Roger Yasukawa's

すべり過ぎるフロント・ストレートとBBSホイール増加の謎が解明!

画像フロント・ストレートでスリップしてスピンするという前代未聞のシチュエーションで予選が延期になったり、レース中に豪雨で赤旗中断になるなど、2010年IZODインディカー・シリーズ(IICS)は大波乱のレースで幕を開けました。
ラスト12ラップはライアン・ブリスコーとライアン・ハンター-レイ、そしてウィル・パワーのバトルになり、激しい攻防の末にウィルがレースを制覇。最後までエキサイトする内容で、現場に来ていたファンも大盛り上がりでしたよ。特に地元ブラジル人のヴィトー・メイラが表彰台に登場した時の歓声はすごかったです! 色々とありましたが、今回初開催となったサンパウロIndy 300は、大成功のイベントだったと言えるでしょう。

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レースを面白くさせた要素のひとつとして、市街地コースには珍しいロング・ストレートが含まれたコース・レイアウトが挙げられます。一番長いバック・ストレートは1.6km近いので、ドラフト(スリップ・ストリーム)に入って前車を追い越すには最適なゾーンとなっていました。その一方で、予選延期となるほどの問題があったフロント・ストレート(サンボドロモ・ストレート)ですが、実はレース1ヶ月前にここでサンバのお祭り“サンパウロ・カーニバル”が行われていたのです。

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毎年この部分はサンバを踊りながらパレードする会場となっていて、だからこのような両脇がスタンドのレイアウトだったんだと納得。大問題となった路面のコンクリートは、実は出演者がサンバを踊りやすくするための加工が施されていたということで、650馬力オーバーのインディカーでさえ逆らうことはできませんでした。みごとサンバを踊らされてしまったというわけです!!!くるくるくる〜!!!サンバ!

(もてぎでもサンバのコンテストとかやったらどうでしょう?)
コースを下見している時点で、どのドライバーもすべる事を認識していたとは思いますが、まさかストレートを全開で走れないなんて、誰も想像していなかったでしょうね。IICSとレース・プロモーターの判断、そしてクルーの懸命な作業で決勝前の夜の間に路面を削り、なんとかレースができるコンディションとなりました。来年もレース1ヶ月前にカーニバルが行なわれることを考えると、レース・プロモーターはまた路面をサンバ用に戻し、終わってから路面を削るという作業を繰り返さなくてはいけないのかも・・・。

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レースの翌日、ホテルをチェックアウトする時にレース・プロモーター会社の社長から聞いた話には、まだ続きがあります。コースで使うコンクリート・ブロックを最初に置いたのが1月中旬だったそうで、わずか1ヶ月半の間にコースを準備。初の市街地コースの場合3ヶ月ぐらい時間がかかるので、これも前代未聞かもしれません。チームやドライバーにとっても、ウルトラ・バンピーな路面も含めてたくさんのチャレンジがありましたが、みんな楽しんでいました。来年またブラジルでレースをしたいと、みんな思っているのではないでしょうか。

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こうして、帰る間際になってフロント・ストレートの謎を解明することができたわけですが、3週間前のオープン・テストから気になっていた“ホイール”に関しての疑問もブラジルで解決しました。IICSではBBSとO.Z. Racingの2社がホイールを供給していて、ちょっと前までは8〜9割のチームがO.Z. Racingを使用。それが今年に入ってから、やたらBBSを使うチームが増えていたのです。

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以前、インディアナポリス・モーター・スピードウエイでそれぞれのホイールをバックtoバック(交互)にテストしたのですが、ホイールのメーカーを換えることによって、ステアリングに伝わってくるフィードバックが変わってきます。僕がテストをした時は、BBSの方がポジティブなフィールを感じ取ることができたものの、一時BBSのホイールはオーバルでGの負担がかかり過ぎるとクラックが入るというトラブルが発生してしまい、ほとんどのチームがO.Z. Racingのホイール(写真↑)を使用するようになっていました。

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もともとBBS(写真↑)の方が風洞のデータ上ではドラッグ(空気抵抗)が少ないということをエンジニアからも聞いていましたし、みんな使いたがっていたのでしょう。BBSがクラックの問題をクリアしてきたことから、多くのチームがBBSを使用することにしたようです。ちなみにBBSはロード・コースでのブレーキの冷却製にも優れていて、O.Z. Racingのホイールと比べると、20℃近く低いブレーキ温度を保てるそうです。

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ブレーキ温度は高すぎても低すぎてもダメで、最適な温度を保つために各エンジニアがコースに適したホイールをセレクト。チームによってはフロントとリアのホイール・メーカーが異なる場合もあります。今回のサンパウロは市街地コースなので、一般的にはブレーキの負担が増えるところ、1.6km近く長いバック・ストレートはブレーキ温度を下げ過ぎてしまうことから、KVレーシングのようにあえてO.Z. Racingをフロントに設定し、ブレーキ温度を高く保つチームがいましたね(写真↑)。

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速く走るためには、速く止まることができないといけません。ブレーキの性能はタイム・アップへの重要な要素で、ブレーキを踏んでいる時間を減らすことがタイム・アップに繋がりますし、コーナー進入時に絶妙なタイミングでブレーキを離すことによって、クルマが自分の思うように向きを変えてくれます。これらの動作をしっかりとできるように、ホイールも重要な役割を果たしているのです。

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もう来週末にはセント・ピーターズバーグ(写真↑)で第2戦が行なわれますね。次回は各チームとも様々なデータを駆使してレースに臨むことになりますが、どんな戦いになるのかが楽しみです。
残念なことに、開幕戦は日本人の両選手がリタイアで終わってしまったので、次戦での活躍を期待したいですね! シーズンはまだ始まったばかりですが、開幕戦をご覧のとおり、今シーズンは今まで以上にコンペティティブな戦いが期待できそうですよ!