Nobuyuki Arai's

まさかの幕切れとなったデイトナ500をマット・ケンセスが制す

画像 NASCARスプリントカップ開幕戦デイトナ500が行われ、いよいよ2009年シーズンが始まったNASCAR。開幕戦にしてシリーズ最大のイベント、デイトナ500は、あっと驚く結果に終わりました。

 今年で51回目を迎えたデイトナ500ですが、肝心のレース以外にも大きな注目を集めていました。何と、レース前日になってもチケットが完売にならない事態に陥っていたのです。ここ数年、NASCARの人気は低下傾向にあり、昨シーズン終盤はほとんどのレースでスタンドに空席が目立つほどでした。特に、アトランタやシャーロットといった15万人を超える収容能力を誇る巨大スピードウェイほどその傾向は著しく、空席が痛々しく見えましたね。それに加え、昨年起きた米国発の経済不況の影響もあり、チケットがまったく売れないという、デイトナ500ではここ数年、いやここ20年間では考えられない状況になってしまったのです。スピードウェイ側は、チケット価格を大幅に下げて何とか集客減少に歯止めをかけようと必死でしたが、それが実ったか、決勝当日にはメインスタンドはもちろん、バックスタンドもほぼ満員。関係者は何とか胸を撫で下ろしたといったところでしょうか。それにしても、シリーズ最大のイベントであるデイトナ500でさえこの状況でしたから、今後のレースでの集客が非常に心配されますね。

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 肝心のレースですが、レース途中に雨が降り、残り48周を残して終了となってしまいました。51回のデイトナ500の歴史の中で、雨でレースが短縮されたのはこれで4回目。最近では2003年に雨が降り、マイケル・ウォルトリップが2度目のデイトナ500を制したレースを思い出されるファンもいるかと思います。雨はたしかに残念でしたが、レース前の予報は決勝開始時の午後3時30分ごろにはすでに雨が降っているというものでしたから、よくここまでもってくれたというのが当日スピードウェイにいた全員の感想ではなかったかと思います。実際、ファンの方に取材していたときも、「雨は何とかならないかなぁ」と言っていたファンが多かったくらいですから。
 そんな短縮されたレースを制したのが、フォードのマット・ケンセスでした。ちょうど147周目に、それまでトップを快走していたダッジのエリオット・サドラーをかわしてトップ立つと、翌周に後続でクラッシュが発生してフルコースコーションに。その直後に雨が降り出し、そのまま赤旗中断。その後雨は強まり、レースが終了するという幸運にも助けられ、悲願のデイトナ初制覇を飾ったのです。

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「朝起きて、自分がデイトナで優勝するなんて思いもしなかった。信じられないよ!」と、普段は冷静なケンセスがエモーショナルにインタビューに答えていたのが非常に印象的でしたね。でも、それもそのはず。木曜日の予選レース中に多重クラッシュに巻き込まれマシンは大破。スペアカーでの出場となったため、最後尾スタートになっていたのです。しかし、この日のフォード・フュージョン17号車は抜群のスピードを見せ、序盤であっという間にトップ10圏内につけると、その後は125周目にまさに目の前で発生したデイトナ名物ともいえる多重クラッシュを何とか交わし一気に順位を上げ、最後のアタックにつなげたのです。それにしても、ケンセスが優勝を飾るとは、正直驚きでしたね。現地メディアの中でも、ケンセスを優勝候補に挙げた人なんていなかったのではと思います。それほど、意外ともいえる結果となったといえます。
 ケンセスを予想できなかったのは、所属するチームにも一因すると僕は思います。フォードワークスのラウシュ・フェンウェイ・レーシングというNASCARを代表するビッグチームに所属しているものの、そのラウシュは意外にもデイトナ500では優勝が一度もなかったのです。前回のコラムでも書きましたが、タラデガも含めたリストリクタープレートレースでは、フォードエンジンは明らかにパワーで他3メーカーに劣っており、実績では見劣りしていたのです。前週のバドシュートでもトヨタとシボレー勢に完全に遅れを取っていたこともあり、本番のレースでもあまり期待が持てなかったのは事実です。しかし、結果はそんな予想を覆す優勝。チームの総帥ジャック・ラウシュも「20年以上もデイトナ500での優勝を待ち続けてきた。信じられないよ」と感無量。フォードにとっては2000年にデイル・ジャレットが3度目のデイトナ500を制して以来9年ぶりの栄冠でした。

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 2位には先週のバドシュートを制したケビン・ハービック。そして驚きの3位に来たのは何とAJオールメンディンガー! 戦闘力が劣ると見られていたダッジを駆り、序盤からJGRやヘンドリック勢と上位争いを展開し、その後も上位をキープし自身最高の3位をゲットしたのです。「チームが最高の仕事をしてくれた結果だよ」とオールメンディンガーは記者会見で語っていましたが、まさにその通りだと思います。所属するリチャード・ペティ・モータースポーツは、シーズン開幕直前に、資金繰りに苦しんでいたペティ・エンタープライズとジレット・エバンハムのダッジ系2チームが合併して誕生した新生チーム。実質ダッジのワークスチームではありますが、限られた時間の中で、よくぞここまでクルマを仕上げてきたと言えます。赤旗直前にトップを明け渡したもののサドラーも4位に来て、今年からチームに加入したリード・ソレンソンも9位とトップ10に3台が入る結果に、チームは大いに沸いていましたね。オールメンディンガーに関しては、まだフル参戦できるかどうか微妙な状況ではありますが、今回の結果が今後に大きく影響してくれればいいですね。

 序盤からレースを制圧したカイル・ブッシュは多重クラッシュに巻き込まれリタイアし、そして王者ヘンドリック勢もピット作戦の失敗などでトップ10を逃すなど、優勝候補が相次いで失速した今年のデイトナ500。戦国時代到来を予感させるシーズン開幕戦になったといえますね。今後のレースがほんとうに楽しみです。