INDY CAR

スコット・ディクソンがシリーズレコードに並ぶシーズン6勝目。武藤英紀はマシントラブルによりリタイア

<Honda>

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2008年8月9日(土)
決勝
会場:ケンタッキー・スピードウェイ
天候:快晴
気温:24〜26℃

全長1.5マイルのケンタッキー・スピードウェイは高速タイプのオーバルだが、路面がバンピーなためにマシンセッティングが難しいコース。今シーズンのレースを前に路面をスムーズにする作業が施されたが、依然としてバンプは残っている。それでもアクセル全開で走るのが容易なケンタッキー・スピードウェイだが、速いマシンに仕上げるにはエアロダイナミクスだけでなく、高度なサスペンションセッティングも要求される。そして、乱気流を浴びながらバンプを越えていく走りが求められるレースでは、ドライビングの難しさがさらに高まり、ドライバーたちは一瞬も気を抜くことができない。

例年に比べて非常に過ごしやすい天候となったケンタッキー・スピードウェイ。予選ではスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)がポールポジションを獲得し、2番手には強豪を抑えてヴィットール・メイラ(パンサー・レーシング)が食い込んだ。武藤英紀(アンドレッティ・グリーン・レーシング)も4番手の好位置を得た。

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ポールポジションからスタートしたディクソンに挑んだのはマルコ・アンドレッティ(アンドレッティ・グリーン・レーシング)、メイラ、ダン・ウェルドン(チップ・ガナッシ・レーシング)の3人だった。レース中盤までは、ディクソンがトップを維持し続けていたが、終盤のトップ争いではアンドレッティがリードし、メイラとディクソンがすぐ背後につける接近戦となった。しかし、彼らはフルコースコーションでも出ない限り、ゴール前に短い給油を行わねばならない状況にあった。

レースはグリーンのまま続き、トップのアンドレッティ、2位のメイラが残り10周となる190周目に同時にピットイン。ディクソンは3位を走り続けることで燃費をセーブできていたが、やはり194周目にピットへ向かい、トップの座を手放した。

これにより、それまで中団に留まっていたエリオ・カストロネベス(チーム・ペンスキー)がラップリーダーの座へと一気に躍り出た。フルコースコーション中の144周目に給油を行っていたカストロネベスは、無給油で走りきる作戦に出ていたのだ。しかし、そのカストロネベスでも、ペースを抑えた燃費走法でなければゴールに到達することは不可能な状況だった。

短いピットストップを終えたディクソンは、カストロネベスの後方約7秒の位置でピットアウト。残り周回数は5周しかなかったが、ペースを上げられないカストロネベスとの差を1周に2秒のペースで縮めていった。

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最終ラップを告げるホワイトフラッグを最初に受けたカストロネベスは、バックストレッチでも依然としてトップを保っていた。しかし、十分な燃料を搭載するディクソンの勢いにはすさまじいものがあり、スローペースのカストロネベスをはるかに上回るスピードでターン3、ターン4を回り、グランドスタンド前に入ったところでカストロネベスを抜き去った。ゴールでの両者の差はわずかに0.5532秒。ディクソンはまさにギリギリのタイミングで今季6勝目のチェッカーフラッグを受け、カストロネベスはあと一歩の差で今季初勝利をまたしても逃した。この2位はカストロネベスにとって今季7回目である。3位でゴールしたのはアンドレッティ。メイラが4位、ウェルドンが5位だった。

武藤英紀(アンドレッティ・グリーン・レーシング)は予選4番手からスタートして、序盤はトップ5を守り続けた。1回目のピットストップのあとにもハイペースを保ち、上位入賞のチャンスは十分に見えていた。ところが、周回遅れにブロックされてラインを外れたために順位を下げ、その後、早めにピットストップを行う作戦に出たが、タイミング悪くピットロードに入ったところでフルコースコーションが発生。作業を施すことを許されなかったために13位までポジションダウン。最終的にはドライブトレインにトラブルが発生してリタイアとなった。

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■スコット・ディクソン(優勝)

「今日もマシンは最高の状態だった。予選までよりも速くなっていたマシンが何台かあり、最後は作戦が勝負の決め手となる展開へと変わった。チーム・ペンスキーの作戦は見事だった。エリオ・カストロネベスとの差はコース半周分もあり、もう抜けないだろうと考えた。しかし、ゴール直前で逆転し、優勝することができたことは本当にうれしい。またチャンピオンシップに一歩近づくことができた。残るレースでもできる限りポイントを落とさない戦いを続けていく」

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■エリオ・カストロネベス(2位)

「今日のマシンはハンドリングがベストではなく、我々は最後にギャンブルに出た。チームが立ててくれた作戦はすばらしいものだったが、本当にわずかな差で負けてしまった。最終ラップのターン4を立ち上がったところで燃圧ランプが点き、アクセルを緩めるしかなかった。数百ヤードの差で勝利に届かなかったが、今日のマシンの状態からすれば2位でゴールできたことをうれしく思う」

■マルコ・アンドレッティ(3位)

「今シーズンの流れからして、3位でも喜ばなくちゃいけないのかもしれない。チップ・ガナッシ・レーシングとの差を何とかして埋めることが今の課題だ。今日のレースではディクソンにもスピードがあったが、我々はトラフィックの中での速さで優っていた。勝てるマシンにできていたと思う。今回、我々が勝てなかったのは、不運だったと考えるしかない」

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■武藤英紀(18位)

「トップ5で戦っていたのですが、汚いドライビングをする周回遅れのドライバーがいてアクシデントを起こしそうになり、そこで順位を落としました。そのあとにバイブレーションが出始めたので早めにピットストップを行う作戦に出たのですが、ピットロードヘと向かったタイミングでイエローになったためにピット作業を受けずにコースに戻るしかなく、さらに順位を下げてしまいました。そして最後はドライブシャフト関連のパーツが壊れてしまい、リタイアとなりました」

■ロジャー・グリフィス(HPD テクニカル・グループ・リーダー)

「チャンピオンを争う2人による実にドラマティックなゴールシーンだった。エリオ・カストロネベスは終盤のフルコースコーションを利用してピットインし、燃料をセーブする走りで優勝を目指していた。マルコ・アンドレッティ、ヴィットール・メイラ、スコット・ディクソンの3人はゴール目前で給油を行わねばならない状況だった。カストロネベスの燃費走法はすばらしいもので、よくあそこまで走れたものだと思う。あとコーラの缶半分ほどの燃料があったら勝てていただろう。ベストの状態にマシンが仕上げられていなくても作戦を利用して優勝争いに絡んで来るのは、チーム・ペンスキーが長年の、それも多くのカテゴリーでレースを戦って来た経験が生かされているためだと思う。しかし、今年はスコット・ディクソンの年のようだ。今日も彼らはすばらしいレースを戦っていた上、幸運は彼らの側にあった」