噂されていたとおり、サム・ホーニッシュJrの来季からのNASCAR転向が正式発表されました。NASCAR第35戦開催中の土曜日に、メインスポンサーとなるエクソン・モービルがプレスリリースを通じて、ホーニッシュJrと共に2008年NASCARスプリントカップ(来シーズンよりネクステルカップから改称)を戦っていくことを公式に表明。所属チームはもちろんペンスキー・レーシング。公式記者会見こそ行われなかったものの、ついに噂が現実になったというわけです。オープンホイール界から見れば、先のダリオ・フランキッティに続き、またもやスタードライバーの流出という事態になってしまいました。
ホーニッシュJrは、IRLで2001〜2002、2006年と3回ドライバーズタイトルを獲得した、言わずと知れずIRLの“顔”でもあるドライバー。子供頃からの夢だったという名門チーム・ペンスキーに2004年に加入し、2006年にはついにインディ500も制覇。インディカーでは、やるべきことはすべてやり尽くしたということなんでしょう。実際、本人も今週のフェニックスで、「新しいチャレンジをしたかったから」と語っていました。加えて、所属するペンスキー・レーシングがNASCARにも参戦していたこともホーニッシュJrの決断をさせた大きな要因だと考えられます。インディカーファンにとっては寂しいことではありますが、ホーニッシュJrの今回の決断はある意味“規定路線”だったとも言えるのではないでしょうか。
でも、ここでちょっと注目したいのが、先のホーニッシュJrのコメント。じつはこれ、フランキッティも、そしてこちらもNASCARに転向したジャック・ビルヌーブもまったく同じことを言っているんです。もちろん、ややおざなりなコメントではあるんですが、注目べき点は、『新しいチャレンジの場としてNASCARを選んだ』ということです。いまや文句なしに、アメリカで一番人気のあるレースカテゴリーに成長したNASCARが、アメリカ人以外のオープンホイール・ドライバーからも「走ってみたい!」と思わせるほど魅力的なシリーズに成長した証とも言えます。ビルヌーブが、自身のNASCARのデビューレースとなったラスベガスで、「ドライバーとしてそのカテゴリーの『ナンバー1シリーズ』で走りたいと思うのは当然のこと。アメリカで一番人気があるのはNASCARだろ?」と語っていたのも非常に印象的でした。1980年代後半から1990年代前半には、ナイジェル・マンセルを始めとした世界中のトップドライバーが“新たなる挑戦の場”として選んだのは当時のCARTシリーズでした。ビルヌーブの言葉は、その立場が完全に逆転してしまったことを如実に物語っていると言えそうです。
そのホーニッシュJrですが、ネクステルカップへ初挑戦以来6戦連続予選不通過とストックカーのドライブにかなり苦戦をしていましたが、来季の参戦発表のあったフェニックスではタイミング良く予選26番手で見事決勝に進出。日曜日のレースでは2周遅れながら何とか最後まで走り切って30位フィニッシュ。レース後、「ドライバーが完全に経験不足だね」と苦笑いしていましたが、新しい挑戦がいよいよ正式に決まったことで、充実した表情をしていたのが印象的でした。ルーキーイヤーの2008年シーズンはかなりの苦戦が予想されますが、インディカーで見せた圧倒的な走りがNASCARでも再現されることを期待しましょう。
気になるホーニッシュJrの後釜には、アメリカン・ル・マン・シリーズでチーム・ペンスキーから参戦していたライアン・ブリスコーが正式発表されました。個人的に筆者のお気に入りでもあるブリスコーの活躍を期待して止まないですが、それにしてもホーニッシュJrの走りが来シーズンからインディカーで見れないのは本当に残念です。ウォールすれすれの大外のラインから豪快にパッシングする、他のどのドライバーも真似できないあの走りは、見ていて毎回鳥肌が立つほど興奮させられたものです。インディカーで、ホーニッシュJrを上回るスタードライバーの誕生を期待したいです。