Nobuyuki Arai's

話題だらけのタラデガ

画像 前回のコラムでのお約束どおり、今回は先週取材に行ってきたNASCAR第30戦タラデガでのトピックスについてご紹介しようと思います。今年のタラデガは、本当に話題が抱負、というか“話題だらけ!”と言ってもいいほど、とにかくニュースの連続でした。そんな“話題だらけのタラデガ”の中心にいたのが、ふたりのオープンホイール出身ドライバー、ダリオ・フランキッティとジャック・ビルヌーブです。ふたりともストックカーのレースに出場したのですが、そのアプローチはまったくと言っていいほど対象的で興味深いものがありました。
 まずフランキッティは、噂どおりにタラデガ開幕の前日にチップ・ガナッシ・レーシングと2008年シーズンからNASCARスプリントカップ(来シーズンから改称)に参戦することを発表。その準備期間としてストックカーのデビューレースに選んだのは、NASCARではなく、そのひとつ下のカテゴリーにあたるARCAでした。

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 主にNASCAR車種の年度落ちのクルマで争われるシリーズなんですが、現役IRL&インディ500王者のデビュー戦にしては「なんで?」と思われる人も多いかと思います。でも、クルマも、サーキットも、そしてレース自体もインディでのそれとはまったくと言っていいほど異なるため、たとえ現役インディ王者という肩書きがあったとしても、そう簡単に移行できるものではないんです。
 実際、ファン-パブロ・モントヤも昨年、同じレースでデビューし、その後ストックカーの走りをマスターしていったのは周知の通り。ちょっと前では、1997年にIRL王者に輝いたトニー・スチュワートもデビューイヤーはブッシュ・シリーズで経験を積んでステップアップし、その後2度のカップ王者に輝いたほど。
 このレースをデビューレースに選んだのはチームオーナーのチップ・ガナッシで、「僕に選択権はなかったよ。チップの言われるとおりやって来年の開幕戦に備えるだけさ」とコメントしているように、たとえアメリカでのレース経験が豊富なフランキッティでさえ、ストックカーのオーバルレースを戦うにはさらなる経験が必要というわけです。ネクステルカップの主要ドライバーも、この選択には大いに賛同していました。

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 注目のレースは、エンジン交換により最後尾スタートになり、レース中にも自ら後方に下がったりしてストックカーを経験することに終始し14位でフィニッシュ。去年のモントヤが2位だったことから、それ以上の好結果を期待していたファンにとってはやや物足りない結果だったですが、当のフランキッティは「結果に満足してはいないけど、レース中に学んだことには大満足だよ」と笑顔でコメント。まあ、経験を積むことが目的だったレースに結果を求めるのはナンセンスではあるんですけど、インパクトって意味ではもう少し……という感じはしてしまいましたね。

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 一方で、ビルヌーブがタラデガで出場したのは何とNASCAR最高峰のネクステルカップ! 2週間前にラスベガスでのクラフツマン・トラック・シリーズ第19戦でひと足早くストックカーデビューを飾ってはいたものの、次戦でいきなりネクステルカップという選択には、さすがに多くのドライバーが敏感に反応。新しいものや変化には非常に肯定的なジェフ・ゴードンでさえ、「ビルヌーブは世界で最も経験豊富なドライバーだし、世界的ビッグネームのNASCAR参戦は大歓迎。でも、そのデビュー戦がタラデガというのは絶対にあり得ない!」と語り、このコメントがレース前に全米中を駆け巡ぐって多くの論争を呼びました。
 ゴードンを始めとした多くのNASCARドライバーが非難する理由は、『タラデガがリストリクタープレートのレースのため、ストックカーレースの経験不足が大アクシデントを招きかねない危険性』というのが主なもの。その言い分は大いに納得できるんですが、その裏には「自分が巻き込まれなくない」という計算があることは明らか。タラデガのレースが『チェイス4戦目』に加え、予選免除が適用される『オーナーポイント上位35台』の争いも熾烈を極めていることから、心配の種となりそうな要素は極力排除したいという計算が働き、それがビルヌーブの参戦に拒否反応を起こしたったわけです。

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 当のビルヌーブは、「僕には多くの経験がある」とやや強気とも取れるコメントをしていたものの、決勝スタートでは、「ドラフティングの中でのクルマの動きを経験するのがこのレースの参戦理由。みんなに迷惑をかけたくないしね」と予選6番グリッドを捨てて最後尾からのスタートを選択。昔からの“村社会”的な要素が強いNASCARでいきなり敵を作るのは、さしもの元F1王者といえども賢い方法とは言えませんからこの選択は賢明だったと思います。
 レースは接触もあったものの最後までトップグループの一団の後方につけ、同一ラップの21位で完走。物足りない結果に見えるかもしれませんが、初めてのネクステルカップ戦としては上出来の結果と言えるのではないでしょうか。現地の評判もまずまずでしたよ。
 今後は、フランキッティはブッシュ・シリーズで経験を積むと見られており、一方のビルヌーブは当初の予定通り今シーズン残りのトラックレースに出場するとのこと。ただ、両陣営とも「シーズン中にネクステルカップを走らせる可能性がある」と名言しており、可能性としては第35戦フェニックスか、もしくは最終戦ホームステッドあたりになりそう。これにモントヤ、さらにサム・ホーニッシュJrを加えた、“4人のインディ500ウイナーが出場するNASCAR”なんてレースが今シーズン中に実現するのでしょうか? うーん、今から想像するだけでも何とも贅沢なレースになりそうです。