ノン・ポイント・レースとして行われたサーファーズ・パラダイスは大盛況のうちに幕を閉じました。このレースで、優勝争いと共に注目されたのが、チーム移籍組の活躍です。今回は、彼らのサーファーズでの走りと、今後の展望について触れてみようと思います。
ウイル・パワーのポールポジション、ライアン・ブリスコーの優勝と、地元オーストラリア人ドライバーの大活躍で大いに盛り上がったサーファーズ・パラダイス。旧CARTやチャンプ・カーではお馴染みだったこの市街地コースですが、インディカー・シリーズとしては初開催でした。どんなレースになるか期待されましたが、レース開始直前に雨が降るなど、予想外の展開がよりレースをスリリングなものにしてくれていたようです。パワーとブリスコーという、ふたりの地元ドライバーがシリーズのトップ・ドライバーとして活躍しているわけですからファンの関心も当然高く、4日間で約30万人ものファンがレース観戦に訪れる盛況ぶり。改めて、オーストラリアのオープン・ホイール・レース人気の高さが伺えましたね。
レースに関しては、全体的に以前このコースを走ったことのあるドライバーがかなり有利になったようです。路面のグリップが極端に低く、同じ市街地コースといえどもアメリカ国内のそれとは大きくその性質が異なっていたため、その対処には経験が大きくものをいうことになったのが原因と考えられます。また、決勝レースは突然の雨という想定外のファクターが加わったことで、見ていて非常に面白いものとなりましたが、コース上の追い抜きが少なかったのは残念でしたね。まあ、サーファーズ・パラダイスのレースは、レイアウト的にコース上の追い抜きが難しいのはしょうがないのですが、この辺をもう少し改善できれば、より面白いレースが期待できるのではと個人的に思いました。レース日程の関係で2009年シーズンの暫定カレンダーにはまだ入っていませんが、ぜひシリーズの1戦として開催してほしいですね。
このサーファーズ・パラダイス戦は、優勝争い以外にチーム移籍組の活躍にも大きな注目が集まっていました。2008年シーズン終了後にチームを移籍したドライバーが、このレースから新体制で戦うことができるようになったのです。ノン・ポイント・レースであり、話題性という点が大きかったことも影響したのでしょう。ドライバーとチームにとっても、来たる新シーズンに備えて、まずは腕試しというわけではないでしょうが、いち早く一緒に仕事をできるのは大きなメリットになります。そうした双方の思惑が一致して、このレースから新体制で参戦できることになりました。
この移籍組で今回一番の注目を集めたのが、ダリオ・フランキッティです。ご存知2007年のインディ500&シリーズ王者のダリオが、NASCARからインディカー・シリーズへの復帰を発表したのは最終戦シカゴランド直前。この報道にはほんとうにびっくりさせられました。それからおよそ2カ月後、移籍先のチップ・ガナッシの10号車のステアリングを握り、ついに本格復帰を果たしたのです。そのダリオ、走り始めからいきなり3番手タイムをマークし、ブランクをまったく感じさせない走りをみせてくれました。
4番手グリッドからスタートした決勝は、ピットインのタイミングなどに手間取り16位に終わってしまいましたが、ダリオにとってサーファーズ・パラダイスのレースは結果ではなく、まずは自分の感覚を取り戻すことが一番重要だったはず。予選までのタイムを見ると、そんな心配もまったく杞憂に終わったのではと思わされましたね。さすがは経験豊富なベテランです。NASCARではかなり苦労していましたし、実際パドックでダリオを見ても表情は決して明るくなかったですから、復帰という選択は正しかったのだと僕は思います。
余談になりますが、折りしもチップ・ガナッシはスポンサー不足で、来シーズン以降のNASCAR参戦が微妙な状況となっており、現在何とシボレー系のDEI(デイル・アーンハート・インク)と合併に向けた話し合いが行われていると、現地では報道されているほど。同じくスポンサー不足でストックカーの参戦を断念したダリオですが、やっぱりオープン・ホイールのコクピットに座っているほうが似合っていると思ったのは、決して僕だけではないと思います。現役王者スコット・ディクソンとのチームメイト対決は、間違いなく2009年シーズンの一番の見所になるでしょうし、今からどんな走りを見せてくれるのか楽しみですね。
ダリオの復帰によって、チップ・ガナッシを押し出されるようにパンサー・レーシングへの移籍が決まったのがダン・ウェルドン。サーファーズでは、メインスポンサーのナショナルガードのレーシング・スーツを着て登場したウェルドンですが、どんなレーシングスーツも着こなしてしまうあたり、さすがは“色男”だなぁ、と改めて感心してしまいました。しかし、コース上でのパフォーマンスは見た目以上にうまくいかず、予選18番手、決勝も11位とまったくいいところが見られませんでした。
ウェルドンにとってサーファーズ・パラダイスは初めてで、しかも移籍後間もないチームという厳しい状況だったことはたしかですが、それにしてもちょっと残念な内容でしたね。事前にテストもしてきたようですから、なおさら「あれっ?」と思ってしまいました。もともとロードコースは得意でないウェルドンですし、古巣と比べてパンサーのチーム力が劣ってしまうのは仕方のないことですけど、予選でせめて第2セグメントくらいは進出して欲しかったです。
今回のパフォーマンスだけで来シーズンを占うのは難しいものの、得意のオーバルも含め、ウェルドンにとっては一筋縄でいかない厳しいシーズンになってくるでしょう。逆に、こういう逆境の中でウェルドンらしい切れのある走りを見せてほしいですね。開幕3戦目でオーバル緒戦のカンザス戦が、ウェルドンにとっては試金石になってきそうです。
そのウェルドンのパンサー加入により、ヴィットール・メイラはAJフォイト・レーシングへ移籍。パンサーよりさらにチーム力が下回っているAJフォイトへの移籍は、メイラの悲願の初優勝がさらに遠のいてしまうのではと思ってしまいましたが、逆に言えば、メイラと共にAJフォイトのチーム全体がレベルアップしていってくれれば、レースはさらに盛り上がるでしょうし、シリーズ全体にとっても喜ばしいことであることは間違いありません。そんな個人的な期待も込めて、メイラにはがんばってほしいですね。
そのメイラ、予選では見事に第2セグメントへ進出し、意地を見せてくれました。決勝は14位に終わってしまったものの、今後の活躍に期待が持てる週末になったのではと思います。個人的には、ダレン・マニングも残留して、メイラ&マニングの2台体制で参戦してくれればうれしいですね。ベテランの2人はもはやシリーズの“名物ドライバー”でもありますし、経験豊富なふたりのコンビは非常に魅力的になりそうなんですが……。マニングは、年明けのデイトナ24時間レースへの出場は決まったようですが、今後の動きにも注目していきたいです。
他にも、コンクエストから3戦目となるアレックス・タグリアーニは、表彰台にあと一歩の4位入賞という素晴らしい走りを見せてくれました。2009年はトロント戦が追加され、カナダでのレースが2戦に増えることから、カナダ人ドライバーの活躍はシリーズにとっても大きなプラス要素。スポンサー次第ですが、タグリアーニにはぜひシリーズにフル参戦してほしいです。現状を見る限り、今後のストーブリーグで大規模な移籍が起きるとは思いませんが、今回紹介した4人の新天地での活躍を、大いに期待したいですね。