INDY CAR

出血多量の深刻な状況にあったヒンチクリフを救ったセーフティ・チームと医療スタッフ、INDYCARはさらに難しい局面へ

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3台のシボレー・ダラーラがクラッシュ後に浮き上がる深刻なアクシデントが続いたことから、急遽予選用のセットアップによるアテンプトを止め、決勝で使用する仕様で予選を行った第99回インディアナポリス500。チームやドライバーが長い時間をかけて作り上げた予選トリムは水の泡となり、主催者は伝統のスピード・トライアルよりも、安全を優先しました。
 
しかしその翌日、決勝に向けたプラクティスが始まって50分というところで、ファン・パブロ・モントーヤ(シボレー)のすぐ後ろを走っていたジェイムズ・ヒンチクリフ(ホンダ)にサスペンション・トラブルが発生。その前の周に平均223.916mph(360キロ以上)を記録していた彼は、ほとんど減速することなく右側からターン3の壁に激突しました。
RACERによると、125Gの衝撃によってモノコックに進入したスチールのウィッシュボーンが右足を貫通して左太ももの上部に入り、骨盤の前で止まっていたそうです。駆けつけたセーフティ・クルーによってウィッシュボーンが切断され、ヒンチクリフをマシンから救出。続いて大量の出血を止める措置を施しながら病院へ搬送し、集中治療室で緊急手術を受けるという深刻な状態でした。
 
「言葉では言い表せないほど、セーフティ・チームには感謝しているよ」と語ったヒンチクリフ。「彼らと病院のドクターとスタッフは、僕のヒーローだ。インディカー・ファン、家族、仲間のドライバーたちのサポートにとても感謝しているし、今日我々が一つのファミリーだというのを感じることができた」
 
普段からインディカーのレースを支えている優秀なセーフティ・チームと医療スタッフの素晴らしい働きによって救われたヒンチクリフ。残念ながら今シーズンの復帰は難しいと言われていますが、一刻も早く回復することを祈らずにはいられません。
 
今回はマシンが浮き上がるアクシデントと違い、サスペンションが壊れたことによるものでした。ヒンチクリフのホンダ・ダラーラは壁に激突した後、コースを横切りながら一瞬逆さまになりましたが、インディアナポリスから追加されたドライバーの前のウィッカーが効いたのか、裏返しになることはありませんでした。もし逆さまになっていたら、救出はずっと遅れていたでしょう。
 
いったいどのようにしてサスペンションが壊れたのかは判明していませんが、今年のマンスオブメイは3日のエアロ・キットのテストに始まり、ロードコース用のマシンに戻して第5戦を戦った後に再びオーバル用へ変更。これまでになかったエアロ・キットの導入や、予選の混乱などによってスタッフが疲弊し、普段は決して見落とすことのないような部分への配慮が行き届いていなかったとしたら…。超高速のスーパースピードウェイでは特に、パーツが壊れるようなことはあってはならず、滅多に起きない事故だったと思います。
 
今回のアクシデントでは即座に「コード5」が出され、INDYCARは映像の配信を停止。命に係わる深刻な事態であると誰もが気づき、あのダン・ウェルドンの死亡事故が頭をよぎったファンも多かったのではないでしょうか。繰り返しますが、これはシボレーの3台に起きたアクシデントとは違います。しかしここでクラッシュすることがどのような結果に繋がってしまうのか、ヒンチクリフの事故で人々はあらためて認識したはずです。
 
一週間前のカストロネベスの事故以来、オフィシャルとシボレーはスーパーコンピューターを使って解析していると会見で語っていましたが、未だ結論は出ていません。ヒンチクリフのアクシデントを見た誰もが納得できる解決策とは、いったい何なのでしょう。INDYCARはより一層、難しい局面を迎えることになったと思います。(斉藤和記)
 
●地元テレビ局によるレポート