●まずは自己紹介から
日本テレビの解説のお仕事で、本格的にアメリカに通い始めて早12年目。その前ランダムに取材に来ていた公共放送時代(NHK-BS1)のキャリアをプラスすると、何と19年にもわたってアメリカのレースにどっぷり浸かってしまった私、石見 周(いしみ おさむ)は、今年からUS-Racingのコラムを担当することになりました。レースだけではなく、テレビの取材にまつわる苦労話や裏話、そしてこれまで体験した色々なエピソードなどを伝えていきたいなっと思っています。
30代前半から始まったアメリカ行脚。つまり私、相当ジジイになってしまったということですが、まさかこんなに長くアメリカン・モータースポーツのテレビ解説者として、働けるとは夢にも思いませんでした。本当に幸せ者です。事の発端は友人から「CARTの解説やってみる?」という軽い感じの誘いを、二つ返事で受諾したこと。
もともとF1やF3000などヨーロッパ中心のモータースポーツ・ビジネスにかかわっていたけど、INDY500以外、アメリカン・モータースポーツの事はあまり気に留めてなかったのが事実。当初、解説なんていう大それた仕事を安請け合いしてしまった自分を悔やみましたが、取材すれば取材するほどアメリカン・モータースポーツの面白さにはまる自分がそこに居ました。
とにかくみんな明るい。陰湿な奴は皆無。ドライバーもチームクルーも気さくにインタビューに応じてくれるし、ファンを中心としたレース・イベント全体の雰囲気が、自分の性格にフィットしたのかも。そう、テレビ解説者としては最高にやりがいを感じられる場所であったのです。そして今ではインディカーのみならずナスカーにも触手を伸ばし、アメリカン・モータースポーツの楽しさを少しでも多くの人たちに知ってもらえるよう、テレビというメディアを通じて語らしてもらっています。
●油断大敵、慣れてきたときが一番危ぶない?
今回は、「みんなも海外に行く時は気をつけて!」という思いを込めて、ひとつの悲劇を報告ましょう。この足掛け20年近くのアメリカン・モータースポーツ取材の間に、色々な災難がありました...
中でも忘れられないのは、フロリダ州ホームステッド-マイアミ・スピードウェイ近くのローカルホテルに宿泊した時の出来事。治安が悪い場所だということは承知していたのですが、朝っぱらだったので油断していました。不穏な動きをする3人組がチョロチョロしていて、変な奴らだなと思ってはいたものの、アメリカでの生活に慣れてきていた私は、さほど気にも留めずホテル玄関の脇で気持ちよく朝食後のタバコをふかしていたのです。
今日も1日いい日になりそうだなと思った瞬間、背中に激痛が...地面にバッタリ倒れて意識が薄らいでいく私から、バッグを奪って逃亡しようとする輩たち。敵の足を一瞬つかみかけたが逃げられ、その場に力尽きてしまいました。
幸運にも打ち所が良く、一瞬気を失ったものの打撲という軽傷で事なきを得た私。しかし取られたバッグにはパスポートや高級?なカメラなどが入っており、頭の中は真っ白です。後でその現場を目撃していた老婦人によると、強奪犯は何やら長い棒みたいなもので私を打ちのめしたらしい。通報で直ぐに地元警察のパトカーが数台来て現場検証開始。その時のポリスの一言が忘れられない。「命があってよかったね!」だって。
そりゃ油断していた俺も悪いけど、太陽も昇っている朝の7時半、それもホテルの玄関脇だぜ。治安が悪すぎるっつーの。その後救急車も到着して私の治療を行っている間、何故かホテルの従業員全員が集められて事情徴集されていました。地元警察曰く、こういう事件はホテルの従業員がグルの場合が多いのだそうだ。物騒だね。
海外で命の次に大切なパスポートを取られた私は、日本のマイアミ総領事館で帰国のみに使用出来るパスポートを申請しました。発行までに1週間ぐらい掛かることになってしまい、レース終了後に同行していたテレビ・クルーを、マイアミ国際空港へお見送りするという寂しい立場に。こういう時一人になると、妙に落ち込みます。なんだか二度と日本に戻れないのではと、心細くなってしまったのでした。
というわけで、海外ではいつでも危険と隣り合わせにいるということを、自覚させられる経験だったのですが、翌年も近くのレストラン駐車場でクルマの窓ガラスが割られ、取材に必要な機材を盗まれる事件が。ニューヨークからバックアップの機材が到着するまで、丸一日取材が出来ない状況に追い込まれるという、2年連続の悪夢に襲われたのです。
ホームステッドのバカヤロー!! 以来、私とテレビ・クルーは2度あることは3度あるという日本の教えに則り、ホームステッド近郊に宿を取らず、少しでも治安のいいマイアミ空港近くに宿を移すことになりました。
皆さん、海外では朝だろうが夜だろうが怪しい雰囲気だなっと思ったら、多少面倒臭くても自分の五感を信じて、すぐその場を発ち去るべし。備えあれば憂いなし。自分は大丈夫だろうという慣れが、悲劇を生んでしまいます。
あぁ、生きててよかったー!