訳ないことをしてしまった。レース中マシンはとてもいい仕上がりで、優勝することができる資質を備えていた思う。序盤のハイペースが終盤の燃費に響いたね。でも貴重なチャンピオンシップポイントを獲得してポイントランクでも2位に上がることができたから、この調子で次のミルウォーキーもいきたいと思う。
●3位表彰台を獲得したT.カナーンのコメント
今日のマシンは本当に素晴らしかったよ。ここまで仕上げてくれたクルー達にはとても感謝している。今日のようなレース展開の場合、燃費とピットの作戦がレースを大きく左右するんだ。それと幸運の女神の力も必要だね。今日は終盤ピットを行ってフルパワーを使いながらケニーを追撃する作戦を採ったんだけど、最後の最後でイエローが出てしまったからね……。
●4位、C.フィッティパルディのコメント
良いスタートを切れ、上々の走り出しだったが、1周目のアクシデントで順位を落としてしまった。トヨタのエンジンは燃費も良く粘り強く走り抜くことができたことは大変うれしい。
●5位、J.バッサーのコメント
他のマシンがメカニカルトラブルで戦列を離れていく中、トヨタエンジンは終始安定しており、確実に走り抜くことができた。去年から格段にトヨタエンジンは燃費も向上し、今後のレースはさらに期待が膨らむ。
●7位、A.ザナルディのコメント
今日はトップ争いをすることができる素晴らしい仕上がりのマシンだっただけに、Hondaには申し訳ないことをしてしまったよ。この結果にはガッカリしている。恐らく燃料計が不調だったと思うんだけど、レース中ガス欠になってしまってね。幸いバックストレートでのことだったからピットに戻ることはできたんだけど、時すでに遅しという感じだった。
●8位、中野信治のコメント
「8位という結果には満足していないが、速さを確認できたのは収穫だった。 ピットでタイムロスをするなど、細かいミスがあったが、それを除けば問題はなかった。レース終了間際のイエ ローコーションがなければ、前を走るクルマのうち2台は給油のためにピットインしたはずで、そうなれば6位に 入っていた。今回もツキに恵まれなかったが、いつかは必ず結果がついてくると思う」
●9位、S.ディクソンのコメント
ピットインをずらす作戦をとり、最後のイエローコーションがなければ、5位までには入れたと思う。とても悔しいがポイントを獲得できたことを次戦への励みとして頑張る。
●10位、R.モレノのコメント
長い1日だった。ダウンフォースが強すぎ、それをリカバーする為、余分にピットストップをすることになったが、完走し、ポイントを獲得できたことはうれしい。次もオーバルでの戦いとなるので、より上位を狙う。
●12位、M.グージェルミンのコメント
最初は、マシンのオーバーステアに苦しんだが、後半持ち直してきた。タフでサバイバルマッチのレースで完走することが出来、ポイントを獲得できたことは大変嬉しい。
●13位、G.ド・フェランのコメント
スタート直後は「これはいける」っていう手応えがあった。だけどそれも最後まで続かなかったようだね。ラスト7周目に3位を走行中、突然後方から火がでているのが見えた。どうやら熱で油圧管が裂けてしまい、それが原因で火災が発生したようだ。まったくツイてないよ。
●15位、N.ミナシアンのコメント
せっかくオーバルのサバイバルマッチを走り抜けることができると思ったその時、オイルに足をとられてスピンをしてしまった。本当に残念だ。これも勉強だと思って、これからのオーバルレースでの戦いへと挑む。
●16位、A.フェルナンデスのコメント
レース中、突然メーターパネルの表示がすべて消えてしまい、燃料も分からないから早めにピットストップするしかなかった。お陰でだいぶタイムをロスしてしまい、最後のピットストップの直前、ターン3のあたりからエンジンがバラつきはじめて、それで万事休す。それさえなければトップ6ぐらいには入れる自信はあったよ。
●17位、D.フランキッティのコメント
ターン1に進入する際、なにか異常な音がした。ピットに戻ってみてエキゾーストパイプが壊れていたのが分かった。まったく残念だ。それまでマシンはまったく問題が無くて、とても乗れている感じだった。うまくいけば表彰台だって夢じゃなかったはずだ。
●18位、P.トレイシーのコメント
すべてのギアがだめになってしまった。5速にシフトダウンした瞬間、3速以外が全部壊れた。チーム・スタッフのことを思うと非常に辛い。マシンの出来は最高だったんだが、結果が付いてこなかった。予選では本領発揮出来なかったけど、決勝では自由自在に走る事が出来たんだ。ギアボックスが壊れるまではね。
●20位、高木虎之介のコメント
「第3ターンで突然アクセルが戻らなくなってしまった。ピットインしてアクセルリン ケージなどをチェックし、レースに復帰したが、再び同じ症状が出た。2回ほど、コンクリートウォールに接触 しそうになった。あまりにも危険なのでレースを断念するしかなかった。チームに原因究明を急いでもらうとと もに、次の第6戦では全力で戦い、上位争いに加わりたい」
●23位、M.アンドレッティのコメント
良くはっきり分からないが、ギアボックスが壊れてしまったようだ。マシンの調子はかなり良かっただけに、この結果は非常に残念だよ。レースは周回遅れをうまく交しさえすれば、トップとの差を詰める事が出来たはずで、実際それを楽しみにしていんだ。
●24位、B.ジュンケイラのコメント
初めての“もてぎ”での決勝レースを前に第2ターンでコントロールを失ってしまった。サスペンションを破損してしまいレースを続行できなくなった。予選ではトヨタチームをリードしていただけに、大変悔しい。
●25位、C.ダ・マッタのコメント
今シーズンは、調子が上向きでスタートしているだけに非常に残念だ。B.ジュンケイラを避けようとしたら、コンクリートウォールの方へ行くしかなかった。気持ちを切り替えて次戦に備える。