Nobuyuki Arai's

新井宣之プレゼンツ、2008年ベスト・レース・ワン・ツー・スリー〜NASCAR編〜

画像「2008年シーズンのベスト3レース」企画最終回はNASCAR編です。トヨタの快進撃で大いに盛り上がった2008年シーズンのベスト3レースを取り上げて見ました。

 1948年に産声を上げたNASCARは、今年60周年という節目の年を迎えました。その2008年シーズンは、次世代ストックカー、カー・オブ・トゥモロー(CoT)の全面導入、オープンホイール出身ドライバーの大挙参戦など話題に事欠きませんでした。中でも一番注目されたのが、ジミー・ジョンソンが3連覇なるかどうかでした。このジョンソン&ヘンドリックの強力タッグを誰が打ち負かすかが、今シーズンの焦点になっていったのです。結果から見れば、ジョンソンは見事3連覇を達成。NASCARの歴史にその名を刻んだのですが、シーズンを通しての主役は決してジョンソンではありませんでした。トヨタ&カイル・ブッシュ、そしてフォード&カール・エドワースという、若きふたりのドライバーが、今シーズンを大いに盛り上げてくれたのです。ジョンソンを止めることはできませんでしたが、新たなスタードライバーの台頭はNASCARの将来を語る上で、非常にポジティブな要素となったことは確かでしょう。

<開幕戦デイトナ500>

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 2008年のデイトナ500は、最終ラップの最終コーナーを回ってもまだウイナーが誰になるのかわからないほど大接戦となりました。言い換えれば、まさに“デイトナ500らしい”レースとなったといえますね。この栄冠を見事につかんだのが、ダッジのライアン・ニューマンでした。所属チームであるペンスキー・レーシングの総帥ロジャー・ペンスキーにとっては、何とデイトナ500初制覇という記念すべきレースとなったのです。レース後の優勝記者会見で、「オープン・ホイール・レースのチームだった我々がストックカーで戦うには非常に厳しいことだった。今日優勝できて、ほんとうに最高の1日になった」というコメントはすごく印象的でしたね。ペンスキーは、この優勝で勢いづいたか、翌月のALMS開幕戦セブリング12時間レースでも初優勝。伝統のレースを立て続けに制し、“ペンスキーここにあり!”を改めて示したシーズンとなりました。ニューマンにとっても初のビッグ・タイトル獲得となりましたが、それ以上にペンスキーがデイトナ500を初制覇したという方が、オープン・ホイール・レースを取材し続けてきた僕としては大きな出来事でしたね。

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 優勝こそなりませんでしたが、このレースでトヨタ勢のスピードが本物だということが証明されたという意味でも、非常に象徴的なレースだったといえます。オフのテストからトップ・タイムを連発し、「2年目のトヨタは違う!」と印象付けていたトヨタ勢は、シーズン開幕戦でもテスト同様の速さを見せ、大いに驚かされました。決勝では、ジョー・ギブス・レーシングのトニー・スチュワートがトップを快走し、ファイナルラップのターン3までトップを死守。開幕戦でいきなりトヨタの初優勝が見られるかとドキドキしましたが、最後はニューマン&カート・ブッシュのペンスキー勢によるチームワークに屈して、3位に終わることに。それでも、2年目のトヨタ・カムリの実力をまざまざと見せ付けたレースになったといえます。レース内容、話題性とも、大いに楽しめた今年のデイトナ500でしたね。

<第35戦テキサス>

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 このレースほど、手に汗握るほど興奮したレースは、今シーズンありませんでした。レース内容を紹介する前に、まずはこのレース前のチャンピオン争いについて触れる必要があります。最終10戦でチャンピオンが争われるNASCAR版プレーオフ「チェイス・フォー・スプリント・カップ」の第8戦目として行われたテキサス戦。ランキング・トップをひた走るジミー・ジョンソンに183点差の2位につけていたカール・エドワースにとっては、絶対に落とせないレースという状況でした。ひとつ前の第33戦アトランタで優勝し波に乗るエドワースは、レース序盤からトップを快走。2位以下に大きく差をつけ、スピードの差を見せ付けていたのです。一方のジョンソンはオーバーステアに悩まされペースが上がらず中段に埋もれたまま。このままいけば、エドワースが点差を大きく詰める絶好のチャンスだったのです。しかし、エドワース陣営はレース終盤のピットストップで、ライバル勢がタイヤ2本交換に対し4本を交換したことで順位を一気に10番以下にまで落とす失態を演じてしまったのです。このままだと、残り2戦を残してチャンピオンシップ争いもほぼ決まってしまうという、シリーズにとっても厳しい状況になってしまいそうな展開でした。しかし、エドワース陣営は隠し玉を持っていたのです。何と、残り70周を無給油で走り切る作戦に切り替えたのです。そして、最後は1周のラップタイムが2秒以上の遅いラップとなりながらも見事に走り切り、大逆転で優勝を飾ったのです。

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 レース後、チームの名物オーナー、ジャック・ラウシュにして、「なぜ走り切れたのか、未だに信じられない」と言わしめたほどでした。まさにミラクルだったといえます。絶対的なスピードを持っていながら、終盤はミスを挽回するために不可能といわれた驚異的な燃費作戦を敢行し優勝を収めたエドワース。今までのNASCARの常識を破る走りはほんとうに素晴らしいものでした。じつはエドワース、これとまったく同じ作戦を最終戦ホームステッドでもやり遂げ、シーズン最多の9勝目をマークしました。チャンピオンシップはジョンソンに惜しくも69点差届かなかったですが、走りそのものはジョンソンを凌駕していたといえます。来シーズン以降のエドワースの活躍が大いに楽しみです。

<第4戦アトランタ>

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 トヨタがNASCAR最高峰スプリントカップで初優勝を飾った記念すべきレースでした。その栄冠をもたらしたのが、ジョー・ギブス・レーシングの若きカイル・ブッシュです。このレース後、カイル&カムリのコンビは驚異的な勝ち星を量産し、「チェイス」開始前までの26戦で最多の8勝を挙げる活躍を見せ、一躍NASCARのスターダムへと上り詰めたのです。そのきっかけとなったのが、このアトランタでのレースでした。開幕戦デイトナ500で優勝まであと一歩まで迫ったトヨタ勢は、続く第2、3戦でもトップ争いを展開するも、優勝までには至りません。迎えた4戦目のアトランタでは、60周目にデイル・アーンハートJr.からトップを奪うと、その後トップを快走。最後は、同僚トニー・スチュワートと共に1−2フィニッシュという最高の形でトヨタの初優勝に華を添えたのです。

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 ビクトリーレーンで、記念撮影に収まったトヨタ関係者の笑顔がほんとうに印象的でしたね。デビューイヤーとなった昨年は予選落ちを繰り返すなど厳しいシーズンとなっていたこともあり、喜びもひとしおだったのではないでしょうか。レース後に当時TRD-USAのボスだったジム・オーストが「トヨタにとって歴史的な1日になった」と語った言葉がすべてを物語っていたといえます。トヨタはこの勝利を境に優勝を積み重ね、結局シーズン10勝。マニュファクチャラーズ・ランキングでは、フォードにわずか2点差及ばなかったものの3位に躍進。「チェイス」に入ってから失速したこともあって終盤のチャンピオン争いに加わることはできませんでしたが、トヨタにとっては最高のシーズンになったといえます。すべての始まりは、この第4戦アトランタから。今後、トヨタのNASCAR活動を語る上で、アトランタでの初優勝は長く語り継がれていくことでしょう。ほんとうに素晴らしいレースでした。