今回のコラムは“ロジャー安川レース・レポート”の決勝編です。
決勝当日は6時に目覚ましを設定していたのですが、5時半に目が覚めてしまいました。起きて最初にしたことは、カーテンを開けて天気のチェック。まだ日が出たばかりでしたが、快晴の空を見て一安心です。すぐにシャワーを浴びてフルーツを食べ、チームのユニフォームに着替えて7時前にはパドック入りしました。
前日は久しぶりにインディカーに乗ったせいか、身体の筋肉が張っている気がして、あらためてインディカーならではのGの負担を実感。特に左の首筋や右腰の筋肉が張っていて、このままじゃまずいと思い、知り合いのトレーナーさんに8時から身体をほぐしてもらいました。
今回初めてお願いしたトレーナーさんだったのですが、実は僕の親戚で全日本キック・ボクシング・チャンピオンの石川直生君に紹介してもらったトレーナーさんです。他にもK-1選手の山本優弥選手や、フォーミュラ・ニッポンに参戦する松田次生選手などのコンディショニングをしています。
普段はストレッチだけしてクルマに乗り込むのですが、今日は本番で最大限の力を発揮できるよう、レース前にボディをフルメンテしてもらいました。色々とツボを押されてメチャメチャ痛かったのですが、終わってみると身体はスッキリ! 肩の重さもなくなり、レースに100%集中できる準備が整いました。
ボディ・コンディショニングを終えて、チームと軽くミーティングをしてからは、ロジャー・ファン・シートを購入していただいた方の中から抽選で当たった方と一緒に、グランドスタンドの上にあるスポッター・スタンド・ツアーへ。ほんの数分でしたが、そこでロジャー・シートのファンのみなさんと会うことができ、スポッターとドライバーがどんなやり取りをしているのかを説明させていただきました。なんだか最近は高所恐怖症で、スポッター・スタンドでは下を見ない様にしていましたよ。(笑)
その後は、グランドスタンド裏にあるホンダ・ブースに行って、ヒデキと短いトークショー。レースに向けての抱負を話して間もなく、迎えに来ていたクルマに乗り込み、ガレージへ戻って10時から始まるドライバーズ・ミーティングへ直行しました。
ミーティングではレース中に気をつけるポイントの説明や、もしイエローが出た場合はスイーパー(掃除機)を走らせてハイ・サイド(外側)に積もったタイヤ・カスを掃除する場合もあるから、コーション中はくれぐれも気をつけるようにという話があり、10分ほどで終了です。
そのまますぐにガレージへ戻ってチーム・ミーティングを行い、レースの戦略について話し合いました。オーバルのレースは基本的にレースの流れによって、かなり流動的です。しかし過去のツインリンクもてぎのレースを振り返ると、燃費レースになることが多いので、とにかく必要の無い時は燃費をセーブすることが重要だということになりました。
フューエル・マップ(エンジンの燃費調整)のスイッチを変えるのは、ドライバーの自己判断で調整することになりました。チームのピット・スタンドから見ていると、どのくらいのレベルで燃料をセーブできるかが判りづらいので、状況次第では前車に離されないようにしながら、後車にも抜かれないような微妙な調整を自分でしなければなりません。
ミーティングが終わってからは、パドックまで駆けつけてくれたスポンサーや友達、ファンの皆さんと少しだけお話できました。そして、レースに向けて頭を100%レース・モードに切り替えるため、チーム小屋へ入って集中&テンション・アップです。
11時頃からドライバー紹介が始まるので、いざステージへ。この時点ではもうレース・モードに入る直前までテンションが上がっています。選手紹介が終わり、S2000に乗り込んで日本国旗を持ってパレードラップ。マシンに乗り込む前の最後のトイレを済ませてから、グリッドへと向かいました。
グリッドでは、チームのスタッフと最終ミーティング。特に戦略の変更が無いことや、温度や湿度、そして風向きの話を聞いてから、マシンに乗り込みます。1年半ぶりのレースだけあって、マシンに乗り込む時はさすがにちょっと緊張しちゃいましたね。
チーフメカの指示でエンジンがかかり、コース・イン開始。2ラップのフォーメーション・ラップを終えてから、いよいよグリーン・フラッグです。ほんとうは出だしからガンガンいきたいところだったのですが、最初のスタートはやや無難にいってしまいました。実は予選が終わった後にエンジニアと話し合い、決勝ではさらにアグレッシブに走れるセットに変更。まずはフィーリング・チェックと言うことで、序盤は様子見という感じだったのです。
スタートでポジションを落としてしまったものの、走り始めるとマシンのバランスは悪くなく、「おっ、今日はおもしろいレースができそうだ!」と内心思っていました。1スティント目は何台か追い越し、ヒデキと一緒に走ることもできて、1年半ぶりのレースの出だしとしては上出来だったと思います。
そして緊張の瞬間でもある最初のピット・ストップ。クルーのピット作業は思った以上に速く、まったく練習をしていなかったので驚きました。コースに戻るためのアウト・ラップをちょっと無難に走ってタイム・ロスしたので、これを補うために早速ターン1〜2に全開で進入します。
ところが、ターン2にあるバンプを超えた瞬間、突然マシンから「バキッ」と言う音が・・・。その直後にいきなりハンドルがいうことをきかなくなり、クルマは壁へまっしぐら! いったい何が起きたのか解らず、「おいおいおい・・・」と焦りながらもなんとかマシンをコントロール。いつスピンしてもおかしくないマシンを労りながら、やっとピット・レーンまで戻って来ることができたのです。
ピットに戻る前に無線で「マシンのなにかが壊れた! 今からピットする!!」って言ったんですけど、なぜかリアクションなし・・・。どうやら、ピット作業中に飲んだドリンクがマイクにかかってしまったみたいで、僕の声が聞こえなくなっていたようです!?!
ピットに戻ると、ピットクルー全員が僕の方を見て「何で戻って来たの」というような冷たい視線。マイクに向かって怒鳴りながら状況を説明したら、ようやく異常に気がついてくれました。クルーが簡単にサスペンション周りをチェックしたところ「異変は見つからない」と言われ、「そんなはずはないのに・・・」と思いつつもう一回コースへ。しかし状況はさらに悪化していて、ピットに戻るのがやっとという状況の中、なんとかクラッシュせずに帰ってきたのです。
「明らかに何かが壊れている」と言うと、クルーがエンジン・カウルを外し、右リアのダンパーが折れていることが判明。ダンパーが折れる話なんてきいたことがないので、驚きました。いま思うと、そんな状況だったにも関わらず、すぐに異常を察知することができて、クラッシュしなかったのはほんとうにラッキーだったと思います。
「とりあえず壁にぶつからなくて良かった〜」と思ったのも束の間、チームから無線で「ロジャーお疲れ、今日は終了だよ」と信じられないことを言ってきたではありませんか。それを聞いた瞬間にカチンときて「直して最後まで走ろうよ!」と強い口調で言ったせいか、チーム・マネージャーも賛成してくれて急いでクルーがダンパーの修復作業を開始。折れたダンパーが不良品だったのか、それ以外に原因があったのかどうかは、チームがインディアナポリスに持ち帰って分析をすると思います。
正直言うと、ダンパーが壊れた原因が他にないのかどうか、しっかりチェックできていないのに、コースへ戻るのは怖かった部分もあります。しかし今回のインディ・ジャパンは、参戦するのにものすごく苦労をして、なおかつみなさんの協力があったからこそ参戦できたのです。それを考えると、ここで終わってはいけないと強く思いました。僕自身、今回ショボイ走りをしたら引退しようと決意していただけに、こんなところで止めるわけにはいかなかったのです。
レース・リザルトとしては、ダンパーが折れてしまった時点で終わってしまいましたが、「僕のレースはこれからだ!」と自分に言い聞かせ、コックピットの中でさらに集中力を高めて、修復作業が終わるまで待っていました。新しいダンパーをセットして、マシンに組み込むのに30ラップもロスしてしまいましたが、わずか10分で直してくれたチームにはほんとうに感謝です。
レースに復帰し、何事も無かったかのように他のマシンとガチンコ・バトル開始! 気がついたらペンスキーのマシンやAGR勢と同じペースで走ることができ、ダンパーを換えた後の方が、なんとなくマシンのバランスが良いような気もしました。レース中のラップ・タイムも、ラスト5ラップで自己ベストと並ぶタイムを立て続けに刻み、最後まで全力で走りきることができました。
最終ラップの合図であるホワイト・フラッグに気づかないほど、前のクルマをパスすることに集中していたので、メイン・ストレートでチームから無線で「グッジョブ、お疲れさん!」と言われて初めてレースが終わった事を知りました。こうして、僕の200ラップのレースが終了したのです。
なんだか、あっと言う間に終わってしまったレースでしたが、久しぶりに達成感のある走りができました。ペンスキーやAGR勢を追いかけ回している時は、ヘルメットの中でニヤニヤ笑みをこぼしていたくらい、レースを楽しむことができました。クール・ダウン・ラップで色々と考えた結果、「やっぱインディはやめられないな〜」と思い、来年もまたチャレンジすることを決意。今回、リザルト的には胸を張って言える結果ではありませんでしたが、人生Never Give Upです!!
ピットにマシンを停めてスタッフにお礼を言ってから、ダッシュでロジャー・ファン・シートに行き、応援してくれたみなさんにお礼&ご挨拶です。レースが終わってからもみなさんから熱い声援をいただき、また来シーズンに向けてのエネルギーをしっかりともらうことができました。みなさん、ほんとうにありがとうございました!
少し長くなりましたが、僕自身のレース・レポートはいかがでしたか? 今回のインディ・ジャパンは色んな意味で、僕にとっては特別なレースでした。みなさんのご協力があったからこそ参戦できたレースで、いただいたサポートには心から感謝しています。
今後も一緒に戦っていけるようにがんばりますので、引き続き応援よろしくお願いします! ほんとうにありがとうございました!!