1月28日から3日間、フロリダ半島のほぼ真ん中に位置するセブリング・インターナショナル・レースウェイでアメリカン・ル・マン・シリーズ(ALMS)のウインターテストが開催されました。デイトナ24時間レースの翌日ということでかなり忙しいスケジュールではありましたが、せっかく同じフロリダ州で行われ、しかも筆者はフロリダ州在住ですから、モータースポーツ・ジャーナリストとして行かない手はありません。というわけで、デイトナ・ビーチの自宅から3時間かけてセブリングに行ってきました。
このウインターテストは今年で4回目となる毎年恒例のイベント。同サーキットは、ALMSを立ち上げたシリーズのボス、ドン・パノスが所有する施設で、開幕戦の『セブリング12時間レース』の開催地でもあるシリーズの“聖地”です。また、温暖なフロリダ州にあることから、この時期はインディカーやチャンプ・カーのテストも頻繁に行われ、“オフシーズン・テストのメッカ”というもうひとつの顔も持っているんです。ただ、オープンホイールのテストは1周1.669マイルのショートコースを使用するのに対して、ALMSのテストは1周3.7マイルのフルコースを使用します。『セブリング12時間レース』がフルコースで行われるんですから、当然といえば当然ですね。
さて、今年のウインターテストですが、とにかく驚きが満載でした。まずはプジョー908が初参加したこと。『ル・マン24時間』制覇を狙ったバリバリのファクトリーチームで、初参戦となった昨年は王者アウディに次ぐ2位につけたプジョー908。ヨーロッパの『ル・マン・シリーズ』で昨年チャンピオンを獲得した908は、今回のテストがアメリカ初上陸だったんですから、メディアのみならず多くの関係者も注目していましたね。王者アウディと同じディーゼル・エンジンを搭載する908は、最近では珍しい屋根付きのクローズド・ボディで、見た目は文句なしにカッコいいです! 『ル・マン24時間』でアウディとの再戦が注目されますが、その前にこの2メーカーの戦いをひと足速くアメリカで見れそうなんです。どうやらプジョーが、ALMSの開幕戦『セブリング12時間レース』に参戦することになるようです。まだ正式発表はありませんが、今回のテストに参加したということは、『セブリング12時間』への参戦を前向きに考えているという何よりの証拠でしょう。そのプジョー908は、3日間総合で王者アウディを退けて堂々のトップ・タイムをマーク。アウディがどのようなテスト・プログラムを組んでいたかはわからないので一概にタイムを比較することはあまり意味がないかもしれませんが、王者と真っ向勝負ができるスピードを持ち合わせていることは間違いありません。あとは課題の信頼性次第でしょうが、その辺はファクトリーチーム。抜かりなく対策してきていると思われます。もし正式に『セブリング12時間レース』への参戦が決まれば、昨年のル・マン24時間以来となるアウディとの対決となり、アメリカ国内のみならず世界中が注目するレースとなることは必死です。個人的にはシリーズ全戦に出場してほしいんですが、「プジョーの車ってアメリカでは売られてない=参戦の意味なし」というわけなんです。それだけに、北米で唯一の“アウディvsプジョー”が見られそうな今年の『セブリング12時間レース』は目が離せません。
続いての驚きは、ジル・ド・フェランが『ド・フェラン・モータースポーツ』を立ち上げ、オーナー兼ドライバーとしてALMSに参戦することを発表したことです。参戦マシンはもちろんアキュラ。まだチーム体制やドライバーなどは決まっておらず、早くてもシリーズ後半からの参戦となるとのことですが、アキュラ陣営にとってはアンドレッティ・グリーン、フェルナンデス、ハイクロフトに続く4つめのチームとなり、同じLMP2クラスの宿敵ポルシェRSスパイダー陣営と台数では肩を並べることになります。2000&2001年CARTシリーズ王者、2003年インディ500制覇、そしてホンダF1チームのスポーティング・ディレクターとして多くの実績と経験を持つド・フェランの加入は、参戦2年目のアキュラ勢にとっては非常に大きな意味を持つことは間違いないでしょう。
そのアキュラですが、セブリングにニューシャシーARX01bを投入してきました。昨シーズンはローラ・ユーザーだったフェルナンデス・レーシングもアキュラ・シャシーへスイッチし、今シーズンは全3チームがすべてARX01bを使用し、タイヤもミシュランと全3チームが同じパッケージングで戦うことになります。これは、データ収集などの面から見ても効率が良くなるでしょうし、HPDにとっても開発スピードがより上がることが期待されます。そのニューシャシーですが、テスト2日目にAGRのエース、ご存知ブライアン・ハータがクラス最速タイムをマークするスピードを披露。最終日にペンスキーのポルシェRSスパイダーに迫られたものの、堂々のクラス首位で3日間のテストを終えたことは、ニューシャシーの開発の方向性が正しかったことを物語っていると言えます。今年は、AGRにクリスチャン・フィッティパルディが、そしてハイクロフトにはスコット・シャープがそれぞれ加入し両チームともチーム体制を強化し、念願のクラス・タイトル獲得も十分視界に入ってきていると思います。また、同クラスにローラ・シャシーで参戦しているマツダもテスト期間中に大手オイル・メーカーBPとのスポンサー契約を発表するなど今シーズンは体制を強化してきていることから、ポルシェvsアキュラの2強対決にどのように食い込んでくるかも注目されます。
他にも、シボレー・コルベットのみだったGT1クラスに英国の名門アストンマーチンがDBR9でシリーズに復帰することを表明。また、シリーズは廃棄物から製造されるエタノールを85%混合した『E85』をレース燃料として使用するなど、テスト期間中に多くの発表がありました。続々と参戦を発表する自動車メーカーやマニュファクチャラー、そして新技術の導入など、話題満載の2008年ALMS。今から開幕戦の『セブリング12時間レース』が待ちきれません!