Osamu Ishimi's

武藤、インディ500の悪夢再び。バッドラックはいつまで続く・・・。

画像インディ500の熱も冷め止まぬまま、インディカー・シリーズは翌週に第5戦ミルウォーキーを迎えることになりました。武藤はインディ500のフラストレーションを発散させるために、現在住んでいるシカゴでトレーニングに明け暮れていたそうです。

自らの身体を追い込むことによって、嫌なことを忘れるというのはアスリートとして理に適っていますよね。私だったらお酒を飲んで、ジャーナリスト仲間に絡んで発散するという、最低なことしか出来ませんが…。武藤には「あと10歳若かったらトレーニングに付き合うんだけど」と言って、いつも逃げています。

インディ500の後にたった二日間だけ一時帰国した私は、木曜日のフライトでとんぼ返り。金曜日の晩に武藤とミルウォーキーのダウンタウンにある日本食レストラン「七草」で待ち合わせし、美味しい料理に舌鼓を打ちながらインディ500を振り返りました。

「あのままいけば3位以上になっていたね」とか、「終盤のポール・トレーシーのブロックは強烈だったね」などなど。そんな話で武藤と盛り上がり、武藤の気持ちが完璧にリセットされていることを確認してホッと一安心した次第です。

これから始まるミルウォーキー戦への意気込みを聞いたところ、「去年もマシンの状態が良かったし、かなりいいところまでいけると思います。自分でもなんか自信があるんですよ」と断言してくれたこともあり、老体に鞭打ってとんぼ返りしてきた甲斐があるというものでした。

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翌土曜日から第5戦ミルウォーキーのプログラムが始まり、。前夜の言葉どおり武藤は快調な滑り出しを見せ、午前中のプラクティスで2番手という好発進。ここミルウォーキー・マイルは、ベテラン・ドライバーも舌を巻くバンク角の少ないテクニカルな1マイル・オーバルですが、武藤は走り始めからスピードにのり、今シーズン最高のスタートを切ることになったのです。

我々日本メディアも自ずと期待のボルテージが上昇、「インディ500のお返しが出来るかもしれない」と鼻息を荒くしていました。午後に行われた予選前のプラクティスではマシン・トラブル(燃料漏れ)が発生し、ほとんど走行できないという苦境に立たされましたが、それでも総合6番手に留まったのです。

このミルウォーキー・マイルでの武藤とマシンのポテンシャルの高さは、予選でも発揮されました。本来、2回目のプラクティスで行う予定だった予選シミュレーションが出来なかったので、ぶっつけ本番で予選を行ったものの、我々の心配をよそに6位でクリア。逆境を跳ね除け、機は熟したという感じでした。

しかし、しかしです。またしても神様は決勝レースで、武藤に大きな試練を与えたのでした。序盤から中盤にかけて5番手を走行していた武藤は、130周目にグリーン・フラッグの下で2回目のピット・イン。チームはここから作戦を切り替え、無線で武藤には燃費走行の指示が飛びました。

残り周回数から逆算して最終ピット・インをできるだけ短くしようというもので、一時的に順位を落としても、最後のスティントで逆転できるという計算があったのだと思います。燃費走行をすることに多少の疑問は残るものの、ここまでは誰もが納得できる順調な流れになっていました。

そして160周目に本レース2回目のフル・コース・コーション(障害物)が出され、162周目にリード・ラップを走る全車が3回目のピット・ストップに。武藤が我慢して貫いてきた燃費走行が、ついに花開く瞬間です。誰もが素早いピット・ストップを思い描いていたのですが、何やらフューエル担当者の後ろ姿が不穏な動き…。我々の心配が現実になってしまいました。

燃料給油装置のリグがマシンにうまく入らず、武藤は大きくタイム・ロス。事実上これでトップ争いからは完全に陥落し、「あぁ無情」と唸るしかありません。ここまでくると誰が悪いとかいうことではなく、「ほんと、頼みますよ〜」って感じです。

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結局この遅れが大きく響いてしまい、武藤のミルウォーキー戦は8位で終わりを告げることになってしまいました。ミルウォーキーに入ってからずうっと明るかった武藤でしたが、レース後の表情は厳しく、「これじゃ、いつまでたっても優勝争いなんか出来ない」と一言。ピットを去る後姿が、悔しさで震えているように見えました。

続く翌週に行われた3連戦最後のナイト・レース、第6戦テキサス。気持ちをもう一度リセットし直して臨んだ武藤のモチベーションは高く、ここテキサスでも走り始めから順調にマシン・セット・アップのプログラムを進めていきました。木曜日に行なわれた1回目のプラクティスは、ノー・トラブルで88周を走行し、参加23台中一番多く周回を重ねたのです。

レース用セッティングで単独走行&集団走行、そして予選用セッティングで4周のタイム・アタック・シミュレーションを行なうなど、すべての条件下で合格点が出せるマシンに、確かな感触をつかんでいる様子でした。武藤本人も「インディアナポリス、ミルウォーキー、テキサスとまったく性格の違うオーバルに確実に対応できているので、歯車さえ噛み合えば必ず上位を狙える自信があります」と心境を打ち明けていたほどです。

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金曜日に行われた2回目のプラクティス(30分間)では、その時間帯のすべてをピット・ストップ練習に充てるという余裕? の展開に。我々も少々驚きましたが、インディ500、ミルウォーキーと2戦連続のピット・ストップ・トラブルを考えれば、それも納得できるプログラムでした。

私が思うに、ここまでは計算どおりのプログラム。この後に行われた予選から、少しずつ計算が狂ってきてしまったような感じがします。武藤は5番目のタイム・アタッカーとして予選に臨み、4周平均213.327マイルと前日に行った予選シミュレーションどおりのスピードを記録しました。

この時点でチームメイトのダニカ・パトリックに次ぐポジションでしたが、予選タイム・アタックの経過とともに気温も下がり、トラック・コンディションがどんどん良くなる傾向に。、その結果予測していたスターティング・グリッドよりも悪い11番手から、決勝レースに臨むことになってしまったのです。

オーバル・コースでのレースは、ロード・コースのレースほど予選順位が影響することはありませんが、1つでも前のポジションにいたほうがリスクは少ないというのも事実。実際、今回のテキサスの決勝レースでは、スタート後に武藤の前を走るエド・カーペンターがハーフ・スピンを起こし、武藤はアクセルを戻さなければならなくなってしまいました。

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これで武藤はオープニング・ラップで大きく遅れを取り、15番手まで順位をダウン。スターティング・ポジションと同じ11番手に回復するために、73周も費やすことになってしまったのです。

この後も10番手を走るラファエル・マトスとの攻防で、冷静さを欠いた武藤のペースは上がらず。レース中盤の93周目に、トップのライアン・ブリスコーに捉えられてラップ・ダウンしてしまうという、予想外の展開になってしまいました。105周目に行った2回目のピット・ストップ後にようやくマトスを攻略し、130周目には9番手までポジションを上げていきます。

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ところが、151周目のフル・コース・コーション中に行った3回目のピット・ストップで武藤のマシンに異変が発生。ピット・アウトしてコースに戻ろうとした時に、突然シフト・チェンジが出来なくなる電気系のトラブルが生じてしまい、再ピット・インを強いられることになったのです。

クルーが懸命に修復を試みましたが、原因のもとがつかめずレース続行を断念。武藤はマシンを降り、誰とも会話することなく自分のモーターホームに姿を消していったのです。正直、声を掛けることも出来ませんでした。

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3戦連続で武藤に降りかかった不運。どうにかしてこのバッド・ラック・スパイラルから脱却させてあげたいのですが、我々には応援するという手段しかありません。力不足です。

武藤に一言。
「今がボトム。悪いことの後には必ずいいことがやってくる。忍耐強くガンバロー!!」