Nobuyuki Arai's

アナ初優勝! 女性ドライバーの躍進

画像インディライツ第10戦ナッシュビルで、アナ・ベアトリスが初優勝を飾りました。女性ドライバーによる優勝は同シリーズ史上初という快挙。ダニカに続くニューヒロインの誕生に、ナッシュビルが沸きました。

それは初優勝のレースとは思えないほど、見事なレース運びでした。決勝前日に行われた予選で、初のフロントロウ2番手を獲得したアナ(親しみを込めて、あえてファーストネームで呼ばせていただきます)は、序盤に4番手までポジションダウン。しかし、その後トップ勢が接触やクラッシュなどによって相次いで脱落したこともあり、レース中盤には2番手に浮上します。そして、33周目には図ったようにボビィ・ウイルソンを鮮やかに交わし、このレースで初めてトップに躍進。あとは後続との差を周回ごとに広げる快走で、77周目にトップでチェッカーフラッグを受けたのです。

スタート直前に大雨が降り、レースのスタートが1時間45分も遅れるアクシデントがあったものの、それをものともしない快勝に、「これは本物だ!」と改めて思わされましたね。“改めて”というのは、すでに彼女は今年のインディライツの中でもトップレベルのドライバーだということを、ここまでのレースで証明していたからです。

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アナはブラジル・サンパウロ出身の23歳。フォーミュラ・ルノー・ブラジル、サウス・アメリカン・フォーミュラ3といったステップアップを踏み、昨年はブラジルチームの一員としてA1グランプリに出場しました。ロードコースで豊富な経験を持っていたのに、今季からオーバルレースが主体のアメリカに戦いの舞台を移したのです。所属は同シリーズの名門サム・シュミット・モータスポーツと申し分ない体制だったものの、何より彼女はオーバルでの経験がゼロ。いったいどんなレースを見せてくれるのか注目していたのですが、そんな心配は杞憂に終わりましたね。

なにせ、デビュー戦のホームステッドで初のオーバルレースにもかかわらず、予選で3列目を得て周囲を驚かせると、決勝でも7位フィニッシュ。間髪入れず、翌週の第2戦セント-ピータースバーグの第1レースではトップを快走し、最後は力尽き3位に終わったものの、デビュー2戦目での表彰台フィニッシュを成し遂げたのです。このレース後、表彰台に立つ彼女を見て、「彼女は誰なんだ?」と多くのメディアが騒ぎ出したのを今でも覚えています。その後もアイオワ、ワトキンスグレンで3位を獲得し、優勝は時間の問題と見られていました。ただ、それはオーバルではなくて、ロードコース戦になるのではというのが大方の見方だったのですが、それを覆すオーバルでの初優勝達成。「チームがオーバルでのデータを豊富に持っていたの。初優勝がオーバルレースでなんて、最高だわ!」と語り、周囲が思っている以上に彼女自身はオーバルのレースでも十分自信を持っていたようです。その自信を結果に変えることができたのは、彼女の実力の表れに他なりませんね。

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記録の話をすると、インディライツでの女性ドライバーによる優勝は史上初。ポールポジションは2005年にサラ・マッキューンがシカゴランドで達成していましたが、これまでの最高位は当のアナの3位でした。IRL全体で見ると、もちろんダニカ・パトリックが今年のインディジャパンで歴史的な初優勝を飾り、ポールポジションも2005年に3度獲得しています。もっと遡れば、2002年ケンタッキーでサラ・フィッシャーが女性ドライバーとして史上初めてメジャーオープンホイールシリーズでポールポジションを獲得しています。

こうやって記録を改めて並べてみると、近年の女性ドライバーの台頭は目覚しいものがありますね。ダニカの優勝に続き、今回のアナの快挙を見ると、今年は女性ドライバー躍進のターニングポイントになるのかもしれません。今年のインディカーシリーズには、ダニカを筆頭にミルカ・デューノ、そしてインディ500には自らのチームでサラが参戦と3人もの女性ドライバーが揃い踏み。インディライツでも、アナとともにスイス出身のシンディ・アルマンもフル参戦しています。彼女らの活躍に刺激されて、女性ドライバーが今後増えていくことが十分予想されますし、シリーズ全体にとっても、それは素晴らしいことです。

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ダニカはインディカーシリーズにステップアップする前、フォーミュラ・アトランティックに2年間参戦していましたが、ポールポジションこそ1度得たものの最高位は3位で、結局最後まで優勝には届きませんでした。その後のダニカの活躍はご存知の通り。今回のアナの優勝は、キャリアの上ではすでにダニカを上回ったといっても、過言ではありません。さらに、この優勝でランキングはトップに41点差の3位に浮上。優勝どころか、シリーズ史上初の女性ドライバーによるチャンピオン誕生も十分可能なほど。シリーズ終盤のアナの走りに、今まで以上に注目してきたいです。