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歴史的大接戦となったデイトナ24時間を古豪ブルモス・ポルシェが制する

画像 史上稀に見る大接戦となった今年のデイトナ24時間レース。残り1時間を切っても上位4台が2秒以内にひしめく激戦を制したのは、古豪ブルモス・ポルシェの58号車でした。

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「24時間走った後の1位と2位のタイム差がわずか0.167秒!」という、常識ではまったく考えられないほどの大激戦となった今年のデイトナ24時間レース。優勝したブルモス・ポルシェのエースドライバー、デイビッド・ドナヒューが優勝記者会見で、「24時間のスプリントレースをやっているようだった」と言った言葉が今年のレースをうまく表していますね。もちろんデイトナ史上最僅差フィニッシュとなったのですが、その要因となったのが、こちらも史上最多となる25回も出されたフルコースコーションによるものが大きかったですが、それがレースを歴史に残る大接戦へとしていったのですから、見る側からすればこれほど面白い24時間レースはないと言えるのではないでしょうか。

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 今年のデイトナ24時間は、チップ・ガナッシの4年連続制覇を誰が止めるのかが最大の焦点となっていました。特に、ファン-パブロ・モントーヤにとっては過去2戦2勝で、今年勝てば3連覇の偉業がかかっており、多くの注目を集めていました。しかし、予選日の走り出しからチップ・ガナッシの2台はイマイチスピードに乗れず、ポルシェ&フォード・ユーザーからはタイムでもついてゆけず、苦戦が予想されていました。実際、02号車のダリオ・フランキッティが、レース前のプラクティスを走行した後、「エンジンは完全に負けている。ちょっと残念だよ」と語っており、チップ・ガナッシ勢の苦戦を予想したのですが、それが現実になってしまったわけです。
 とはいっても、ガナッシ勢は夜間セッションではIRL王者コンビを擁する02号車がトップを快走し、01号車もペンスキーの16号車、ブルモス・ポルシェの2台と共にトップグループにつけるなど、マシンにディスアドバンテージがあっても耐久レースの戦い方を熟知している、まさに王者チームの戦いを演じていました。しかし、夜明けと共に02号車はディクソンの走行中に突然フロントカウルが吹き飛ぶ予期せぬアクシデントに合い、その修復に4周を費やしたことでトップ争いから脱落。残った01号車は、最終トリプル・スティントをモントーヤが務め、残り2時間を切った時点でトップに立ったものの、そこから後続の3台にピタリとつかれる苦しい展開となってしまったのです。そして、雌雄を決するドラマは残り1時間で起こったのです。

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 レースは残り1時間。つまり、23時間が経過しているにもかかわらず、トップ4は何とテール・トゥ・ノーズの大激戦。モントーヤの01号車に、ブルモスの2台と、後ろから追い上げてきたサン・トラスト・レーシングの10号車が追走する展開だったのですが、モントーヤのペースは明らかに他の3台に比べて遅く、それが原因で4台が団子状態となっていました。今年のレクサス・エンジンはパワーでライバル勢に劣っており、それを挽回するために01号車はダウンフォース量を減らして、少しでもストレートスピードを稼ぐセットアップにしていましたが、強力ポルシェ・エンジンを搭載する3台にはかなわず、毎周にわたってストレートエンドで並びかけられるという、苦しい走りとなっていったのです。
 しかし、そこは百選練磨のモントーヤ、時にレーシングラインをブロックし、コーナーの侵入ではイン側を閉めてパッシングを阻止。「最後はすべてのコーナーで110%アタックした。ポルシェのエンジンにアドバンテージがあるのはわかっていたからね。音がまったく違うんだよ」と、まさにモントーヤだったからこそここまでの接線に持ってこれたと言える気迫の走りでした。メディアセンター内でも、コーナーごとに大きな歓声が上がっているほどでしたね。しかし、残り41分となったメインストレートで、ついにブルモスの58号車のパッシングを許してしまい万事休す。前人未到の3連覇はならなかったものの、それでもブルモスの2台目は最後まで阻止して2位でフィニッシュしました。「優勝できなかったのは残念だけど、レースは楽しかったよ」と、笑顔で記者会見に応えていたのが印象的でしたね。優勝こそなりませんでしたが、モントーヤの存在感を大いに見せ付けた今年のレースとなったといえます。
 そのモントーヤを最後にパッシングしたのがドナヒュー。プラクティスからトップタイムを連発し、予選ではポールポジションを獲得するなど、ダークホースとして見られていたのですが、レースではそのスピードが本物であることを見事に証明しましたね。特に、ラスト1時間からのモントーヤとのバトルは、ほんとうに手に汗握る素晴らしいものでした。歴史に残る名勝負として長く語り継がれていくことでしょう。ドナヒューといえば、往年のレースファンには、Can-Amで活躍し、1972年にインディ500を制した父マーク・ドナヒューを思い出される人もいるのではないでしょうか? そのマークも、ちょうど40年前にペンスキーのマシンを駆りデイトナ24時間を制覇しています。それゆえ父子制覇に話題が行きがちでしたが、「父のことは誇りに思う。でも、今日の勝利はチームのスタッフたちの努力によるものだよ」とドナヒューはチーム全体の勝利を強調していましたね。チームメイトのバディ・ライスにとっては、2004年のインディ500制覇に次ぐ北米ビッグレースの優勝。「自分たちが成し遂げたことがいまだに信じられないよ」と、記者会見で満面の笑顔を見せていました。今シーズンのIRLのシートはまだ決まっていないようですが、この優勝がシート獲得に向け有利な材料となればいいですね。
 ブルモスにとっては、1978年以来じつに30年ぶりのデイトナ制覇。ここ最近は脇役に甘んじていたブルモスですが、今年は久々にレースの主役に踊り出たわけです。スポーツカーファンで知らない人はいない、ブルー&ホワイト&レッドのカラーリングは現在のグランダムカーにも受け継がれており、まさに古豪復活を印象付けたレースとなりました。