Nobuyuki Arai's

グループC時代の再来!?メーカーの意地がぶつかり合ったプチ・ル・マン

画像“ アウディvsプジョー”の対決に注目が集まった今年のプチ・ル・マンは、アウディの劇的な大逆転優勝で幕を閉じました。一方で、インディカー・ドライバーが多数出場したことも大きな話題となり、見所満点のレースとなりました。

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 アウディの執念が生んだ大逆転劇でした。レース残り40分、アウディを駆るアラン・マクニッシュがプジョーのクリスチャン・クリエンを捻じ伏せるようにパッシングし、長い勝負にけりをつけました。

 開幕戦セブリングでは完全にプジョーのスピードに負けていたアウディが、シリーズ終盤戦のプチ・ル・マンでライバルをコース上でパスしての優勝。改めてアウディ・モータースポーツの底力を見せ付けられました。信頼性向上がポイントと言われてきたプジョーは、レース中に大きなトラブルもなく、改善の効果が見られたものの、それにも関わらず優勝を逃してしまうことに。この結果はプジョー・スポールにとってはかなりショックでしょうし、「打倒アウディ」実現のためにも、来シーズンに向けてプログラムをイチから見直す必要に迫らそうです。

 それにしても、ヨーロッパの大自動車メーカー同士の意地と意地のぶつかり合いは、見ているだけでほんとうに鳥肌が立ってくるほど興奮してきます。80〜90年代前半のグループCカー全盛時代を彷彿させるようですし、それを今アメリカン・ル・マンというシリーズで再現できているのは素晴らしいことです。それはそのまま、このシリーズ全体が自動車メーカーにとって魅力的になっている証拠ともいえますし、今後ますます発展していくことは疑いようもない事実だと思います。

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“アウディvsプジョー”と共に今年のプチ・ル・マンで注目されたのが、LPM2クラスのチャンピオン争いです。ペンスキー・ポルシェの7号車を、シリーズ中盤から猛烈な追い上げで迫っていたアキュラのハイクロフト。両者のポイント差はわずか4点で、このプチ・ル・マンがチャンピオン争いの行方を決める大事なレースとなっていたのです。

 しかし、結果から言ってしまうとハイクロフトは開始1時間で痛恨のクラッシュを喫し、早々と戦列を離れることに。この時点でタイトル争いはペンスキー・ポルシェに十中八九決まったと言えます。ペンスキー・ポルシェは、7号車だけではなく、3台がLMP2クラス1−2−3フィニッシュを飾り、ライバルのアキュラ勢を力で捻じ伏せた結果となりました。アウディと同様に、改めて王者ペンスキー・ポルシェの強さを見せつけられましたね。

 アキュラにとってはド・フェラン・モータースポーツの1台のみ完走という残念な結果となってしまいました。しかし、参戦2年目となった今季は総合優勝を2度も成し遂げるなど、戦闘力は確実に上がってきています。シリーズ・タイトルは逃してしまいましたが、最終戦ラグナセカでは意地を見せてほしいですね。

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 優勝争いと共に今年のプチ・ル・マンを盛り上げたが、インディカー・ドライバーが多数参戦したことです。AGRアキュラの26号車からはトニー・カナーンとマルコ・アンドレッティ、ド・フェラン・モータースポーツからは今年のIRL王者スコット・ディクソン、ハイクロフト・レーシングからはIRLへの電撃復帰を発表したばかりのダリオ・フランキッティ、そして見事LMP2クラス優勝を飾ったペンスキー・デュオ、エリオ・カストロネベス&ライアン・ブリスコーといった面々です。

 いずれもインディカーシリーズを代表するトップドライバーで、彼らの参戦はレース開幕前から現地メディアにも大きく報道されていました。どちらかというとメーカー色が強いため、なかなかスタードライバーが生まれにくい土壌にあるアメリカン・ル・マン・シリーズにとっても、北米で絶大なネームバリューを持つインディカー・ドライバーの参戦によるマーケティング面での効果は絶大です。シリーズの発表によると、今年の観客動員数は週末を通して11万3000人に達し、これは新記録とのこと。  
 年々自動車メーカーが多数参戦し、レース自体の競争レベルが向上したことが要因のひとつでしょうが、インディカー・ドライバーの参戦が観客動員数に大きな影響を与えたことも間違いないでしょう。

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 実際に彼らの活躍はどうだったかというと、ペンスキー・ポルシェの3台目として出場したペンスキーの2人がLMP2クラス優勝を達成しました。カストロネベスはプチ・ル・マン開幕直前に脱税容疑で起訴され、レース前日にマイアミの裁判所に出廷するなどサーキット外のゴタゴタが起こっていたものの、そこは純粋なレーサー。一度コクピットに収まると、そんなことを微塵にも感じさせないほど素晴らしい走りを見せてくれました。

 昨シーズンALMSにフル参戦していたことからクルマを熟知しているブリスコーは、カストロネベス不在のときもひとりでチームを引っ張り、予選ではアキュラ勢を振り切って見事にポールポジションを獲得。ブリスコーの走りは、クルマを右に左にそれこそ“ぶん回す”走りで迫力十分なんですが、昨年の1年間で耐える走りをマスターしたこともあり、決勝では落ち着いてミスなく、与えられたミッションを確実にこなしていきましたね。

 プライベートで大きな問題に直面したもののレースでは本来の力を発揮したカストロネベスの貫禄と、ドライバーとしてまたひとつ上のレベルに到達した感のあるブリスコーの成長力が抜群のコンビネーションを見せて、優勝につながったのだと思います。裁判の行方次第ではカストロネベスの今後のレースキャリアに大きな影響を及ぼしかねない状況ですが、このふたりのラインアップはオープンホイールでも、スポーツカーでも最強だといえますね。

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 IRLチップ・ガナッシ・レーシングのチームメイト、スコット・ディクソンとダリオ・フランキッティの参戦も大きな話題となりました。現役王者ディクソンにとっては99年にフェラーリ333SPで走って以来となるALMS参戦。チームの3人目ということもあり、予選アタッカーやスタート・ドライバーといった大役はなかったものの、まずはそつなく走っていたようです。本人はどうにも最新テクノロジーが満載のスポーツカーが気に入ったらしく、今後もALMSでディクソンの姿を見ることができそうですね。グランダム・シリーズの1戦になっているデイトナ24時間レースで優勝経験もあるディクソンの次なる野望は、ひょっとしたらALMS開幕戦セブリング12時間レースかもしれません。

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 そのディクソンと今月末のIRLサーファーズ・パラダイス戦からタッグを組むフランキッティも久々のALMS参戦となりました。しかし、前述の通りハイクロフトは開始1時間でクラッシュ→リタイアとなったため、レースでは走行機会ゼロ。僕自身もフランキッティの走りには注目していただけに、非常に残念な結果となってしまいましたが、オープンホイールに復帰したこともあり、今後も出場機会は何度もあると思います。次に期待しましょう。それにしても、チップ・ガナッシ・レーシングにもぜひALMSへの参戦を実現させてほしいですね。NASCAR系のスポーツカーシリーズ、グランダム・シリーズに参戦している関係で状況としてはなかなか難しいことは十分承知していますが、インディカー同様に、ALMSでもペンスキー、AGRとの対決はまさにファンが待ち望むもの。実現してくれればおもしろいんですけど・・・。

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 AGRの26号車からは、お馴染みのカナーンとマルコがエントリー。彼らはもう何度もALMSに出場しているため、もはや“準レギュラー”的な存在と言えます。プチ・ル・マンでも、攻めるところは攻め、抑えるところは抑えるということをよく分かっており、安心して見られましたね。それでいてペースは十分速いんですから、改めてドライバーとしての能力の高さに関心しました。元スーパー・アグリF1のフランク・モンタニーとの“オープンホイール・コンビ”には、何かを期待せずにはいらないほど魅力たっぷり。レースでは、残りあと1時間でモンタニーが不運に巻き込まれクラス優勝をペンスキー勢に持っていかれてしまいましたが、見所満点のレースっぷりだったと思います。

 ALMSも残るは最終戦ラグナセカのみ。LMP1、LMP2ともにシリーズタイトルは既に決まってしまいましたが、それゆえ、ほんとの意味での“ガチコン・バトル”が観られそうです。プチ・ル・マンで苦杯を舐めたアキュラ勢の巻き返しに期待したいです。