Roger Yasukawa's

インディカー開幕戦の見どころ徹底紹介!

画像みなさん、こんにちは。US Racingでコラムを書かせていただくことことになった、レーシング・ドライバーのロジャー安川です。このコラムでは、レースが開催されるサーキットやレース中に起きた出来事をドライバーの視点で解説したり、チーム状勢やパドックでの裏話を“ここだけのはなし”というかたちでお届けしたいと思います。

早速ですが長いオフ・シーズンも終わり、いよいよ4月5日にセント・ピーターズバーグでインディーカー・シリーズが開幕しますね。2009年はスケジュールが大幅に変更され、今までのホームステッドの1.5マイル・オーバルから、セント・ピーターズバーグの市街地コースへと場所が移されました。

去年の市街地レースでは、チャンプカーからの移籍組が強かったイメージがありますが、開幕前の最後の調整として行われた22日と23日のバーバーでのオープン・テストの結果を見る限りでは、今年もペンスキーとガナッシ勢が独走態勢に入りそうな勢いです。

セント・ピーターズバーグのコースは、僕が2005年にフル参戦した時に走ったことがあります。この時は、IRLにとって初めてのロード・コース・イベントで、僕が当時在籍していたチーム(今年のインディ・ジャパンで一緒に参戦するドレイヤー&レインボールド・レーシング)にとっても初めてのロード・コースのレースだったこともあり、セッティングが決まらずかなり苦労した覚えがあります。

画像

コースの特徴は典型的な市街地コースとも言えますが、メイン・ストレートが飛行場の滑走路というのはとてもめずらしいです。他の部分では一般道を使っていることから、路面の舗装が場所によって異なるために、一定のグリップ・レベルを保つことがとても大変です。その上、市街地コースは基本的に凸凹が多くバンピーなので、サスペンション・セッティングに柔軟性がないと、なかなか自分の思う方向にはクルマが動いてくれません。

http://www.gpstpete.com/uploads/fanguide_3-23_2009.pdf

まずこのコースのキー・ポイントですが、1コーナー、4コーナー、10コーナーのブレーキング・ポイントに注目してください。すべてがパッシング・ポイントとなるので、ブレーキング時に、クルマが跳ねずに真っすぐブレーキングできることが重要です。ブレーキング・ポイントの路面が若干荒れていることもあるので、できるだけクルマのバランスを乱さずに、ブレーキを踏むポイントをいかに奥まで持っていけるかがタイム・アップにつながります。

セッティングを出す方向としては、まずブレーキ時のバランスを良くしないと、コーナー進入時にクルマを理想的な方向に向けられません。ミスをすれば当然コーナリング・スピードが落ちてしまいますし、理想とするポイントでアクセルを踏むこともできなくなってしまうのです。

次に、市街地コースの最大の難点であるトラクションについて。ほとんどのコーナーが低速コーナーなので、アクセルを踏んだ時点でトラクションがかからないとそれ以上アクセルは踏めませんし、踏んでもホイール・スピンを起こしてクルマが前に進みません。2005年に走った時はトラクション・コントロールの使用が許されていましたが、今は禁止されているので、低速コーナー立ち上がりでのアクセル・コントロールはよりシビアになっていると思います。

とくに1コーナー、9コーナー、14コーナーの立ち上がりでは、いかに早くアクセルを踏めるかがタイム・アップにつながり、レース中は前車を追い越す上でのキーとなります。セッティング的にはトラクションを上げるためにリアのロールバーを外したり、スプリングやダンパー・セッティングを柔らかくすることが一般的ですが、あまりクルマを柔らかくしすぎると、11から12コーナーなどの高速コーナーで動きがモタモタと鈍くなり、クルマの挙動を早く変えたい時のコントロール性が落ちてしまいます。

オーバルと違い、ロード・コースでは足回りのセッティングから空力バランスも含めて、クルマのバランスの良い部分と妥協しなくてはいけない部分を見極めながら方向性をつかむことが重要。だからこそエンジニアの能力、そしてコミュニケーション&信頼関係がとても大切なのです。今年はドライバーの移籍&復帰がたくさんありますが、エンジニアにも色々と動きがあったので、さらにレースがおもしろくなりそうですよ。

一番大きな変更があったのは、AGRです。トニーとインディ・ライツ時代から13年間ともに過ごしてきたエンジニアのエリック・カウディンがペンスキーへ移籍し、ブリスコーの担当エンジニアに就任。代ってトニーにはダリオがAGRに所属していた時のエンジニアである、アラン・マクドナルドが就きました。

画像

新しくダニカを担当することになったのは去年までマルコの担当だったエディー・ジョーンズで、マルコにはニューマン・ハースの黄金時代を支えた大御所エンジニアのピーター・ギボンズが就任。唯一、英紀だけは同じスタッフで戦うことが決まっています。これは英紀にとっても良いことで、昨シーズンから築いてきた信頼関係によって、今年はさらに良い結果が狙えると思います。

その他にもニューマン・ハースには、去年ダニカを担当していたマーティン・パレが移籍してドーンボスの担当となりました。AGRのデータをゲットしたニューマン・ハースは、自分たちの経験が少ないサーキット、特にオーバルにおいて大幅な戦闘力アップとなるのは間違いありません。

デイル・コインには長年ガナッシのチーフ・エンジニアを務めたビル・パパスが入り、ジャスティン・ウィルソンのロード・コースにおける能力を考えると、あなどれない存在となるでしょう。そして、僕がインディ・ジャパンで走るドレイヤー&レインボールドには、ビジョン・レーシングのマネージャーとエンジニアが加入。さらにポール・トレイシーを03年にチャンプカー王者へと導いた、フォーサイス・レーシングのリード・エンジニアであるマイク・パロウスキーが入り、確実にチームのレベルは上がっています。

このようにドライバーだけでなく、チーム内部でも色々な動きがあり、今年はほんとうにおもしろいシーズンになりそうです。開幕戦が楽しみですね! 

さて、最初の僕のコラムはいかがでしたでしょうか? 今後もインディーカーやアメリカン・モータースポーツのディープな話をしていきたいと思いますので、どうぞ楽しみにしていて下さい!