Roger Yasukawa's

リッチモンドに必要な3つの要素を備えたヒデキ

画像ヒデキが表彰台を獲得したアイオワのレースから早くも1週間が経ち、先週末はリッチモンドでインディカー・シリーズの第7戦が行われましたね。前回のコラムでもちょっと書きましたが、ここはまさに戦場のようなコースで、レースは格闘だと言って良いかもしれません。
今回は、このリッチモンドのレースに欠かせない3つの要素、体力、ハンドリング、そして精神力について書いてみたいと思います。
まずは体力面ですが、1ラップわずか16秒のコースなので、ストレートで呼吸を整えられる時間はほんの4秒前後。コーナリング中は横と縦のGに耐えるためにぐっと踏ん張っていることから、ほぼ無呼吸状態となります。
必要な酸素を取り入れづらいだけでなく、ダウンフォースの量も他のコースより多くつけているので、ハンドルはメチャメチャ重い! シリーズ中最もコースが小さいということは、イコール最も混雑するということであり、重いハンドルで常に他のクルマとバトルしなくてはいけません。

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次にハンドリングについてですが、当然ハンドリングが良ければ、無駄な体力を消耗しないのでイライラする必要もなくなります。しかしリッチモンドで1スティント(次の燃料補給までの走行)を通して、バランスの良いマシンを作ることはとても難しいのです。
ここは他のコースに比べてアクセルの全開率が少なく、燃費がそれほど悪くならないので、1スティントが100ラップを超えるということを覚えておいてください。このようなコースは珍しく、今回のヒデキやダニカのように、グリーン中の2ストップでも完走できるコースはほとんどありません。
コースが小さいということは、追い越しも非常に難しい。となるとできるだけ燃料をセーブして、フューエル・ウィンドウ(フル・タンクで走行可能な距離)のぎりぎりまで粘り、イエローが出てもピットに入らない作戦をとればいっきに上位へ進出することが可能となってきます。
なぜそのようなことができるのかというと、ほとんどのリッチモンドのレースでは、やはりタフなコースだけに50ラップ前後で何らかのアクシデントが発生し、イエローが出る可能性が多いということが上げられます。通常はイエローがピットの絶好のタイミングで、今回もヒデキとダニカを除くほとんどのクルマが1回目に入りましたよね。

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ヒデキとダニカのAGRが取った作戦は、コーションで入らないというものでした。彼らはピット・ストップの回数を2回にする作戦に出たわけですが、ハンドリングも相当自信があったのでしょう。フル・タンクでスタートして100ラップ近くもバランスを保ちながら走れるマシンを作るというのは、簡単ではありません。
リッチモンドはタイヤが減っていくにつれて、トラクションに悩まされます。そもそもオーバルではトラクションのことをあまり言わないのですが、このコースに限ってはコーナーのRが小さいため、コーナーの出口でアクセルを踏んだ時に、リア・タイヤを滑らないようにすることが重要なのです。
通常、オーバルのレースでは、右側のリア・スプリングの方が堅いというのをご存知でしたか? 右リア・タイヤが軸になってコーナリングすることが一番速いからなんですが、リッチモンドでは場合によって左側に堅いスプリングを付けて、少しでも右リア・タイヤの負担を減らすようなセットで走ったりします。
よくスティント前半はものすごく速くても、20ラップもするとトラクションがなくなり、ズルズルと順位を落とすマシンが出てきますが、あれは速さだけを狙ったものです。重要なのは左右のタイヤをバランス良く使い、長いスティントでも安定した速さを保つハンドリングでなければならない、ということなんですね。
今回はそれほどでもなかったですが、レース中はスティントの途中から周回遅れのマシンがたくさん出てくるので、トラフィック・マネージメントも大切です。コースが小さいために、ラップ・ダウンのマシンを追い越すのはなかなか苦労します。

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2ワイドで走ることはほとんどできず、アウト側に行ってしまうとマーブル(タイヤ・カス)に載ってしまい、壁に当たってしまう恐れがあります。リスクをできるだけ避け、イン側から追い越せる戦略を立てたり、そのようなタイミングが来るまで待つことも重要です。イケイケだけでは勝てません。
以上のような要素に加え、もちろんレースでは何が起きるか解らないので、どんな状況に陥っても対処できることが必要。3つ目のポイントである精神力ですが、リッチモンドは特に図太い神経の持ち主でないと、優勝は難しいでしょう。

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さて、今年のレースですが、僕ら日本人としては、ヒデキがトップを快走し、「もしかしたら勝っちゃうんじゃない?」という状況だったので、かなりエキサイトしましたね! コーションのタイミングがトップ3に味方したため、ほんとうに残念でした!
彼はこのリッチモンドに必要な3つの要素を、持っていたと思います。2レース続けて良い走りを見せたヒデキは、完全に良いリズムに乗ってきました。今のヒデキにとって一番大切なのは、いつ勝ってもおかしくないポジションを走ること。AGRのチーム力を持てば、必ず優勝するチャンスは訪れるはずです。

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しかし何よりも嬉しいのは、この2戦を見るとヒデキがすっかりAGRのチーム・リーダーとなっていることです。インディ500からトニーが不調だということもありますが、その分ヒデキが安定した走りを見せて、チームにかなり貢献していると思います。
ヒデキのドライビング・スタイルを見ていると、ダリオとチームメイトになれたら、さらに飛躍するんじゃないでしょうか? 勝手な想像ですが、ヒデキがガナッシに移籍するか、ダリオがAGRに戻ってくればおもしろいことになるかもしれませんね!?!

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今回のレースはガナッシのワンツーでしたが、彼らは運で勝ったような部分もあります。ヒデキが2ストップだったのに対し、スコットは3回、ダリオは4回もピット・インしたのですが、そのどれもが彼らにとって絶好のタイミングで巡ってきたのでした。ガナッシは運も味方にしているかのようです。
マシンのレベルがほとんど横並びになってきているので、コース上でのパッシングもあまりなく、イエローが少なかったのは驚きです。イエローが出ていればレースはもっとおもしろい展開になっていたかもしれません。グリーン中にピット・ストップをするクルマが多かった今回のレースは、リッチモンドとしても例外だったと言えます。
次回のレースはワトキンス・グレンで、久しぶりのロードコースです。いいかげんペンスキーとガナッシ以外のクルマがビクトリー・レーンに入るシーンを見たいところですが、残念ながら過去の戦歴を見るとワトキンスも赤白のクルマが勝つ可能性が高そう・・・。ショート・オーバルでバッチリ自信をつけたヒデキが、ロードでもしっかり実力をアピールしてくれることを期待しましょう。
僕自身は先週末ウィスコンシン州にあるロード・アメリカで、フェラーリ・チャレンジ・レースのドライバーをコーチしていました。ロード・アメリカは昔CARTのレースも行われていて、僕がアメリカで一番好きなロード・コースですね。
現在僕がコーチしているドライバーは、“インディ500シート獲得奮戦記”でも紹介しましたが、インディアナポリスに拠点を持つ世界最大のモータースポーツ専門代理店の社長です。F1、NASCAR、そしてインディカーにたくさんのクライアントを持っているので、インディ・ジャパンと来季の500に向けてのスポンサー活動の協力を、しっかりとお願いしておきました!
フェラーリ・チャレンジのレースでは、スポンサーに繋がる可能性のある人と出会ったりすることができるので、ある意味チャンスです。でも人が走っているところばかり見ていると、身体がムズムズしてきますよね。今からインディ・ジャパンでクルマに乗るのが、すごく待ち遠しいです!