Osamu Ishimi's

武藤がアイオワとリッチモンドで実力を発揮。後半戦の活躍が俄然楽しみに

画像やってくれました! 武藤が第7戦アイオワで、3位表彰台に立ってくれたのです。ピット・ストップでのクルーのミスや、つまらない電気系トラブルで3戦連続苦汁を舐めてきた武藤だっただけに、この3位表彰台は大きなおおきな自信につながったと思います。
昨年もアイオワでは2位表彰台を獲得しましたが、この時の2位はチームが採った作戦がタナボタ的に機能して、武藤を2位に押し上げた感が強かったもの。しかし今回のアイオワは、正攻法の実力で勝ち取った3位です。昨年は表彰台で笑顔をあまり見せなかった武藤でしたが、今回は自分のやってきたことが証明されたレースだったので、表彰台では納得の笑顔を見せてくれました。
武藤自身も「今回はピット・ストップも完璧、ノーミス、ノートラブルで走り切った結果の3位ですから、納得のレースです。特にリスタート時のマシン・バランスは最高だったので、終盤にフル・コース・コーションが出ればもっと上の結果を残すこともできたと思います。あと少し運があれば間違いなく優勝できるという感触はつかめています」とレース後のコメントも力強いものでした。
第4戦インディ500から第5戦ミルウォーキー、第6戦テキサスとすべてトップ5フィニッシュできるほどのレース内容だったので、武藤のフラストレーションは最高潮に達していたと思うのですが、よくここまで腐らずに我慢したというのが本音です。

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このアイオワのレースも1回目のプラクティスで17番手、2回目のプラクティスで12番手と見た目にはパフォーマンスが足りないように思われたかもしれません。しかし実際には燃料満タンで走行しているクルマは少なく、武藤はそのような周りの状況を気にせず、ただひたすら決勝用レースのセッティングを煮詰める作業を行っていました。
ターン1-2でアンダーステアが、ターン3-4ではニュートラルな(リアが軽い)感じのマシンだということでしたが、サスペンション周りのファイン・チューニングを中心にセット・アップ。2回のプラクティスが終わった時点では、総合で14番手の順位ながら、なぜか自信満々の表情になっていました。
きっと、何か根拠があったんでしょう。武藤の中で今回のレースはイケルっていう感触があったのだと思います。それとインディ500中にオートバイ事故を起こして入院していたジャックマン(ピットで車体を上げ下げする係)がここアイオワから復帰し、やっとレギュラー・クルーの面々によってオペレーションされていたことも、武藤の自信を裏付ける大きな要素だったのかもしれません。
予選はバック・ストレッチとターン4の路面から湧き水が染み出してくるという状態が止まらず、約1時間15分遅れで始まることに。くじ運の悪い(?)武藤はなんと1番くじを引いてしまい、圧倒的に不利な状況で予選に臨みました。武藤、ディクソン、ビソが走り終わった時点で再度トラック上に湧き水が染み出すことになり、結局予選は中止され、ポイント・ランキング順でレースはスタートされることになりました。
くじ運の悪い武藤と書きましたが、IPS(インディ・プロ・シリーズ=現Indy Lights)時代にこんなことがありました。F1前座の第1レースで優勝し、上位8名で第2レースのグリッドをくじ引きで決めることになった時、最初に一番後ろの8のくじを引いてしまったことがあったのです。今回の予選順も武藤は1の数字を引いてしまい、あちゃーという感じでした。
昨年まで予選順を決めるくじ引きは、インディ500を除いてチーフ・メカニックが行っていましたが、今シーズンからドライバー自身がそのくじを引くことになり、武藤は常に早い予選順を引くことが多いのがウィークポイントです(笑)。ドライバー自身が順番を決めるので、誰にも文句は言えませんが・・・

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そして迎えた決勝レース。朝から雨が降り続け、スケジュールどおりに行われるかどうか心配されましたが、スタート約2時間前に雨が上がって太陽が顔を出すと、トラック・コンディションはいっきに回復していきます。ジェットドライヤーで乾かしてもなかなか乾かないのに、太陽のパワーにあらためて感動しました。
見るみるうちにコース上は完璧なドライ・コンディションになり、昨日のトラブルのもとであった湧き水の染み出しも無く準備万端。コース上に載ったタイヤ・ラバーは雨で流されてしまったものの、最高のコンディションでレースを迎えることができました。
武藤はオープニング・ラップこそ順位を一つ落としたのですが、フル・コース・コーション明けの11周目リスタートで、ウィルソン、レイホールを交わして9番手にポジションアップする好調な滑り出し。その後ディクソンとカストロネベスの接触により、いっきに5番手までポジションを上げた武藤は、トップ・グループでレースを展開することになりました。
中盤の124周目時点で、4番手にポジションを上げていた武藤。チームメイトのカナーンのクラッシュで出されていたフル・コース・コーション明けのリスタートで、前を走るウェルドンをターン1への鋭い進入でオーバーテイクして3位に上昇します。このパフォーマンスが、今回の表彰台を決定付けるものになりました。

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昨年ここアイオワではウェルドンに優勝をさらわれていただけに、胸のすくようなオーバーテイクを見て、思わず私も大きな声で「よっしゃー」と叫んでしまいました。リスタートで最高のパフォーマンスを出せる武藤のマシンに、大きな期待(優勝)を抱いたのは言うまでもありません。
ところが今回のアイオワは125周目のハーフ・ターンから、チェッカーフラッグが出される250周目まで、なんと一度もフル・コース・コーションが出されること無くレースは展開。最終的にレースの流れは武藤に微笑んでくれませんでしたが、みごと3位表彰台を得て、ここまでの悪い流れを払拭することができたのです。
アイオワ州ニュートンという田舎町。周りを見渡せばコーン畑しかない所ですが、武藤にとって縁起のいい場所です。今回武藤はシカゴからニュートンまで車で移動(約5時間)してきたのですが、周りの景色がほとんど変わらないので、本当に退屈だったそうです。アイオワと言えばハリウッド映画「フィールド・オブ・ドリームス」の撮影場所。ストーリーはまったく関係ありませんが、2年連続で表彰台に立った武藤にとっても、アイオワ・スピードウェイはまさにフィールド・オブ・ドリームスと言っていいのではないでしょうか。

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わずか3日間の休息を挟み、武藤はすぐリッチモンドに移動。この間、アンドレッティ・グリーン・レーシングがプロモーターとなる第10戦トロントに向けたイベントがトロントであり、武藤は日帰りで参加してきました。あまり身体を休める時間はありませんでしたが、アイオワで思いどおりのレースが行えたことが一番のエネルギーとなって、体調は万全といったところです。
リッチモンド・インターナショナル・レースウェイ内に設置された武藤のモーターホームを訪ね、その後全米でも1、2を争う治安の悪さを誇るダウンタウンへ。行きつけの日本食レストランで食事と洒落込みましたが、店構えは同じものの暖簾を潜ると何だか不穏な雰囲気が漂っています。
昨年までいた日本人の板前さんは姿を消し、アロハシャツを着ている人物が寿司カウンターの中にいるではありませんか。武藤と目を合わせ「はずしちゃったかもな」と一言交わしましたが、チャイナドレスを着た綺麗なウエイトレスさんに誘導され、席についてしまうことになりました。武藤も私も美人には少々弱い性格でして・・・(情け無い)。
勇気を振り絞って大丈夫そうなメニューを選び、注文することになりましたが、お寿司はおにぎりにお刺身が乗っかっている感じで、鍋焼きうどんも想像を遥かに超える一品で大失敗。テーブル上は日本食モドキで溢れかえることになってしまいました。美人ウエイトレスさんの「何故食べないの?」という質問に、返す言葉も無かったです。
以前別の店で注文したカツ丼があまりにも酷かったので、オーナーと交渉して厨房へ入らせていただいたことがあります。そこでカツ丼の作り方をコックさんにレクチャーしたという武勇伝(?)があるのですが、今回はあまりにも重症すぎて、その気にもなりませんでした。
巻物だけはどうにか食せるものだったので、それを口に放り込み、なんとかお腹を膨らまして帰ることに。奇妙な夕食で明日からのリッチモンド戦に勢いをつけられないものになってしまい、武藤にも「申し訳ない」と一言謝ることになった次第です。

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迎えた第8戦リッチモンド。前戦アイオワの0.894マイルオーバルに続き、今回も0.75マイルのオーバル・コースと2戦連続でショート・トラックのレースとなりましが、このリッチモンド・インターナショナル・レースウェイはほんとうに小さく感じます。約15秒おきにマシンがラップを重ねることになるので、取材する我々はノートパッドに文字を書く時間も無いほどです。
ドライバーもマシンも常に横Gにさらされることになり、スピードこそ平均165マイル前後と速くありませんが、タフさではインディカー・シリーズ中一番かもしれません。武藤はリッチモンドでこれまでのプログラムではあまり力を注いでいなかったQF(予選)シミュレーションにかなりの時間を割いていたように感じました。
予選前に行われる練習走行が、たったの1時間しかなかったことがその要因だと思いますが、前戦アイオワと同様ターン1-2でアンダーステアが強く、ターン3-4でオーバーステア気味というマシン・バランスです。ベストには程遠いものでしたが、慌てず焦らず、まずはリア側のグリップを改善させることに注力し、リア側が許容範囲になったところで、フロント側のグリップを煮詰めていくというセッティング作業に追われていました。
この1回目のプラクティスでは思いのほか周回数を伸ばすことができず、順位も20台中8番手。しかし昨年までの武藤とはなにか違う、ベテランの味みたいなものを感じるセッティング・プログラムの進め方で、そこに安心感が漂っていました。
予選はまたしてもくじ運良く、 5番目のタイム・アタッカーとして出走。4周平均165マイル台に乗せることが目標でしたが、武藤のスピードは164.575マイルどまり。自己ベスト・スピードを更新したものの、トラックコンディションが後半になればなるほど良くなってしまうことになり、武藤の決勝スターティング・グリッドは8番手に決定しました。
とはいえアンドレッティ・グリーン・レーシングの中ではベスト・グリッドとなり、一つ目の課せられたハードルはクリア。あとはこの後に行われた2回目のプラクティスで、決勝用セッティングを煮詰められるかどうかということになりました。
ここまでがまずまずの状況だったので、我々もタカをくくっていたのですが、武藤はこの2回目のプラクティスで、思わぬ迷路に突入することになってしまいます。マシン・バランスが酷いオーバーステア状態に陥って混乱し、わずか30分間のプラクティスでは修正することができず、20台中19番手という結果になったのです。
これで決勝レースは大丈夫なの? と目を疑う状態でしたが、マシンを降りた武藤は「大丈夫、明日は絶対に速いから」と一言。我々には理解できない自信を見せ、我々も「大丈夫なんだ」と妙に納得させられてしまうものでした。

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いよいよ始まった第8戦リッチモンドの300周にわたる決勝レース。今シーズン2回目のナイト・レースとなりましたが、例年の蒸し暑さは無く、思った以上に気温も湿度も低い絶好のコンディションになりました。武藤はオープニング・ラップで危険なドライバーの一人であるビソを交わし、7番手にポジション・アップします。
このオープニング・ラップでラジアがクラッシュしたためフル・コース・コーションになり、8周目のリスタートで武藤はさらに上を狙ってレイホールに仕掛けましたが、ラインを潰されて失速。逆にビソに交わされてしまうことなり、序盤はスタート・ポジションと同じ順位を守ることになりました。
リッチモンドはオーバーテイクに相当危険が伴うため、堅実にレースを進めたというのが妥当な言葉かもしれません。27周目にペンスキーのブリスコーがクラッシュしてしまい、フル・コース・コーション中の30周目に武藤とパトリックを除くリード・ラップ・カーが、1回目のピットストップを行うことになりました。
ここは前述したようにオーバーテイクが非常に難しいので、チームはトラック・ポジションを優先して、武藤をトップに押し上げる作戦です。これは正攻法の作戦で、私は思わず頭の中で「よし!」と頷いてしまいました。これで武藤がトップ、パトリックが2番手になり、アンドレッティ・グリーン・レーシングの1-2体制に。その後このレースの肝となるトップ争いが始まります。

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38周目のリスタートで3番手フランキッティが、2番手のパトリックをターン1で抜き去る鋭い走り。39周目にはその勢いで武藤に襲い掛かりますが、武藤はフランキッティの攻撃を巧みに退け、105周目に行った自身1回目のピット・ストップまで、74周に渡ってトップを堅持したのです フランキッティを従えてトップを走る武藤に、胸躍る気分でした。最高の気分です!
武藤はグリーン・フラッグの下でピット・インを行ったため、一時周回遅れになってしまいますが、武藤に必要なピット・ストップはあと1回。対するトップ・グループのピット・インはあと2回ということで、早計な私はこの時点で「勝てる」と勝手に思い込んでしまいました。
コンウェイのクラッシュで138周目から出されたフル・コース・コーション中に、トップ・グループが2回目のピット・ストップ。武藤はステイ・アウトしてリード・ラップの4位までポジションを挽回することになり、この後フル・コース・コーションが出なければ、武藤が逆転するシナリオが完全にでき上がりました。
その武藤は213周目まで4位を走行し、最後のピットへ。素早い作業でジャッキが下ろされると同時に燃料ホースが外され、武藤は初優勝を目指して、最後の締めくくりに向かうことになりました。この時点で武藤は再び周回遅れになっていますが、武藤より上のポジションにいるドライバーはすべて、もう一度ピット・インしなければなりません。
レースが最後までグリーン・フラッグで行われれば、事実上武藤がトップということに変わりはありませんでした。しかし、しかしです。トップ・グループがピット・インをしようとしていたまさにその時、248周目になんとペンスキーのカストロネベスがクラッシュ!! この瞬間すべてのシナリオが、書き換えられることになったのです。

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トップ3のディクソン、フランキッティ、レイホールがフル・コース・コーション中の250周目に3回目のピット・イン。武藤は当然ステイアウトしてリード・ラップに戻ることになりましたが、それでも4番手に復帰するのが精一杯でした。トップ3との間には多くの周回遅れのマシンが挟まることになってしまい、残り50周ですべてをパスすることは、不可能という状況です。
それにしても今回ペンスキーの2台がクラッシュするという、考えもしなかったレース展開に唖然としました。よりによってトップがピット・ストップを行うタイミングでクラッシュしてくれるとは、カストロネベスを恨みたくなるぐらいですよ。ほんと。
こうして武藤の初優勝は泡となって消えてしまったのですが、2週連続でトップ5入り、しかもあと一歩のところで初優勝を逃すという流れは本物ですね。レース前日に「明日は速いから大丈夫」と言った武藤の言葉に、嘘は一切ありませんでした。感服です。
なにしろ、データ上で作り上げたマシンなのに、レース中にアジャストしたのは1回目のピット・ストップ時に行ったフロント・ウィングのハーフ・ターンのみ。武藤とエンジニアの歯車が完全に噛み合っている証拠です。あとは少しの運だけ。もしアイオワとリッチモンドのレース展開が逆だったら、2連勝っていうのも夢ではなかったですからね。
次週からは今季アンドレッティ・グリーン・レーシングが苦手としているロード・コース戦が3つ続きますが、この流れを切ることなくトップ5入りの常連になって欲しいものです。武藤が常にトップ争いをしてくれると、我々日本のジャーナリスト関係者もプレスルームで鼻高々になれるので嬉しいです。
今日も最後に武藤へ一言。
おじさんが言ったとおり、悪いことが続いたあとには良いことが待ってたね。あとは日々精進すれば、初優勝はおのずとやってきます。初優勝した時はシャンパンを思いっきり私に振りかけてください。その晩は思いっきり飲み明かしましょう。私のドクター・ストップは一時解除です!