INDY CAR

第12戦ミルウォーキー決勝でブルデイが復活を告げる勝利、佐藤琢磨は14位

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1903年に自動車のレースが始まった、ザ・ミルウォーキー・マイル。113回目のインディカー・レースでみごとウィナーに輝いたのは、セバスチャン・ブルデイでした。デトロイト第2に次ぐ今季2勝目で、ここミルウォーキーでは2006年以来9年ぶりの2勝目を記録。歴代7位となる通算34勝目を達成しました。
 
「予選は5番手以内に余裕で行けると思っていたが、マシンの底をハードに打ってタイヤが浮き上がり、11位になってしまった」と決勝の4時間前に行われた予選から振り返ったブルデイ。「ここはパスするのが難しく、とてもアグレッシブにスタートしなければならなかった。イン側、そしてアウト側と行き(3周目に)7番手まで上がった」とスタートの状況を語りました。
 
「クルマはとてもいいと感じたよ。トラフィック(混雑)をマネージメントできた」と言うブルデイは、最初のピット後3番手までアップしていました。勝負の行方を決めたのはレース中盤に発生した最初のコーションで、ほとんどがピットへと向かう中でステイアウト。「コースに留まったのは、まだグリーンで10周ぐらいしか走っていなかったから、リア・タイヤがいけると思った」と彼は語っています。
 
これでトップに立ったブルデイは、タービュランスの影響を受ける必要が無くなりました。「10周だけクリーン・エアで走ることができたけど、とても速く走ることができて、これは行けるんじゃないかと思っていたよ。こうなったら楽しむしかない。クリーン・エアをエンジョイして速く走っていれば、何かが起きるんじゃないかってね。そしたらとてもうまくいった」
 
「楽しんでいた」という言葉があまりにも印象的ですが、201周目には2番手に21.3317秒もの大差をつけ、202周から212周にかけて2番手以降をすべて周回遅れにしてしまいます。213周目に最後のピットを余裕で終わらせたブルデイは、最初のコーションでピット・インしたグループが計5回のピットを強いられることになったのに対し、4回で走り切ったのです。
 
「ずっとグリーンのまま続いてくれたのも決定的だったね」とブルデイ。「ピットから出た僕はニュー・タイヤで、彼らはオールド・タイヤで燃料をセーブしなければならなかったから、ペースを上げられなかったんだよ。彼らは彼らの戦略に捕まってしまった感じだ。今日の勝利のカギは混雑した中でうまく走り、バトルができたことだ」
 
「ほとんどのドライバーはあまり快適ではなかったはずだ。我々は究極の戦略によって、燃費に縛られることになった彼らを捕えることができた。一台ずつ十分なスペースがあり、違うラインを走って、タービュランスの影響をほとんど受けなかったよ。我々にとってこの戦略はほんとうにうまく機能し、まるで魔法のような感じだった」
 
アル・アンサーJr.とタイの歴代7位の勝利数、34勝目を記録したことについては「偉大なドライバーたちの記録をとても尊敬しているけど、僕は記録の中で生きているわけじゃない。僕は記録を見ないし、良く考えたこともない。ただその瞬間をエンジョイし、楽しんでいるよ」とブルデイは語っています。
 
かつてチャンプカーで4年連続チャンピオンを獲得していた頃を彷彿とさせるオーバルでの勝利でしたが、ここまでの道のりは決して楽ではありませんでした。「しばらくオーバルをドライブしていなくて、2011年に戻って来たけど、オーバルは2013年が最初だった。去年がKVでは最初で、ほとんどうまくいっていなかったのが、やっと良く回り始めるようになってきたんだ」
 
「アメリカに戻って来た時、2004年から2007年のブルデイを期待していた人がたくさんいたと思うが、不可能だった。不可能なことにトライして、たくさんのミスをしてバカなやつのように見えていた時期もあったと思う。今は安定して前を走ることができるようになり、良い結果を得るために特別なことをする必要が無くなった」
 
「うちのチームは小さなグループだが、とてつもないグループで、僕は今ほんとうにエンジョイしている。もう36歳になったけど、今よりも良いと思ったことは、かつてなかったよ。これができるだけ長く続くことを希望している」とブルデイ。ついにオーバルでも勝利を果たし、チャンプカーの黄金時代復活を期待するファンも多いはずです。
 
「あの頃勝てたのは環境が許したからで、ほんとうに速かったのは5〜6台だった。今は15台が毎戦勝てる状況にあるし、もっと危険になって、高いクオリティのフィールドにステップアップした感じだ。毎週末勝てるほど、簡単なシリーズだとは言えない。去年はここでペンスキーが占領した一方、我々はまるで違うシリーズのように苦しんでいたよね」
 
ブルデイの驚異的な走りもさることながら、人々を驚かせたのは2位でゴールしたカストロネベスでした。彼にとって38回目の2位(歴代2位)でしたが、今回は予選24位、最後尾からのスタートでした。あろうことか、チーム・ペンスキーはカストロネベスのマシンを予選開始まで間に合わせることができず、出走が許されなかったのです。
 
1台ずつのオーバルの予選は抽選によって走る順番が決まりますが、前半に走行するマシンはスタートの30分以内、後半のマシンは15分以内に予選ラインのエリアに来なければなりません。この日14番目のアタックだったカストロネベスのマシンは10分遅れで到着し、予選走行が許されなくなったために最後尾からのスタートとなっていました。
 
「不運にも最後尾からのスタートということになり、すごく失望させられたよ。ここでパスするのがどのぐらい難しいか、我々は知っていたからとてもがっかりした」と予選を振り返ったカストロネベス。レース・スタート後は17番手までアップしたものの、「クルマは混雑した中では少し難しかった。クリア・ラップの中で走れなければ、決してチャンスはなかった」と判断。チームは一番早い47周目という段階でピットへ呼びました。
 
他とピットのタイミングをずらすことで、前にマシンがいない状況の中で順位を上げる戦略をとったペンスキー。「タービュランスが少なくなった途端、クルマは確かに速かったから、違うレーンをトライしていた。ある時点において、カーナンバー11(ブルデイ)を捕えていたからね」と、優勝したブルデイに匹敵するほどの速さで追い上げて行くことになります。
 
「不運にも彼は僕のライン上に移動し、僕の空気を奪っていった瞬間は強烈で、これで終わったと思った。僕が近づいたら、彼が何かをやるだろうっていうのは解っていたけどね。ポイントは決してあきらめないことで、正直今どの順位を走っているのか知らなかった。彼ら(ピット)は教えてくれなかったから、ただひたすらハードにドライブしようって」
 
「順位は220周目まで知らなかったんだ。イエローの218周目に電光掲示板をちらっと見て自分のナンバーが上の方にあり、おお、よくやってるじゃないって思った。実際に1台だけで走っている時もあり、前に誰もいなければ、ミラーを見て後ろに誰もいないという時もあった。みんなどこだ、何があったんだってね。こりゃよっぽどひどいか、うまくいっているかに違いないって」
 
「予選を走れなかった分、新品のタイヤが1セット残っていたのも良かった。今日の戦略は可能な限りパスすることで、その機会が来たらできるだけパスしたかった。クルマはイン側、外側もOKだったよ。確かに経験による成果だと思う。2位を良しとはしないけど、非常に難しい中で全員が素晴らしい仕事をした。最後のイエローでは新しいタイヤを履き、勝つチャンスがあるって思ったけど、11番(ブルデイ)は速過ぎたね」
 
終盤まで途中の順位をいっさい気にしていなかったと語ったカストロネベス。その速さもさることながら、彼を走りやすい環境に持っていくチームの緻密な計算による采配も、最下位の24位から2位に入った要因と言えるでしょう。彼は最初のコーションでピットに入りながら、次のピット(4回目)をブルデイと同じ171周目にしたのも注目すべきポイントであり、ペンスキーも他のチームが燃費できつくなるのをすぐに把握していました。
 
シボレーがワンツーを獲り、ホンダ勢の最上位となる3位に入ったのが、前回フォンタナの覇者、グラハム・レイホールでした。これでカストロネベスと同ポイントのランキング3位になりましたが、今回彼らは3回のピットで走りきる作戦でスタート。予選6位から順位を上げ、ダントツに長い60周目まで最初のピットを引っ張りました。
 
「ホンダ・エンジンの燃費は優秀で、3回のピット・ストップで走りきろうと計画していたんだ」とレイホール。「60周で3ストッパーをトライしようと決めたが、1秒リードしたもののピットでニュー・タイヤを履いた連中がすごく速くて、大きく順位を落としたからがっかりしたよ。結局、次のスティントは40周で入ることになり、3ストップを捨てたのは少しショックだったね」
 
「スリー・ストッパーはイエローが1回か、無い時にしかうまくいかない。みんなが入った時点でイコールになってしまうんだ。だけど、最初のスティントは10周も多く走ることができ、大きな助けになったよ。最後、作戦に柔軟性をもたすことができたからね」とレイホールはレースを振り返っています。
 
今回、一日でプラクティスから予選、決勝まで続いたスケジュールに関しては、「結果が良かったということもあり、率直に好きだよ。とても良かったと思うね。ただハードだっただけというか、みんな一日中一生懸命働いていた。僕はまた、ここに戻ってきたいと思っている」と語っています。ファンは一日で色々と楽しめることもあり、今後このパターンが続くことになるかもしれません。
 
2度のプラクティスでトップ5だった佐藤琢磨は、予選13位からスタートしたのですが、21番手まで順位をダウン。最初のピットを終えた時点で周回遅れへの転落を余儀なくされました。「最後のプラクティスでうまくいかなかったのが響いて、とにかくバランスが悪く、リアがまったくない状態でした。クルマから調整できるアンチロールバーやウェイトジャッカーなどでもカバーできないぐらい、ひどいオーバーステアで、あっという間に最後尾まで落ちてしまいました」と琢磨は序盤を振り返ります。
 
予想外の困難な状況に陥った琢磨は、ピットの度にマシンをアジャストしていきます。周回遅れながらブルデイのすぐ後ろを走り続けました。「リーダーとほとんど変わらないペースで走ることができ、ラップ・ダウンのままでしたが、彼と一緒に後続を引き離すぐらいのスピードがあったので、中盤は非常にコンペテティブな走りができたと思います」と琢磨はその時の状況を語っています。
 
212周目には9番手まで復活し、222周目のコーションで最後のピット・ストップを行った琢磨でしたが、シーズン中盤からチームに加入した新しいクルーが痛恨のタイヤ交換ミス。最終的に14位でフィニッシュとなりました。「大好きなミルウォーキーでほんとうはもっと上位でフィニッシュしたかったのですが、レース中のスピードは悪くなかったと思うので、それをきっちりとアイオワに繋げたいと思います」
 
久しぶりに2番手以降が周回遅れになる光景が展開した今回、それがペンスキーやガナッシのドライバーではなく、KVレーシング&ブルデイということで近年のファンは驚いたかもしれません。昨年のトロント第1、今年のデトロイト第2と制し、オーバルまで勝利を収めたこのコンビが残りのシーズンでどんな戦いを見せてくれるのか、引き続き注目していきたいと思います。(斉藤和記)
 
●決勝リザルト

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