Nobuyuki Arai's

プレイバック2008年インディカー・シリーズVol.1〜憎らしいほど強かったスコット・ディクソン〜

画像最終戦シカゴランドをもって2008年シーズンが終了したインディカー・シリーズ。チャンプカーとのシリーズ統合後初のシーズンとなった今年のインディカーを、3回にわたって僕なりに振り返ってみようと思います。1回目の今回は、シリーズ王者に輝いたスコット・ディクソンの活躍を見ていきましょう。

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 開幕前からチャンピオン最右翼に挙げられていたディクソンが、その期待にたがわぬ成績で見事にドライバーズタイトルを獲得しました。とにかく今年のディクソンは、どんな状況においてもスピードが抜群、加えて「絶対に崩れないだろうなぁ」と思わせるほどの安定感も兼ね備え、死角をまったく見つけられませんでしたね。「憎らしいほど強い」とは、まさに今年のディクソンのことを言うんでしょうね。それくらい、どんなコース、環境、状況に至っても彼のスピードが衰えることはありませんでした。開幕前の予想で、ディクソンのタイトル獲得に手を挙げる現地メディアが圧倒的に多かったなか、周囲からの期待やプレッシャーをものともせず、見事ドライバーズタイトルを手に入れて見せたのです。

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 ディクソンのタイトル獲得はもちろん彼自身の実力によるところもありますが、チップ・ガナッシ・レーシング全体の力によるところも大きいといえます。“ビッグ3”と呼ばれるトップ3チームの中で、昨年に比べてチーム体制を大きく変更しなかったのはチップ・ガナッシのみで、それがチーム力強化につながったのだと思います。アンドレッティ・グリーン・レーシング(AGR)は、チームのイニシャル・セットアップを長年担当してきた昨年の王者ダリオ・フランキッティが抜け、シーズン中はマシンのセットアップで常に苦労して思うような成績を残せませんでした。ペンスキーにしてもオーバル・マスターだったサム・ホーニッシュJr.がNASCARへ転向し、新たに加入したライアン・ブリスコーはスピードこそ申し分ないものの経験に乏しく、特にシーズン序盤は試行錯誤を繰り返している状態でしたね。一方のチップ・ガナッシは、ディクソン&ダン・ウェルドンのコンビが3年目となり、チーム首脳陣の顔ぶれも変化ナシ。開幕前のテストから一番順調に見え、結果的としてその順調さがそのまま成績に結びつくことになりました。ロードコースではペンスキーにやや分があったように見えましたが、オーバルでは文句なしにライバル勢を圧倒するスピードでしたね。「オーバル嫌い」を公言していた以前までのディクソンだったら、そういった状況をうまく活用できなかったでしょうけど、今年はオーバルマスターであった同僚ウェルドンを圧倒するほどの走りができるようになっていました。ディクソンの“オールラウンダー”としての成長があったからこそ、今年のタイトル獲得につながっていったのです。

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 実際、ディクソンの成績を見てみると、シーズン最多優勝記録タイとなる6勝のうち、なんとオーバル5勝、ロードコース1勝。得意なはずのロードコースで1勝とは驚きでしたね。ワトキンスグレンでは、トップ快走中のフルコース・コーション中に自らのミスで自滅したなんてこともあったので、数字だけで判断することは難しいですが、それでもこのオーバル5勝、ロードコース1勝という成績は、ディクソンがインディカー・ドライバーとしてまたひとつステップアップしたことを証明しているのではないでしょうか。初タイトルを獲った2003年は、チップ・ガナッシがトヨタ&Gフォースの組み合わせだったことがタイトル獲得の大きな要因になったことは疑いようもありません。全戦オーバルで行われていた当時は、ホンダ・エンジンに比べトヨタ・エンジンが圧倒していて、さらにパノスGフォースのシャシーもダラーラ以上の戦闘力があったことで、マシン間のスピード差が歴然としていました。しかし、実質上ホンダ&ダラーラのワンメイクとなっている今季は、まさにドライバー個人の力とチーム力がスピードに如実に表れる状況でした。「2003年のとき僕はまだルーキーで、正直に言ってタイトルを獲ったのかどうかさえわからなかったくらいだったんだ。でも、今年は違う。僕のレーシングキャリアにとって今年のチャンピオン獲得はほんとうに大きな意味があるよ」と、ディクソンは当時との違いを語っています。

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 開幕戦を圧勝した時点で、「やっぱりディクソンのシーズンになるんだろう」と僕は漠然と思っていました。それが確信へ変わったのはインディ500の優勝です。レース終盤に伏兵ヴィットール・メイラの出現でヒヤッとさせられる場面もありましたが、レース全体を見ると完全な圧勝でしたし、ディクソンのスピードと優勝を見て、彼のチャンピオン獲得を容易に予測できました。それくらい、今年のディクソンのスピードは突出していたのです。終盤3戦はエリオ・カストロネベス&ペンスキーの逆襲にあったものの、結果的にはかなり余裕をもってのチャンピオン獲得だったことは確かですね。

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「この1年間で、結婚をし、インディ500で優勝して、そしてシリーズ・タイトルも獲った。多くの人は僕らが1年間でやり遂げたことを想像することすら難しいだろうね」。彼自身も驚くほど完璧なシーズンを送ったディクソン。あとターン1つというところでその手からシリーズタイトルが逃げていった昨年から1年、同じシカゴランドでディクソンの素晴らしい笑顔を見ることができました。来年は、昨年の王者フランキッティとの夢のコンビが実現します。「シリーズ統合後2年目となる2009年は、ものすごくタフなシーズンになるだろうね。でも、今からかなり楽しみだよ」。ディクソンはまだ28歳。ドライバーとしてまさに絶頂期にあると言えるディクソンが、来年はどのような走りを見せてくれるのか、すごく楽しみですね。