Osamu Ishimi's

明暗分けたインフィニオンとシカゴランド、インディ・ジャパンはベストなマシンで

画像いよいよインディ・ジャパンまで1週間! 今回は前々回のインフィニオンと、前回のシカゴランドにおける武藤英紀の詳細レポートをお届けします。大事なインディ・ジャパンに向けての2戦、リザルトだけを見ればくっきりと明暗が分かれましたが、最終的には「明るい」内容になったのです。
武藤は第13戦ミド-オハイオでいい走りを見せていたので、次のインフィニオンでもやってくれるとは思っていましたが、ほんとうに“日本の武藤ここにあり”という存在感を見せたレースでした。第1プラクティスの走行開始から、なんだかすこぶる好調な武藤に、ピットで張り付いて見ていた小生の頬も緩みっぱなしです。
武藤はほとんどマシンのセッティングを変更することなく走行を続け、1時間半の中でマシンをアジャストしたのはたったの2回。どうやらターン5のマシン・フィーリングが悪かったらしく、ダンパー調整を1回とリア・サスペンション周りの調整を1回ずつ行っただけというもので、あとはメカニック達がマシンを触る必要がないという今シーズン・ベストの滑り出しです。とにかくこのインフィニオンに持ち込まれたマシンはバランスが良く、武藤のドライビング・スタイルにもフィット。第1プラクティスでは31周を走行して、トップ3と僅差の4番手というものでした。
続いて行われた午後の予選でもこの調子の良さを維持し、予選第1ステージ第1グループではカストロネベスに続く2位通過。予選第2ステージも12台中6番手のタイムで通過し、初の“ファイアストン・ファスト・シックス”(最終予選)進出を果たしてくれたのです。くぅー、嬉しい!! なんといってもこのロード・コースの最終予選、ファイアストン・ファスト・シックスまでの道のりが長く険しかっただけに、武藤はもとより我々メディア関係者にとっても悲願達成といった感じでした。

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近頃冷静な武藤はこの状況においても、笑みを漏らすことなく精神統一、無の境地です。最終予選となる初めてのファイアストン・ファスト・シックスでは、各ターンを攻めすぎてミスするシーンも見受けられましたが、どんなに下手を打っても6番手には留まれるわけですから、この辺はご愛嬌といったところ。その攻める気持ちを逆に褒め称えたいと思いました。
結果的に5番手というスターティング・グリッドを得ることになったのですが、唯一残念なのはチームメイトのマルコ・アンドレッティに上のポジション(4番手)を取られてしまったこと。とは言ってもマルコにとってここインフィニオンは相性の良いコースで、2006年のルーキー・イヤーに初優勝した場所だし、武藤曰く「インディカーの先輩であるマルコに華を持たせた!」とのこと。ほんとうは相当悔しかったと思いますが。
予選で久しぶりに弾けた武藤は、決勝レースでもその勢いを止めることはなくオープニング・ラップの混乱をうまく回避。序盤は前を走るペンスキーのカストロネベスに詰まりながらも、ポジションを一つ上げて4位を堅守していました。1回目のピット・ストップをカストロネベスより1周遅らせ、ポジションの逆転を狙った武藤でしたが、ピット作業で燃料補給がうまくできずに2秒をロス。このミスでアンドレッティ・グリーン・レーシングの武藤チームの作戦は、再構築されることになったのです。
しかしこの1回目のピット・ストップには大きな意味があります。あのペンスキーよりも1周多く周回できたことが、武藤にとってさらなる自信をつけることになったのです。武藤はスタート直後から燃料を絞り、燃費走行をしていたにも関わらず、前のカストロネベスに詰まっていました。カストロネベスが先にピットに向かうや否や、余った燃料でいっきにペース・アップ。計算上は間違いなくカストロネベスの前に、マシンを運べる予定だったのです。

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実際にピット・アウトした武藤はカストロネベスより前にコースへ復帰したのですが、ニュー・タイヤだったために直後へ迫ったカストロネベスに道を譲らざるを得ませんでした。もう2秒先にピット・アウトしていれば、十分逃げ切れたので残念です。今回改めて感じましたが、トップ・グループは常に燃料を絞りながらペース配分をマネージメントし、優位にレースを進めることができるということ。やっぱりスターティング・グリッドは少なくとも3列目までに居なくては駄目ですね。
その後も武藤はカストロネベスの後ろでレースを進めることになってしまいましたが、中盤51周目、2回目のピット・ストップを早めに行う作戦に。これで武藤はいっきにスパートをかけてカストロネベスとの差を詰め、60周目のシケインでカストロネベスのイン・サイドにマシンを滑り込ませ、ついにオーバーテイクしたのです! 

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お互いにプッシュ・トゥー・パス・ボタンを使用しながらの攻防だったので見応えがありましたが、両者ともきちっと相手のスペースを空けており、とても清々しい戦いでした。カストロネベスもレース終了後、「武藤はクリーンなドライバーだ」と褒め称えていたそうです。
これで武藤のポジションは3位に。残り集回数からして、アイオワ戦以来今季2度目の表彰台を皮算用した小生でしたが、このカストロネベスとの攻防が長引いてしまったため、武藤のマシンにブレーキ・トラブルが発生していたのでした。序盤からずーっとカストロネベスの直後でブレーキングを行っていたせいか、ブレーキが冷却不足になってしまったようです。
この頃からブレーキは悲鳴を上げ始め、ハード・ブレーキングが必要なターンでタイヤがロックするようになり、ペース・ダウンを強いられていました。終盤67周目にコース・アウトしたカストロネベスの影響でフル・コース・コーションが出され、これで後続がすぐ後ろまで迫ってしまい、リスタート後の73周目にコンウェイとモラエスにパスを許すしかなかったのです。
結果スタート・ポジションと同じ5位という成績に終わってしまいましたが、前戦ミド-オハイオとこのインフィニオンの2戦で「トップ・グループで確実に戦える」という感触を得たことは、今後武藤の大きな財産になるのは間違いありません。

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私が感じるに、ロード・コースで武藤に残された課題はタイヤの使い方。今回武藤はスタートを新品のレッド(ソフト)、第2スティントを新品のプライマリー(ハード)、最終スティントをユースドのレッド(ソフト)と組み立てましたが、レース終了後武藤は最終スティントを新品のプライマリーで行くべきだったと吐露しています。
実際ラップ・タイムもレッド新品とプライマリー新品でほとんど変わらなかったので、こういう部分の判断を正確に培っていけば、より一層レースを楽に進めることができるでしょう。2度目の表彰台は叶いませんでしたが、武藤英紀は確実に進化していることを証明したインフィニオンのレース。アンドレッティ・グリーン・レーシングは今、武藤のセッティングが基本になっています。
ロード・コース2戦で勢いに乗った武藤が乗り込んだ第15戦シカゴランド。ここは今年からシカゴに住んでいる武藤にとって第2のホーム・レースであり、武藤の応援団(シカゴ在住日本人飲み友達)も数多く見受けられるレースになりました。武藤もインディ・ジャパンの前哨戦として気合の入る一戦になりましたが、どうもこの1.5マイルのスーパースピードウェイは、気の重さが払拭できません。
それは第12戦ケンタッキーで原因不明のスピード不足が発生したことに起因するのですが、このシカゴランドもケンタッキーと同じマシンを使用することになり、走る前からどんよりとした雰囲気が漂うものになっていました。もちろんケンタッキーのマシンをそのまま持ち込んだわけではなく、ベアリング系やその他考えられるドラッグをすべて見直してマシンをブラッシュ・アップ。それでもケンタッキーの悪いイメージがつきまとい、武藤のテンションも低空飛行という感じでした。

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こういう時の人間の勘というのは、外れればいいのに大抵当たってしまうもの。プラクティス走行を始めた武藤のマシンは案の定スピードが伸びず、5速ギヤと6速ギヤは飾り物状態です。4速ギヤではエンジン回転数を保持できるものの、5速と6速に入れるとガクっとエンジン回転数が落ちてスピードが頭打ちに。マシン・バランスはアンダーステアもオーバーステアも無く、すごく素直なマシンなのにスピードだけがまったくついてこない状態で、またしても頭を痛めることになってしまいました。
走行データによると、チームメイトのカナーンより1周で12mほど長く走っているとのこと。スポッターの指示をもとにコースの一番下となるボトム・ラインをはじめ、いろいろなライン取りを試してみたのですが、変化はありません。私は武藤のエンジニアに嫌われることを覚悟の上で、「このマシンは捨てたほうがいいね」と思わず口走ってしまったぐらいです(反省)。

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打開策が見つからないまま予選に突入し、最もダウンフォースが少ないギリギリのエアロ・バランス仕様で臨んだ4周のタイム・アタックは、事前の予想より若干良かった13番手。走り終えた武藤も思わず「13番手かー、嫌な番号」と漏らしていました。日本人も何故か13番は嫌いです。その後行われた最終プラクティスでは、トラフィックの中でのハンドリングを確認していましたが、ドラフティングしても213マイル台までしかスピードが伸びずにここでも苦戦模様でした。
「現状維持はできても、オーバーテイクは夢のまた夢という感じです」と苦言を吐いた武藤の表情が寂しげです。アクセルをフラット・アウト(全開)する1.5マイルのスーパースピードウェイは、マシン自体のパフォーマンスが命。ドライバーがいくら気を吐いても、マシンを速く走らせることはできません。結局武藤は予選とほぼ同じレス・ダウンフォース仕様のマシンで、決勝レースに臨むという賭けに出ることになったのです。思わず「大丈夫なの?」と武藤に言いたくなるような、レースでは不安定なマシンです。

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今シーズンからシカゴランドはナイト・レースになり、しかも夜9時スタートという時間帯。秋の気配が感じられる気温17℃、路面温度18℃という肌寒い環境の中で行われることになり、武藤は大きく賭けに出たマシンだったせいか今シーズン一番の緊張感を醸し出し、レース前は誰も寄せ付けないといった感じでした。いつもはマシンに乗り込む前に笑顔で言葉を交わしますが、今回はコックピットに収まった武藤にアイコンタクトで挨拶するのがやっとといった雰囲気。私も思わず痛い腰に活を入れ、ピリっと背筋を伸ばした次第です。
気温が低かったためにいつもより1周長いパレード・ラップを経てスタートしたレース。事前の予想どおりペンスキーとチップ・ガナッシの4台が先頭グループを形成し、武藤はそれに続く第2集団の一番後方でレースを進めていました。1回目のピット・ストップで作業が遅れた武藤は、燃料をセーブしながら15番手を走行するという辛い展開でしたが、2回目のピット・ストップでフロント・ウイングをアジャスト。後半のレース展開次第では、トップ10入りを狙える作戦を採っていました。

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ところが2回目のピット・イン目前の91周目、ターン3で武藤のマシンは突然挙動を乱して外側のウォールに激しくクラッシュ。一瞬目を疑いたくなるような武藤のクラッシュ映像に蒼ざめることになりましたが、武藤は自分でステアリングを外したのでホッと一安心です。インディカーではドライバー自身が大丈夫という意思表示のためにステアリングを外すことが決められており、そのアクションがあったので大きなダメージは無いということだけは確認できました。
念のために私はメディカル・センターへ直行したのですが、そこには苦笑いをしている武藤がいて 「何か壊れた」と明るく一言。手首、顎、足の脛が痛いと言っていましたが、インディ・ジャパン前にケガが無くてほんとうに良かったということに尽きます。原因はインディ500のカナーンのクラッシュと同様、右リアサスのプッシュロッド・アームの破損で、インディ・ジャパンにはしっかりと対策してくると思います。
こうして、私が思わず「捨てたほうがいいんじゃない?」と暴言を吐いたマシンはみごとに全損してお払い箱状態になり、インディ・ジャパンへは持ち込まれません。これって不幸中の幸い??
この結果、インディ・ジャパンにはアイオワ&リッチモンドで好成績を収めたシャシーが投入されることになり、武藤も打撲で少し身体が痛いものの、胸中のモヤモヤが晴れてスッキリといった感じでした。もてぎのターン3とターン4はアクセル・コントロールやダウン・シフトが要求され、どちらかと言えばショート・オーバルに似たレイアウトだけに、このシャシーには期待大と武藤も太鼓判。紆余曲折いろいろ問題はありましたが、かくしてインディ・ジャパンは久しぶりに「明るい」気分で臨めるオーバル・レースになったのです。
最後に武藤に一言。
もてぎのレースは気負うことなく楽しんでください。目に見えぬプレッシャーがあると思いますが、今まで積み重ねてきたスキルは自然体でこそ発揮することができます。
優勝しちゃおう!!