スコット・ディクソンが念願の初優勝を果たして幕を閉じた「第92回インディアナポリス500マイル」。レース前の下馬評通り、チップ・ガナッシのマシンが圧倒的なスピードを見せて見事にビッグタイトルをものにしました。一方で、優勝争い以外にも見所満載のレースともなりました。
終わってみればディクソンの圧勝で幕を閉じた今年のインディ500。プラクティス初日から堅実なスピードをマークし続けてきたチップ・ガナッシのマシンが、勢いそのままに200周のゴールまで駆け抜けていってしまいました。勝因は、一にも二にもクルマのスピードに尽きます。予選で圧倒的なスピードでポール・ポジションを獲得したマシンが、決勝でさらに磨きがかかり、どんな状況に陥ってもそのスピードが鈍ることはありませんでした。レース後、ディクソンが「優勝できるマシンだということはわかっていたからこそ、すごく心配だった」と言うほどマシンの状態は最高で、単独でも、トラフィックの中でもそのスピードを保ち続けていたのはまさに驚異的でしたね。レースの折り返し地点で共にトップ争いを展開していた同僚ダン・ウェルドンが右リヤの足回り系にトラブルが発生し、脱落したことで「もしやディクソンのマシンにも?」と思った人も多かったと思いますが、そんな心配は杞憂に終わるほどでした。終盤はヴィットール・メイラの追い上げにやや苦しみましたが、最後はスピードの格が違うとばかりに引き離した走りはまさに圧巻。ビッグタイトルを獲得するに相応しいパフォーマンスでした。2003年にシリーズタイトルこそ獲得したディクソンですが、これまで届きそうで届かなかった“称号”をついに手に入れたわけです。ニュージーランド人ドライバーとして始めて伝統のミルクを口に含んだディクソンが、このままシリーズタイトルまで突っ走ってしまいそうな予感ですね。
一方で、“ビッグ3”の残り2チームにとっては、何ともほろ苦い週末となってしまいました。特にアンドレッティ・グリーン・レーシングは、ある意味優勝したディクソンよりもレースを沸かせてくれましたね。マルコ・アンドレッティとトニー・カナーンの2台のスピードはディクソンに匹敵するもので、最後まで優勝争いを繰り広げるのだろうと思っていたのですが、チームメイト同士で“自滅”という展開には本当に驚かされました。「“Stupit!”。チームメイトがあんな動きをするべきではない!」とマルコに対し大激怒したカナーンの気持ちも十分理解できます。悲願の初優勝を達成できるだけのパッケージが十分あったのですから……。一方で、最後まで優勝争いを展開したマルコは、最後のピットストップ時にリヤウイングを寝かせるセットアップ変更が完全に裏目に出て失速。ディクソンとメイラを捕らえきれず3位に終わり、「チームの決定。それだけだよ」と悔しさを露にしたマルコ。アンドレッティ家2度目の悲願は、またもやお預けになってしまいました。それにしても、レース後にカナーンとマルコがどんな話し合いをしたのか非常に興味深いです。今週末のミルウォーキーでふたりの関係が以前と変わっていなければいいのですが……。
そして、何と言ってもダニカ! 残り30周、ピットロード上でライアン・ブリスコーと接触しリタイアした後、怒りを露にしてブリスコーのピットまで歩み寄っていったシーンは、テレビを通じて全米中で何度も何度も流され、今年のレースを最も象徴するものとなりました。実際、ディクソンの優勝報道より大きく扱われていましたからね。あの行為そのものがスポーツマンシップに則っているかという議論はあるものの、ダニカの負けず嫌いが久々に現れたものでしたね。それだけインディ500に賭けていたのでしょうし、悔しさが極限まで達した結果がああいう形になったのでしょう。最後まで優勝争いに絡むことはありませんでしたが、それでもあれだけの“話題”を提供するあたりは「さすがダニカ!」と思わず唸ってしまいました。
チームメイトに負けずに、我らが武藤英紀も魅せてくれました。圧巻は序盤の追い上げ。最初のピットストップで「早くピットボックスを出たいという思いが強すぎた」と痛恨のエンジンストールで27番手まで順位を落とす苦しい立ち上がりとなったものの、そこから怒涛の追い上げを見せ、わずか28周で11番手までポジションアップした走りは見応え十分でした。「序盤のマシンは本当に速かったです」と武藤自身も唸るほどのスピードは観客を十分魅了するにものでしたね。レース中盤にリヤのドラッグを減らすセットアップ変更が裏目に出て、その後マシンは序盤のスピードを失ってしまい、最終スティントで2台に抜かれてしまったものの、インディ500初挑戦で7位シングルフィニッシュは十分評価できるものだと思います。レース後、「最後に5番手を守れなかったので今は満足していないですが、一晩寝れば違った感想になるかもしれません」と本人は悔しがっていましたが、最後まで諦めず終盤に順位を上げた内容は素晴らしいものだったと僕は思います。この経験を糧に、残りのシーズンもさらなる飛躍を期待したいですね。