Nobuyuki Arai's

セブリングで見るロード・コースの戦力分析

画像 セブリングで行われた4日間のオープンテストが終了したIRL。先週のホームステッドでのオーバルテストと共に、これで開幕前にインディカーチームに予定されていたすべてのテストプログラムが終了しました。前回はオーバルレースでの戦力予想をしてみましたが、今回はロードコースでの各チームの仕上がり具合を、検証していきたいと思います。

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 IRLのオープンテストでは初めて使用されたセブリング・インターナショナル・レースウェイ。チャンプカーのオフシーズンテストではお馴染みの1周1.67マイルのショートコースを使用して行われました。フルコースではないことからパドックも狭く、コース自体も短いため、2グループに分かれて各2日間ずつという走行日程となりました。そういう事情もあって、一概にタイムだけで比較するのは難しいかもしれませんが、ある程度チームの現状戦力の目安にはなったと思います。

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 さてこのテスト、4日間で総合トップタイムをマークしたのは、ペンスキーに新加入したライアン・ブリスコーでした。2グループ目に登場したペンスキー勢は、ブリスコが2日連続でチャートのトップに立つ圧巻のパフォーマンス。IRLへのフル参戦は2005年以来となりますが、昨年は同チームからアメリカン・ル・マン・シリーズに参戦していたため、比較的スムーズに移行できていたようです。それにしても、チームのエース、エリオ・カストロネベスを2日間とも上回ったのは驚きでした。昨シーズン、ロードコース全5戦で4度のポールポジションを獲得したカストロネベスは、言わずと知れたIRLの“ロードコース・マスター”。そのカストロネベスを完全に凌駕する走りは、鮮烈でしたね。特に最終日のパフォーマンスはものすごかった。前日に後塵を拝したカストロネベスが奮起し、テスト終盤に52秒4531の圧巻のタイムをマーク。これは、テスト前半組で最速だったトニー・カナーンを、0.4078秒も上回るスーパーラップでした。役者の違いを見せつけたカストロネベスでしたが、ここからブリスコが最後のアタック。「ニュータイヤを履いてアタックしたんだけど、クルマがイマイチだったのでピットに戻って微調整をしたんだ。それが良かった」とブリスコが走行後に語ったように、渾身のラップで0.0329秒カストロネベスを逆転しました。ロードコースでカストロネベスを完全に黙らせた走りは、ほんとうに素晴らしかったです。
 ブリスコーの走りをコース脇で見ていると、重量のあるインディカーをアクセルワークで一見強引に、しかし正確に振り回している走り方をしていましたね。とにかくアクセルの開け方に躊躇がなく、その分コーナー出口でのエンジン音が他のドライバーとは明らかに違うのが印象的でした。その分、コースオフも何度か見られましたが……。一方のカストロネベスは、コーナー出口でのアクセルワークが非常にスムーズ。マシンコントロールが抜群で、理想的な姿勢を保ったままコーナリングできていることから、一歩早いタイミングでアクセルを開けられ、しかもトラクションのロスなく正確にパワーを路面に伝えられている感じでした。ある意味完成された走り方と言えますね。同じスピードを持っていながら、非常に対照的な走り方をするペンスキーの2台。今シーズンのロードコース戦は間違いなくこの2台が主役になっていくと思いますが、レースの結果以上にまずこの2台の予選タイムアタック合戦に注目してほしいですね。きっと、ものすごい争いが繰り広げられることでしょう。

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 タイムではペンスキーが完全に抜けていましたが、後半組の方が路面にラバーが乗って、タイムが出やすいコンディションにあったことも事実です。そういう意味では、前半組でトップ2を独占したAGR勢も、いい仕上がりを見せていたと言えるのではないでしょうか。最初の2日間でトップタイムだったカナーンのベストが52秒8609。カナーンのトップタイムはまず予想通りというところでしょうが、2番手に武藤英紀が来たのは個人的にもうれしかったですね。武藤が出した52秒9513というタイムも非常に素晴らしかったですが、それ以上に、武藤が作っていったセットアップをカナーンが試し、それがベストタイムに結びついたということが印象的でした。

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ダリオ・フランキッティが抜けた今シーズンのAGRは、カナーンがイニシャルセットアップを行っていくことになり、カナーン自身も「責任が増したのはわかっているし、自信もある」と語っていましたが、それでもやはりダリオの抜けた穴は大きいはず。マシンを速く走らせる能力はピカイチなものの、クルマのセットアップ能力を磨くにはもう少し時間がかかりそうなマルコ・アンドレッティ、そしてロードコースでは若干の不安を残すダニカ・パトリックだけで戦うには、さすがに厳しそうな状況でした。そこにルーキーといえどもロードコースで経験豊富な武藤が加入し、武藤なりのアイデアをどしどし出していって、カナーンと共にセットアップを作り出していくことができれば、チームにとって非常に大きな戦力になるでしょう。ロードコース戦でもペンスキーの2台と互角以上に戦えるはずです。今季から導入されるパドルシフトにもすばやく対応した武藤のロードコースでのポテンシャルが、予想以上に高いものだと今回のテストで実感させられましたね。武藤自身もかなりの手応えを感じていたようで、十分優勝争いに加わってきてくれると思います。期待したいですね。
 チップ・ガナッシ勢は今回のテストはタイムもイマイチでしたし、クルマの整備に時間がかかっていたようで、決して満足いく内容にはならなかったようです。とはいってもそこは強豪チーム。最初のロードコース戦、第2戦セントピータースバーグにはピタリと標準を当ててくるでしょう。昨年はロードコースで精彩を欠いたダン・ウェルドンも汚名返上に必死でしょうし、期待したいですね。オーバル同様、ロードコースでもこの3強が中心になっていくことは間違いないでしょうが、前半組でAGRの中に割って入ってきたライアン・ハンター-レイや、後半組で精力的に走行を重ねていたバディ・ライスとダレン・マニングにもぜひ注目してほしいです。今年は北米オープンホイールシリーズの統合が実現し、チャンプカーから多くの“ロードコーススペシャリスト”が参戦してきますので、彼らとの争いも非常に注目したいですね。