インディカー・シリーズの中で最もスリリングなバトルが見られるのが、先週末にレースが行われたテキサス・モーター・スピードウエイです。インディカーのコースの中で一番バンク角度がついていて、サイド・バイ・サイドどころか、スリー・ワイドのレースが常識というぐらいにレースが盛り上がります。
では、テキサスのバンク角度がどのぐらい違うのか、他の1.5マイル・スーパー・スピードウエイと比較してみましょう。カンザスとシカゴは18°、ホームステッドは18°〜20°、9月にインディ・ジャパンが開催されるツインリンクもてぎは10°。それに対して、テキサスはなんと24°もあります!
バンクがついている一番下のレーンから見上げると、まさに壁! 下のレーンから上までの高低差は、アメリカの基準の2階建てのビルの高さです。このバンク角度がコーナリングを楽にさせてくれるので、マシンのハンドリングが多少悪くても、コースを簡単に全開で走ることができてしまうんですね。
その上リア・ウイングの角度(10°)や、そのウイングに装着するガーニー・フラップの大きさ(1インチ)がルールで決まっているため、ダウンフォースの量の設定に関しては、ほぼ全チームが一緒となります。そうなると、いかにドラッグ(空気抵抗)を減らせるかが勝負の決め手となります。
リア・ウイングの角度が決まっている状況で、どうやって空気抵抗を減らすのかというと、まずはフロントの車高から調整します。イメージ的には下げたほうがいいと思うかもしれませんが、実はフロントの車高を規定の中で最上の高さまで上げることによって、空気抵抗を減らすことができるのです。
メカニカル・グリップのセッティングはというと、ほんのちょっとしたハンドル操作も抵抗につながり、タイムロスとなってしまうので、できるだけハンドルを切らずに(!)クルマがコーナーを旋回してくれるセッティングを作ります。ダンパーやスプリングのセッティングを工夫することにより、ストレートでは空気抵抗を減らし、コーナーではフロントに必要なグリップを与える理想の車高を追及していくのです。
さて、実際にこのコースを走ると、ストレートで走っている時と比べて、コーナリング中にフロントが沈むことによって、目線が5mm近く下がるような気がします。これだけフロントが沈むということは、セッティングによるものだけではなく、コーナリング中に横Gとは別に、縦Gもかかっているということです。縦Gの負荷がかかると、コックピットの中でも上からものすごい力で下に押し付けられているような感覚になってきます。
IRLのクルマはルール上、215マイル前後で走るように設定されているだけに、目眩をおこすまでには至りませんが、平均230マイルを超えてしまうと、2001年に開催されたCARTのレースのように、ほとんどのドライバーがボイコットする形で中止になってしまう恐れもあります。
縦Gがかかっているコーナリングがどういうものかというと、ほんとうに息が吸えなくなり、腹筋をぎゅっとしめつけられているような気がします。僕自身もテキサスでレースを終えた後には、肩がものすごくこったり、妙に体調が悪くなることも多かったほど。テキサスの24°バンクは身体への負担が大きいと、いつもレースを終えてから実感します。
コースやセッティングに関してはこのぐらいにし、レースでの走り方についても説明しましょう。
テキサスを筆頭とするハイ・バンク・オーバルのレースは、まさにチェスや将棋と似ています。というのも、常に2〜3ラップ先の状況を考えながら、勝負に挑まなくてはいけないのです。特にドラフティング中は目の前のクルマだけを見るのではなく、数台前を走るクルマの動きやペースを見計らいながら、前車をオーバーテークしなくてはいけません。
団子状態で走っている時は、タイミングをうまく読むことが重要。そうでないと、1台パスしようとしたことでドラフティングの列から外れてしまい、ポジションを落とすことに繋がってしまう場合があるのです。要するに、前車をパスしたくても、その前方に自分が列に再び入るための「穴」がないと、無駄な努力になってしまうということです。
ドラフティングに入ってしまうとスピードも増すので、時にはラインを半レーン列からずらし、アクセルを全開にしたままわざと空気を車体にあてて減速し、スピードを調整しながら列に「穴」ができるタイミングまでジッと待っていることもあります。
このようにハイ・バンク・オーバルのレースは、相手がどう動くかを推理しながら対戦する、まさに心理ゲームだと言えるでしょう。しかし、実際に先週末のレースを見ると3ワイドどころか、サイド・バイ・サイドもあまり見られない内容で終わってしまいました。
結果的にはいつも通りペンスキーとガナッシ勢の独走レースでしたが、スタート直後からいきなりグラハム・レイホールがEJビゾとミルカ・デュノを道ずれにクラッシュ。彼らも含め、最初のスティントのクルマの動きが示していたように、多くのドライバーはクルマがルーズ(オーバーステア)だと訴えていたのですが、これはテキサスのレースでは珍しい現象です。つまり、ほとんどのチームがギリギリのところで、マシンを調整しているということでしょう。
今年からホイールベースが122インチに規定され、同じシャシー、エンジン、タイヤで走っていることによって各車の差はほとんどありません。そんな中、すこしでも空気抵抗を減らそうと、時間とお金をかけているチーム順に、レースが成り立っているような気がしてしまいます。
これまで、テキサスのレースのほとんどがサイド・バイ・サイドで終わっていたのですが、今年のレースはピットのポジションで有利な位置にいたエリオが、最後にトップに出て優勝しました。
レース後のインタビューでは、3位でゴールした昨年の覇者ディクソンが「マシンがイコールすぎてオーバーテークができない! レースを面白くするには、もっと色んなメーカーが加わって、ルールをもっとオープンにしなくちゃ、やってる方も見てる方もつまらない・・・」と言っていましたね。それだけクルマの差がなくなってきているということなんでしょう。
さて、9月19日に開催されるインディ・ジャパンのツインリンクもてぎとテキサスは、同じ1.5マイルでもだいぶ違うことを、このコラムであらためて理解していただけたのではないでしょうか? 実はツインリンクもてぎは先週行われたミルウォーキーと、テキサスを足して割ったような感じなのです。
テキサスはバンク角が一番きついのになぜ? と思うかもしれませんが、もてぎはターン3〜4でスピードが極端に下がるため、ターン1〜2はほとんどの場合全開となります。
常に全開となるのはテキサスだけで、もてぎのターン1〜2がテキサス、ターン3〜4がミルウォーキーに似ているため、この2レースのリザルトを見るとインディ・ジャパンの結果がある程度予想できるかもしれません! とは言っても、結局はどちらのレースも今年はペンスキーかガナッシの独占状態となっていますが・・・。
僕がインディ・ジャパンで走るドレイヤー&レインボールド・レーシングは、この2戦不調でした。しかしミルウォーキーでスポット参戦をしたトーマス・シェクターがテキサスから、もてぎを含む9戦を同チームで戦うと発表!
トーマスは多くのトップ・チームを渡り歩き、豊富なデータを持っているので、チームにとってもプラスになると思います! なんとかインディ・ジャパンまでにはオーバルのセットを改善し、少しでも良い体制で僕も戦えるよう、トーマスにもがんばってもらいたいですね!!