インディアナポリス・モーター・スピードウェイのロード・コースで初開催された今シーズンの第4戦「グランプリ・オブ・インディアナポリス」で、サイモン・パジノウが初代ウィナーに輝きました。予選4位からスタートした彼は10周目に2番手にアップし、ブラック・タイヤに履き替えた1回目のピット後もポジションをキープ。残り1回のピットで走り切れないと判断したチームは、2回目のフルコースコーションが発生したタイミングを利用し、44周目に2回目のピットインを指示してレッドに交換します。その後イエローが相次ぐ展開となり、最後のピットもコーション中の54周目に終了。57周目にライアン・ハンター-レイをパスしたパジノウは、全車の最後のピットが終了した時点でトップに浮上し、通算3勝目を達成しました。
「2回目のピットはイエローになったから、あそこで入ったんだ」とレースを振り返るパジノウ。「でもその時にハンター-レイは入らなかったのを見て、心配になったよ。正直言って頭の上に雲のようなものができたみたいで、他のチームの戦略がどうなっているのか解らないから、次は誰と戦うんだって感じだった。終盤になってハンター-レイは僕と同じように燃料をセーブしなければならないのは解っていたけど、すごく心配だったのはエリオで、我々は彼らよりも少しピットアウトが遅かったからね。ラスト15周は燃料をセーブしなければならなかったんだが、無線で今までに見たことがないほどの数値を達成するように言ってきて、できないと思ったからストレスだったよ。ホンダ・エンジンは速いだけでなく、燃費も驚くほど素晴らしい。ホンダにはとても感謝している」
18日に30歳の誕生日を迎えるフランス人のパジノウは「二つのことを、誇りに思っている」と言います。「ひとつは今までで一番大きいトロフィーを、尊敬するマリオ・アンドレッティから受け取ったことと、このインディアナポリスで史上2番目に勝ったフランス人になり、インディ・グランプリの最初の勝者になれたことだ。ここに初めて来た父さんの前で勝てたなんて、信じられない。すごく感動しているし、とても幸せだよ」
2位は2回のピット・ストップで走りきったハンター-レイで、最後のピットはパジノウと同じ54周目でした。「サイモン(パジノウ)もそうだが、ホンダは我々が必要とする素晴らしいパワーと燃費を与えてくれた。ホンダには脱帽する。今回も素晴らしい仕事をしたよね。我々は周回ごとに同じ燃料の量をセーブし、最後は全開で行ってもいいという指示がきたんだけど、彼(パジノウ)をパスするまではいかなかった。ずっと燃費走行を続けていて、いきなり110%の走りにするのは難しいよ」とレースを振り返ったハンター-レイ。2連勝とはなりませんでしたが、ポイントリーダーのウィル・パワーが8位でフィニッシュしたことから、1ポイント差まで近づきました。
今日が39回目の誕生日だったエリオ・カストロネベスが、開幕戦と同じく予選10位から追い上げて、3位でフィニッシュしました。前回と違うのは、19周目という早い段階でピットに入り、翌周に19番手までポジションをダウン。そこから追い上げての3位表彰台です。「(レース前に)ウォームアップがなかったから、セットアップが良いか悪いか分からず、すごく難しかった」とレースを振り返るカストロネベス。「良いクルマになっていたから良かったよ。実際に走って、改善されていたと感じたからね。戦略も見事だったし、ロジャー(ペンスキー)は素晴らしい仕事をした。正直言って何番手を走っているか分からず、ほんとうに難しいレースだったんだ」
予選16位からレースに臨んだ佐藤琢磨は、スタート時のアクシデントでフロントノーズに破片が刺さり、チームはピットインを決断。同時にタイヤも交換することにし、ルールに沿ってグリーンで2周走った後、10周目にピットへ飛び込みました。ここでレッドタイヤに換えて最後尾から追い上げ開始。しかしテレメトリーの交信用アンテナもアクシデントの際に失っており、マシンの状態を十分に把握できないままレースを戦わなければなりませんでした。
33周目に2度目のピットを終えた琢磨は、やがて左リアのタイヤに異変を感じます。テレメトリーで空気圧を確認できない中、スローパンクチャーの可能性があると判断して44周目に3度目のピットへ。その後周回遅れから同一周回へと復帰し、64周目に最後のピットを終えた琢磨は、新品のレッドタイヤでラストスパート。最終的に9位までポジションを上げてフィニッシュしました。
「最初の頃のマシンは辛かったのですが、路面が出来上がってきてから、自分たちが思い描くようなクルマになってきました」とレースを振り返る琢磨。「最後のスティントに新品のレッドを残していたので、それで非常にコンペティティブなラップタイムは刻めたんですけど、やっぱりまだトップグループとは差がありました。最後のスティントに関して言えば、ピットのタイミングが分かれて、イエロー中に入ったクルマ(パジノウやハンター-レイなど)に関しては、僕らのチームの計算では燃料がもたないと考えていたのですが、先頭グループは最後まで燃料をもたせましたね。今日のレースはスタート直後が怖かったですけど、それ以外は非常にエキサイティングなレースになったと思うので、これからも楽しみです」
この写真は、52周目の再スタート時のアクシデントの際に、琢磨めがけて飛んできたパーツが開けた穴です。あと少しずれていたら、大変なことになっていました。実際にジェイムズ・ヒンチクリフはヘルメットにまともに破片が当たったそうで、近くの病院で検査を受けたところ、脳震盪でインディ500のプラクティスを走ることができなくなりました。本人は予選までに復帰したいと語っており、その間EJビソが代役に起用されています。オープン・コックピットのリスクを改めて感じさせるアクシデントでした。
レース前、初めてポール・ポジションを獲ったセバスチャン・サーベドラを先頭に、スタートに向けてフォーメーションラップを始めたところです。まさかこの後、スタートできずに後ろから追突されてしまうとは…。「我々はただスタートの手順に従っただけだ。何が起こったのかわからない。クラッチをリリースしたら11000rpmが0になってしまったんだ。我々は素晴らしい仕事をこなしてきただけに、残念だよ」とサーベドラ。グリーンフラッグを振ったインディアナポリス市長は、飛んできた破片で腕を軽傷したそうです。最初のロードコースのレースで大事に至らず、良かったですね。
予選2位もさることながら、この日の最多リードラップとなる31周もレースをリードしたジャック・ホークスワース。チームは昨年まで続いていたスポンサーを失い、ルーキーを採用したこともあって、運営状態が少し心配ではありましたが、ここのところ目を見張る活躍を繰り広げています。ホークスワースは昨年のインディ・ライツで3勝している(ランキング4位)とはいえ、ルーキーの1台体制という点でも、素晴らしいパフォーマンスですね。
1909年に設立され、今年105周年を迎えたインディアナポリス・モーター・スピードウェイ(IMS)。2年後の1911年からインディ500が始まり、今回で98回目を数えます。この「聖地」で初めてインディカーのロード・コースのレースが開催されたわけですが、さすがにインディ500ほどではないにしろ、大勢の観客が集まっていました。「IMSは4万人以上の観客を望んでいる」と地元の新聞にあり、快晴に恵まれたこともあってターン1とターン4のスタンド、それにインフィールドは多くのファンで賑わいました。観客数の発表がなかったので具体的な数字はわかりませんが、地元テレビの視聴率はインディ500なみに良かったそうで、地元のインディ・ファンにも十分受け入れられたようです。これからは毎年ロード・コースのレースでマンス・オブ・メイが幕を開け、注目を集めたまま予選、そして決勝へと突入するパターンになるのでしょう。でもロード・コースのレースの翌日からインディ500のプラクティスってのは、ちょっと大変だったりして…
●決勝リザルト
●決勝ハイライト映像