Nobuyuki Arai's

モントーヤのネクステルカップ・フル参戦

画像 前回に引き続き、『NASCAR・2007年シーズン・レビュー』についてお話させてもらおうと思います。第2回目は「モントーヤのネクステルカップ・フル参戦」に焦点を当ててみようと思います。
 今シーズンNASCAR開幕前の最大の注目は、何と言ってもファン-パブロ・モントーヤのネクステルカップ・フル参戦。元CART王者&インディ500ウイナーにして、F1で名門ウイリアムズ&マクラーレンに在籍し、7勝もの優勝を挙げた世界屈指のオープン・ホイール・ドライバーが、まったくフィールドの違うストックカーへ挑戦することになったんですから、全米ではそれはもう大変な注目度でした。NASCARは今でこそ全米ナンバー1レース・シリーズに成長し、シリーズ全体の観客動員数や、スポンサー収入額などは、あのF1さえも凌ぐほどにまでなったのですが、その中身はあくまで「メイド・イン・USA」。つまり、アメリカ人ドライバーが、アメリカの会社にスポンサードされたアメリカ製自動車に乗って、アメリカ国内でレースを行い、それをアメリカ人ファンが楽しむ、というのがNASCARでした。「アメリカ人の、アメリカ人による、アメリカ人のためのレース」というものです。そんな、“純度100%アメリカンレース”に、ネクステルカップ史上初めて外国人ドライバーがフル参戦することになったのですから、それだけでも大ニュースでした。しかも、そのドライバーがオープンホイール界で数々の実績を挙げた現役バリバリのF1ドライバーだったんですから、もう大騒ぎなんてものじゃあありませんでした。マスコミはこぞって「アメリカンレースの終焉」なんて書きたてて、それが殊更騒ぎを大きくしていた状態でした。とにかく、まあものすごい注目度でしたね。

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 そのモントーヤですが、得意のロードコースであるソノマで優勝したものの、オーバルは未勝利。ポールポジションもなしで、ランキングは20位でした。ルーキー・オブ・ザ・イヤーこそ獲得しましたが、衝撃的なデビューを期待していたファンにとってはちょっと残念な結果に終わったと見えたかもしれません。一方で、シーズン前にモントーヤの参戦を批判していたアメリカのマスコミは「ストックカーの経験がないルーキーにしてはよくやった」とまずまずの評価。開幕前のモントーヤ・ファンやマスコミの期待と批判が、シーズン後には逆転していたという、なんとも面白い現象が起きることに。当のモントーヤは、「まあいろいろあったけど、1年目にしては満足しているよ」と最終戦で語っていましたが、筆者もそれは偽らざるほんとうの気持ちなんだと思います。
 ストックカーでオーバルを走行するというドライビングは、オープンホイールを始めとする一般的なレースカーをロードコースで走らすのとはまったく異なるドライビング技術を要求されます。一番大きな違いは、ダウンフォースの大きさ。今にも滑り出しそうなグリップがまったくないストックカーを正確に、かつ速く走らす技術というのは、強烈なダウンフォースと強力なタイヤのグリップ力でコーナリングするオープン・ホイール・カーのドライビングとはまるで正反対を行きます。「まるで氷の上をツルツルのタイヤで走っているようなもの」と、モントーヤ自身がシーズン序盤にストックカーのドライビングついて語っていたように、他のカテゴリーにはない独特のものなのです。現在NASCARに参戦しているドライバーは、ほとんどがステップアップ・ストックカー・シリーズ出身、またはミジェットカーやダートオーバルといった、ストックカーと非常に似た特性を持つシリーズ出身で、小さい頃からストックカー独特のドライビング技術を身につけてきているのです。さしものモントーヤといえども、こういった“職人的ドライバーの集まり”ともいえるNASCARのグラウンドで勝負するには、やはり時間が必要だったというわけです。加えて、今年はダッジの戦闘力がシボレーやフォードに比べて明らかに劣っていたこともモントーヤの苦戦に繋がったのだと見えます。ダッジ勢が、モントーヤのソノマでの優勝を加えてもシーズンたった3勝に終わった結果がそれを如実に物語っています。

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 そういう苦しい状況下でもロードコースで優勝し、加えて所属するチップ・ガナッシ・レーシングの若いチームメイト二人よりランニングで上回ったことは、「さすがモントーヤ!」と言えるものではないかと思います。また、モントーヤの参戦が他のオープンホイール出身のドライバーにNASCAR参戦のきっかけを与えたのは言うまでもありません。ダリオ・フランキッティ、ジャック・ビルヌーブ、そしてサム・ホーニッシュJrという3人の現&元インディ500優勝者&インディ王者のNASCAR転身は、モントーヤなくして実現しなかったはずです。モントーヤが“アメリカ人の、アメリカ人による、アメリカ人のためのレース”NASCARに投じた一石は非常に大きいものでした。2007年シーズンが、NASCARの将来を占う重要な年になったことは確かです。
 1年間かけてストックカーの走りを習得したモントーヤが2008年シーズンにどのようなパフォーマンスを見せてくれるのか、今から本当に楽しみです。ジェフ・ゴードンやジミー・ジョンソンらとチャンピオン争いを展開する、なんてシーンが見られることを期待して止みません。