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第13戦アイオワで今季初優勝を遂げたハンター-レイ、佐藤琢磨はサスペンショントラブルでクラッシュ

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シリーズの中で最も短い0.875マイル(1.40818キロ)のショート・オーバルで、300周にわたって繰り広げられた第13戦アイオワを制したのは、ライアン・ハンター-レイでした。2012、2014年に続く3勝目で、通算15勝目を達成。2013年のチャンピオンがやっと今季初優勝を達成し、今シーズン9人目のウィナーとなりました。
 
予選9位からスタートしたハンター-レイは序盤に8番手前後を走行。まだ太陽が出ていた時点では、勝てるか解らなかったと言います。「素晴らしいプラクティスと予選を経てレースに臨んだが、最初はかなり厳しく、勝てるクルマかどうか確信が持てなかった」とハンター-レイ。しかし太陽が沈み、気温が下がっていくのを見越してセットしていたクルマは、徐々に本領を発揮し始めます。
 
「太陽が沈んでからというもの、クルーたちはピット・レーンで卓越した仕事をし、ピット・ストップでフロント・ウィングを正確に調整していったよ」と本人が語るように、彼のホンダ・ダラーラはピットの度にスピードをアップ。勝負を決めたのは前回ミルウォーキーのセバスチャン・ブルデイ同様、ゴールから逆算して早目(238周目)にピットへ入ったことでした。
 
ピット後、クリーン・エアの中で走ることができたハンター-レイは、トップのジョセフ・ニューガーデンが最後のピットを終えて出てきた時に先行。3勝目を狙っていたニューガーデンは懸命に追ったものの、「ライアン(ハンター-レイ)に対して何もできなかった。最後は全開だったが、近づくことさえできなかったよ」と語るほど、ハンター-レイは絶対的なスピードを持っていました。
 
アンドレッティ・オートスポーツはアイオワで6連勝を達成し、過去9戦中7勝目と圧倒的な強さを見せつけました。アメリカ人のトップ3は2006年のインディ500以来で、サム・ホーニッシュJr.が優勝してマルコ・アンドレッティが2位、まだ現役だったマイケル・アンドレッティが3位でした。アメリカ人のトップ4にいたっては、2001年以来となります。
 
「ライアン(ハンター-レイ)がアイオワでまた勝って、我々の連勝を維持してくれたのはすごいことだ。我々はアイオワを愛しているよ」と喜ぶオーナーのマイケル。「信じられない。我々がなぜここで良いのか、理解できないほどだ。もし知っていたら、どこでだって同じようにトライするさ。ただ幸運なだけだよ。我々はここでいいセットアップを持っていて、我々のドライバーはここでドライブするのが好きだってこと。ライアンは素晴らしい仕事をしてくれた」
 
ホンダのエアロ・キット開発チームだったアンドレッティとハンター-レイですが、今年はなかなか勝つことができませんでした。これまで勝利を重ねたコースで、昨年との違いを聞かれたハンター-レイは、「新しいエアロ・パッケージは以前に比べて、1スティントの中でアクセルを踏む時間が長くなった。混雑した中では難しく、ダウンフォースを失った時やダーティ・エア(乱気流)の時はほんとうに後ろがルーズ(オーバーステア)になる」とその難しさを語っています。
 
「前に誰もいないクリーン・エアの時はダウンフォースが増す傾向で、ステアリングが重くなり、もっとグリップするんだ。誰かのラインをクロスしてしまったり、ダーティ・エアに入った途端にルーズになる。これまでとは異なる要素が加わり、厳しくなった。たしかにグリップは増えたが、いくつかの難しさも加わったよ」
 
一方、昨年に続いて2位でフィニッシュすることになったニューガーデン(シボレー)ですが、今回のレースでも素晴らしい走りを披露しました。「おそらくあと20周あるか、ライアンの前に周回遅れが出てくれば仕掛けることはできたと思うが、ほんとうに厳しかったと思う」と今回のレースを振り返っています。
 
「けど我々は素晴らしいレース・カーを持っていて、何もする必要がないぐらい、夢のようなハンドリングだった。レースの間に調整し、トラフィックを抜けるのも楽で、ドライブが簡単だったんだ。とてもよく走ってくれて、体への負担も全然なかったから、不平を言うことはできないね。ドライブさせてくれたチームに、クルマの中で感謝していたよ。この表彰台を、ほんとうに誇りに思う」
 
3位に入ったのは、自身初表彰台となったルーキーのセイジ・カラムでした。プラクティス、予選と好調だったチップ・ガナッシ・レーシングでしたが、トニー・カナーンとスコット・ディクソンが相次いでメカニカル・トラブルに遭い、唯一生き残ったカラムはディクソンに問題が発生した時点で、大きく戦略が変わることになったと言います。
 
「僕がこの週末に目指していたゴールはこの表彰台ではなく、ディクソンがポイントでリードできるよう、我々ができる限り助けることだった。ほとんどの間彼のすぐ後ろ、4番手か5番手を走っていて、彼のクッションとなることに満足していたよ。彼にメカニカル・トラブルか何かが起きてから、勝利を目指すことになったんだ」とカラムは当初、自分はサポート役だったと正直に語りました。
 
急遽勝つことを求められたカラムは、終盤になってエド・カーペンターらと激しいバトルを展開。外側にカーペンターがいるにもかかわらず、ぎりぎりまで寄ってくる走りにカーペンターは激怒し、レース後はカラムに詰め寄って「もっと周りをリスペクトしろ」、と注意される場面もありました。その件についてカラムは「新しいタイヤだったら下のラインをキープできるけど、だんだん厳しくなるんだ」とコメント。
 
「レースの終盤になってパスしようとする時、上のラインにいる連中は下の連中が上がってこないようにしようとするが、ポジションを争うには上がるしかない。これはレースなんだ」と自分の正当性をアピール。その数日後のインタビューでは「ダリオ(フランキッティ)は僕の走りに対して、何も間違っていないと言ってくれたよ」とも語っています。
 
彼が今回の一件から何を学んだのか、この後の走りが気になるところですが、こんな本音も漏らしました。「ここのバンプとGは体にとってすごくきつくて、残り50周の時に無線でレースが終わったらマッサージが必要だって伝えたぐらい、腕は限界に近かった。今も左腕は何も感じないし、感覚がまったくない。バンプがタイヤをシェイクしているからだと思う」と語った20歳のルーキー。インディカー・ドライバーに何が必要か、彼はこれから少しずつ学んでいくのでしょう。
 
2011年に初ポールを獲得したアイオワで、佐藤琢磨は予選15位からスタートしました。80周目に最初のピットを終えて周回遅れに転落するも、118周目の2回目のピットで同一周回にカムバック。4番手まで上がって最後のピットを終えたのですが、260周目にまさかのサスペンション・トラブルが発生してターン2に激突し、リタイアを余儀なくされました。
 
「スタートはクルマのスタビリティがあまり良くなくて、ポジションを少し落としてしまいました。最初のスティントではタイヤの内圧が上がりきってしまってグリップが落ちてきたので、次は内圧を落としていったところ、非常に良いラップを刻めました。そこまでは良かったのですが、3回目のスティントでさらに内圧を調整したところ、悪い方向に行ってしまったんです」と琢磨は中盤までを振り返りました。
 
「4回目のスティントはまた戻すことになり、行ったり来たりが多い忙しいレースでした。1周18秒のうち11秒近くコーナリングしているコースなので、ちょっとでもバランスが合っていないと、スピードを伸ばすことは不可能です。非常に苦労しながらも、最後のスティントではようやくまとまってきたところでした」
 
最後のアクシデントに関しては、「プッシュロッドの付け根が折れました」と琢磨。「ちょっと怖かったですけども、ほんとうに突然のことで、コントロール不能でした。コーナーでは5G以上かかっているので、突然向きがかわるとビックリしますし、あの角度で壁に行ったのは怖かったですが、体は大丈夫です。クルマが守ってくれました」
 
3戦続いたオーバルが終わり、次はロード・コースのミド・オハイオへと舞台が変わります。フォンタナに続いてアイオワも制し、今季4勝目を挙げることができたホンダ。オハイオの各工場から多くの関係者が集まる次回はホンダにとって重点レースのひとつで、2010年に参戦を開始した琢磨にとっても100戦目となるレースであり、活躍が期待されるところです。(斉藤和記)
 
●決勝リザルト

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