Roger Yasukawa's

オーバルのスポッターって何をやる人?(前編)

画像先週末にカンザスで開催された今シーズンの初オーバル・レースを見る限り、チーム・ペンスキーVSチップ・ガナッシ・レーシングのトップ争いというレースの流れは、去年と変わりませんでしたね。しかし上位を狙う5〜10番手を走っていたマシンは、常に団子状態でデッドヒートを展開。レースを見ていた僕もテンションが上がってしまいました! 
 
いよいよ5月に突入し、来週末にはインディ500のルーキー・オリエンテーションが始まります。開催期間が短くなってしまったことから、ほとんどのチームが今週末は休みを取らず、インディ500に向けての準備で忙しくしていると思います。
 
今回のコラムでは、カンザスから4戦連続でオーバル・レースが続くこともあり、オーバルで重要な役割を担う“スポッター”についてご紹介したいと思います。
 
もうすでにカンザスのレポートをご覧いただいたと思いますが、Takuこと佐藤琢磨のスポッターを僕が担当することになりました。第4戦ロング・ビーチのレースが終わった後に、KVレーシングのヘッド・エンジニアであるジョン・ディックに声をかけられ、「Takuのスポッターをやってくれないか?」と突然頼まれたのです。ジョンは2003年に僕がデビューした時のエンジニアで、長年親しくしてきた彼からのオファーに、正直気持ちが揺れました。
 

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僕としては現場でスポッターをやりながらUS-RACINGのレポートを両立するのは難しいと思っていましたし、もし僕がシートを獲得できたら、チームは新しいスポッターを探さなければなりません。基本的にスポッターは毎回同じ人であるのが望ましいということもあり、チームやTakuに迷惑をかけたくなかったので、悩んだ末にお断りしたのです。
 
ところがレース翌日にわざわざTakuが僕の住むLAのダウンタウンまでやってきてくれました。ジョンから色々と僕の話しを聞いていたのでしょう、初めてのオーバル・レースにかける彼の熱意を聞き、Takuもチームも、僕がシートを獲得できた場合は大歓迎だと言ってくれました。
 
また、これまでどおりUS-RACINGのレポートも続けて欲しいということで、スポッターをやることによって違う目線でのレポートができるかもしれないということや、何よりも僕がTakuやチームに必要とされているのであれば、ぜひということでスタッフも快く理解してくれたのです。
 

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そんなわけで急遽引き受けることになったのですが、スポッターというのはズバリ、ドライバーにとって“第3の目”だと言えます! グランドスタンドの最上部に設置されたスポッター・スタンドからコースを見渡し、走行中のドライバーに刻々と変化する周囲の様々な状況を伝えるのがスポッターの役目です。
 
インディカーにはサイド・ミラーがあるのになぜ? と思われるかもしれませんが、常に350キロ前後で走行していると振動でミラーがぶれてしまうので、後方はほとんど見えません。その上ミラーはリア・タイヤにあたる空気抵抗を減らす役割もあり、ドライバーのシートからは少し見上げるポジションに設置されて見づらいというのもあります。
 

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もっとも350km/h以上の速度で他のドライバーとサイド・バイ・サイドで走っているのですから、いちいちミラーを見ている余裕などありません。ドライバーはひたすら前方に集中し、視界に入らない左右と後方に関しては、スポッターの声を聴きながら状況を瞬時に判断してバトルを繰り広げているのです。
 

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他にもスポッターの役目として、ミラーの代わりになるだけではありません。レース全体の流れを見て自分よりも速いクルマを見つけ出し、そのドライバーとドラフティングしながら追い上げた方が良いと指示することもあります。速いクルマにとって、自分をパスできないような遅いクルマであることが条件ですが、一緒についてきてくれる台数をできるだけ増やして1列に並んだほうが、よりスピードがアップするんです。
 
もっと燃料をセーブしたい場合や、レース後半に向けて勝負がかかっているような時は、その速度域にあったドラフティング・パートナーを見つけなくてはなりません。逆に、レース前のプラクティスでは同じようなスピードのクルマと組んで、トラフィック(混雑)の中におけるクルマのバランスを探ったりすることもします。
 
レース中は周回遅れなどの遅いクルマが前方にいればその事を注意するように促して、トラフィックに引っかかる時間を最小限にできるよう心掛けます。ドラフティング・パートナーを見つけたい時や、遅いクルマが前にいる場合は、そのドライバーのスポッターに直接話をして、協力してくれるようように交渉をすることもスポッターの重要な仕事なんです。
  

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クラッシュが起きればすぐに“Yellow!”と叫び、クラッシュしたマシンのデブリー(破損したパーツ)がコースのどこにあるかを伝えます。デブリーを踏んでしまうとタイヤがパンクする恐れがあり、大きなデブリーを踏んでしまった場合はマシンのアンダー・トレーを傷めてしまう場合もあるので、コーション中にデブリーを避けて走ることはとても大切です。
 
また、無線をとおして伝わるドライバーのメンタル面において、少し焦り気味であれば落ち着かせたり、ここぞという時は集中させるための動機づけをするなど、スポッターはドライバーにとってのサポーターでもあると言えますね。
 
ということで前編はここまで。後編では実際にどんな言葉でドライバーに指示を出すのか、紹介したいと思います。