Roger Yasukawa's

ペンスキーやガナッシと同じエアロ・キットが買えるなんて!

画像今週末に行われるインフィニオン・レースウェイの第13戦で、今シーズンのロード・コース戦はすべて終了となります。この1戦を前にロード・コース・チャンピオンシップのタイトルを決めてしまったウィル・パワーが、相変わらず総合ランキングも独走状態。オーバルが続く終盤戦で首位を保持できるかどうか、見ものですね。現在ランキング2位と3位につけているガナッシ勢のディクソンとフランキッティは、オーバルを得意としているだけに、最終戦までタイトル争いが持ち込まれるのではないでしょうか。
 

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さて、今回のコラムでは7月14日に発表された、2012年の新インディカーに関して書きたいと思います。それまでの数ヶ月にわたってダラーラ、ローラ、スイフト、デルタ・ウィングの4社がプレゼンし、最終的な決定がどうなるのか、世界中のファンやレース関係者が注目。そして、もうみなさんがご存知のように、2012年のシャシー・メーカーがダラーラで決定しました。
 
事前にシリーズが出していた新シャシーの条件として、3つの大きなポイントがありましたね。まずは、当然のことながら車体が安全であること。2つ目は低コストであること。そして3つ目は、アメリカ製であること。合理的にこの3つをクリアできるメーカーが、最終的にダラーラであると判断され、合意に至ったということになります。
 

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現在、ダラーラはすでにシリーズで唯一のシャシー供給元となっていますし、今となってはインディカー・シリーズのビジネス・モデルを一番理解しているメーカーだと言っても過言ではないでしょう。条件を満たすためにダラーラが頭を悩ませたのは“アメリカ製”という点だったと思いますが、イタリアに本拠を置くダラーラ社は、その条件に応えるためインディアナポリス・モーター・スピードウェイのすぐ近くに工場を建設することにしました。
 
ということで、今回発表された2012年のシャシーですが、「ダラーラが2012年からセーフティ・セルを供給する」と発表していましたよね。「セーフティ・セルって何・・・?」って思うかもしれませんが、ようするにシャシーのモノコックと考えれば良いと思います。つまり「安全性が確保された車体のメインはダラーラが制作し、それ以外の空力パーツは、各メーカーが独自に開発することができます」というルールです。
 

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ある意味、僕が以前のコラムで書いた「基本デザイン・コンセプトはどこかのメーカーに委託し、その他のメーカーがそれに基づいて制作する」という予想が、なんとなく当たっちゃいました。空力パーツを複数のメーカーから選ぶことが可能となるので、レースはおもしろくなると思いますが、問題は何社が新しい空力パーツを開発してくるか、ということです。
 
現段階で解っていることは、新しい空力パーツを開発するメーカーはIRLからホモロゲーション(認可)を得なければなりません。また、独占使用を避けるため、他のチームからオーダーが入った場合、すべてのチームに供給可能でなければならないという条件があります。チーム側としては、1シーズンに使用できる空力パッケージのメーカーが2社までとなっているので、まだ実績のない初年度の2012年は、かなり難しい選択となりそうですね。
 

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各チームがダラーラからセーフティ・セルを購入した時点で、空力パーツのキットが1セット付いてきます。チームはそのキットを使ってもいいし、他のメーカーのキットを買ったり、もしくは独自にキットを開発するかを選択。おそらく、潤沢な予算のペンスキーやガナッシ勢は、独自にキットを開発してくるでしょう。
 
予算が少ないチームはクルマに付属しているダラーラ製のキットを使うこともできますが、7万ドル払えばガナッシやペンスキー製のキットを購入するという選択も可能なんです! ということはペンスキーやガナッシと同じ道具を揃えることができるので、レースの全体的なレベルが上がることも期待できる!?!
 
では実際にメーカーがどのくらい参入してくるのか、気になるところですが、上記したようにペンスキーやガナッシ、それにアンドレッティも開発するとして、チーム以外ではロータスが興味を示していると表明しています。その反面、今回の新シャシー導入に向けてエントリーしていた他の3メーカーは、ほとんど興味を示していません。
 
その最大の理由が、空力パーツのキット価格だと思います。1つのキットの値段が7万ドル以下ということは、開発&生産コストを考えた場合、ビジネスとして成立しないのではないでしょうか。参戦するチーム側としては、結果に繋がるのであれば開発に投資をしても意味がありますが、シャシー・メーカーとしてはビジネス的に、空力キットだけを作るというのでは難しいのかもしれません。
 
ともあれ、みなさんもご存知のように、インディカーにはスーパー・スピードウェイ用と、ロード・コース/ショート・オーバル用の2種類のエアロ・パッケージがありますよね。将来、「オーバルには●●のエアロ・キットだ」とか、「ロード・コースだったら●●だ」といった会話もされるようになるのでは? チームにとってはキット選びも勝つための重要な要素となってくるので、このような新規参入のチャンスを作ったことは、レースを今以上におもしろくさせることにつながると思います。
 

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先週末のミド-オハイオで、ホンダが2012年からのインディカー・シリーズに、V6のツインターボ・エンジンを供給すると表明しました。他にヨーロッパのメーカーが最近の主流となりつつある直4ターボで参戦するのではないかという噂もありますが、エンジンに関しても2.4リッターの6気筒までというルールになっています。まだ他のメーカーは名乗りを上げていませんが、必ずどこかのメーカーがコスワースと共同開発をしたエンジンで、レースに参戦するだろうと僕は予想しています。
 

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2006年からシャシーとエンジン、そしてタイヤがほぼワンメイクの状態と化していましたが、2012年より他社の参入が増えることによって、シリーズがより華やかさを増してくれるのではないかと期待しています。ワンメイクにも良いところがたくさんあるものの、トップ・カテゴリーであるインディカー・シリーズには、やっぱり複数のメーカーの技術競争があって欲しいですよね。まだ再来年の話ですが、新インディカーでシリーズがどのように変わるのか、今から楽しみです!